鉄橋の側面に設置された防風柵(資料:JR東日本)。

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強風の影響による列車の遅延、運転見合わせを極力減らすため、防風柵の設置を進めるJR東日本。風に弱いといわれがちな京葉線や武蔵野線にも多数の防風柵が設置されましたが、はたしてどれくらいの効果があったのでしょうか。

無数の穴が空けられている防風柵

 強風の場合、列車は横転などの危険があることから徐行運転を行ったり、運転が見合わされることがあります。そこでJR東日本では強風が列車に与える影響を抑え、安定した運行を実現するため、これまでに22ヶ所へおよそ163億円を投じて防風柵を設置しました。

 防風柵は穴の空いた鋼板やFRP(強化プラスチック)で造られており、これを線路の脇へ設けることで、車両にあたる風の力を弱めるものです。

 この設置により、「風速20m/sで25km/hの速度制限、風速25m/sで運転中止」だった運転規制が「風速25m/sで25km/hの速度制限、風速30m/sで運転中止」という形になることから、JR東日本は「強風による輸送障害の発生頻度を減少させる効果」が期待できるとしています。

防風柵設置でもう弱いとは言わせない? その具体的効果とは

 防風柵の設置によって運転状況がどう変化したか、橋梁が多く強風の影響を受けやすい路線として知られる京葉線(東京〜蘇我など)の場合をみてみましょう。

 JR東日本は京葉線の7ヶ所に防風柵を設置。そして防風柵設置後の状況と、防風柵を設置していなかったと仮定した場合の状況を、2013年度の1年間に集計した風速データを元にして比較。すると次のような結果が出たといいます。

■速度規制を行った時間
防風柵なしの場合は約2500分で、防風柵ありの場合は約1000分。防風柵設置により速度を規制した時間が61%減少した。

■運転中止を行った時間
防風柵無しの場合は約800分で、防風柵ありの場合は約360分。防風柵設置により運転中止の時間が55%減少した。

 また、同様に橋梁が多く強風の影響を受けやすい路線であり、3ヶ所に防風柵が設置された武蔵野線(府中本町〜西船橋)については、次の結果が出たといいます。

■速度規制を行った時間
防風柵なしの場合は約900分で、防風柵ありの場合は約130分。防風柵設置により速度を規制した時間が86%減少した。

■運転中止を行った時間
防風柵無しの場合は約100分で、防風柵ありの場合は約10分。防風柵設置により運転中止の時間が92%減少した。

 以上のように、防風柵の設置によって状況が大きく改善しています。京葉線も武蔵野線も風に弱いイメージがあるかもしれませんが、実は一昔前と比べると大きく改善しているのです。

京葉線と武蔵野線で45%

 JR東日本では現在、2014年度下期の使用開始を目指し以下の3ヶ所で防風柵の設置を進めています。

・常磐線 江戸川橋梁(金町〜松戸)
・常磐線 利根川橋梁(天王台〜取手)
・常磐線 那珂川橋梁(水戸〜勝田)

 また、これまでに設置された22ヶ所は以下の通りです。約32%が京葉線で、京葉線と武蔵野線で全体の45%を占めます。

・京葉線 江戸川橋梁(葛西臨海公園〜舞浜)
・京葉線 江戸川放水路橋梁(市川塩浜〜二俣新町)
・京葉線 花見川橋梁(海浜幕張〜検見川浜)
・京葉線 夢の島橋梁(潮見〜新木場)
・京葉線 荒川放水路橋梁(新木場〜葛西臨海公園)
・京葉線 海老川橋梁(二俣新町〜南船橋)
・京葉線 浜田川橋梁(新習志野〜海浜幕張)
・武蔵野線 江戸川橋梁(三郷〜南流山)
・武蔵野線 中川橋梁(南越谷〜吉川)
・武蔵野線 荒川橋梁(北朝霞〜西浦和)
・総武本線 江戸川橋梁(小岩〜市川)
・総武本線 荒川中川橋梁(平井〜新小岩)
・内房線 佐貫町〜上総湊
・東海道本線 白糸川橋梁(根府川構内)
・東北本線 利根川橋梁(栗橋〜古河)
・東北本線 藤田〜貝田
・常磐線 熊川橋梁(夜ノ森〜大野)
・常磐線 小貝川橋梁(藤代〜佐貫間)
・川越線 荒川橋梁(指扇〜南古谷)
・羽越本線 第2最上川橋梁(砂越〜北余目)
・羽越本線 五十川橋梁(あつみ温泉〜小波渡)
・信越本線 払川橋梁(米山〜笠島)

 ちなみに、1991年7月から東海道本線の白糸川橋梁で防風柵の使用が開始された際、「撮り鉄」のあいだで衝撃が走りました。

 白糸川橋梁は側面に小さな柵しかなく、その鉄橋を走るブルートレインなどの列車がスッキリ写せること、また相模灘を背景に鉄橋を渡る列車を綺麗に写せることから、「名撮影地」として知られていました。しかし防風柵の設置により、列車が柵で隠れるようになったのです。

 ただ安全と安定輸送のためですから、撮り鉄は柵があっても列車が綺麗に写せる新しい構図を開発。現在も白糸川橋梁は、緑の山にと青い海に赤い鉄橋が映える「名撮影地」となっています。