20代から30代の原発作業員たちへの取材を一冊の本にまとめた久田将義氏

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 福島第一原発が爆発してから1年がたった。現在に至るまで、さまざまな報道がされているが、そんななか、ほとんど聞こえてこなかったのが震災以前から原発内部で働いていた作業員たちの声だ。彼らは今も放射線を浴び続けながら、現場の最前線に立ち、復旧作業にいそしんでいる。被災者でもある彼らは事故の日、いったい何を見て、何を思い、そして今、何を考えているのだろうか。そんな作業員たちの声を取材したのが久田将義の著書『原発アウトロー 青春白書』だ。

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――タイトルの「アウトロー」というのはどんな人をさすんでしょう?

 文字どおり「不良」ですよ。取材したのは20代半ばから30過ぎの6、7人ですが、素性をぼやかすために3人の語りにしました。タトゥーや刺青も派手に入っている人もいますし、若い頃、ヤンチャしてたという話も聞きました。

――そんな彼らが、本ではあけすけにしゃべっていてとても驚きました。

 最初は「なんだ、こいつ?」という感じでした。でも、僕は以前、『実話ナックルズ』というアウトロー誌の編集長をやっていて、その話をしたら、「読んでます」と笑顔を浮かべ、話してくれました(笑)。大手メディアからの取材は全部断っていたというから運が良かったのかもしれませんね。

――3・11の原発内部で何が起こっていたのか。方言で語られる様子が、実に生々しいです。

 あえて語り下ろしの体をとったんです。例えば彼らは放射線を浴びることを、線量を「食う」と言います。そんなさりげない言葉から浮かび上がる彼らの日常を、原発現場を含めて伝えたかったんです。

――今回の事故で政府や東電の対応について、現場がいかに批判的だったかがわかります。

 3・11時点ですでにわかっていたメルトダウンを5月まで公表しなかったり、放射線を浴びても危険でないことを示すよう、単位や基準値を突然変えたり。現場は全部わかってますからね。取材中も「東電? クソっすよ!」「政府は隠蔽ばかり」と、よく言ってました。

――復旧作業に従事するレスキュー隊や自衛隊が、現場の人からは冷ややかに見られていることもあるというくだりは特に意外でした。

 美談として語られることが多いですけど、実際は線量も低い所ですし、滞在時間も短い。なのに現場の態度だけは大きい。朝から晩まで汗まみれで働いてる作業員からしたら、こいつら何?と思って当然ですよ。今回取材したひとりの父親が「おまえらは名もないヒーローだ」と言っていたそうですが、僕も同感です。

――彼らは、誰よりも早く危険を察知し震災直後は避難するものの、結局、原発に戻り復旧作業に務めます。

「俺らがやらないで誰がやるんだべ」と言っていました。ある種の使命感と生活のためでしょうね。でも、いくらやっても良くなるあてもないし、汚染された故郷に帰れそうもない。日当も最初は8万円だったのが、1万5000円になり、今では8000円なんて人もいる。被曝量も増える。今はモチベーションが下がっているようですが、当然です。「子供が欲しいから、これ以上(線量を)食いたくない」「何やってんの、うちら。もしかしたら寿命が縮まってるのかもしれないんだぜ」。あるとき、つぶやいた言葉が印象的でした。

――昨年末に野田総理が原発収束宣言をしましたが、本書の最後で、全員が大きく否定していましたね。

 国際公約で宣言してしまったとはいえ、こんな早く出せるはずがない。激しい怒りを覚えます。現場では見通しの立たないなか、復旧作業をしてるんです。この本を出して間もなく外国人記者からの取材を受けたんですが、今や福島の事故は日本だけの問題ではありません。事故現場でいったい何が起こっていたのか。隠蔽されている事実もまだあると思いますが、すべてを公にするため、一石を投じられたらうれしいです。

●久田将義(ひさだ・まさよし)
1967年生まれ。2000年、ミリオン出版に入社。翌年、『実話ナックルズ』編集長に。2007年から『週刊朝日』編集部に1年在籍した後、ミリオン出版に復帰。現在は『実話ナックルズ』編集局次長。著書に『トラブルなう』(ナックルズ選書)がある。

■『原発アウトロー 青春白書』(ナックルズ選書/1050円)
震災前から、“地元”の福島第一原発で働いてきた若者たちのインタビュー。彼らは幼い頃からどのような風景を見て育ち、どんな場所でヤンチャをしてきたのか。そして、原発の中で日常を送るとは。彼らの話し言葉から克明に見えてくる。

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