【石井紘人レポート】ブラジル対コートジボワール「倒すための戦略はあるか」
蝶のように華麗なわけではない。ただ、その威力は蜂の比ではない。それはまるで鷲のようだ。遠くにいるからといって気を抜くと、急転直下で舞い降りてくる。ピンチだと気づいた時にはもう遅い。今回のブラジル代表はそんなイメージだ。
コートジボワールは3失点を喫したが、決して守備ブロックを乱されたわけではない。ブラジルのポゼッションに対し、自陣にブロックを作り、バイタルエリアに蓋をしていた。 「我々はとても組織立っていた」とコートジボワールのエリクソン監督が語ったように、アフリカ特有の緩さやイージーさは一切なかった。
それでも、ブラジルはバイタルエリアにボールを入れてくるし、その先の強固なブロックも崩してくる。
しかし、ブラジルは、そのどちらにもあてはまらない。
今回のチームは、典型的なブラジル代表とは違い、決して魅せるシーンが多いわけではない。集まった84,455人の観客も実はほとんどの時間を退屈そうに過ごしていた。ゆえにブラジルメディアもドゥンガ監督に好意的ではないのだろう。
では、ブラジルメディアが言うように「カウンターアタックだけ」なのかといえばそれも違う。カウンターアタックだけなら、引いた相手は崩せないし、なによりコートジボワールのリトリートした守備を崩すことはできなかったはずだ。
では、どうして得点が生まれるのか。それはブラジル伝統の力といえる。何人かのタレントのイマジネーションの力で崩す。今回でいえば、カカ、ロビーニョ、ルイス・ファビアーノのイメージさえ合えば、なにもないところからゴールを生み出せてしまう。ドゥンガは守備的なチームにしようとも、その伝統だけは消えないようにしている。ロビーニョやカカが得意ゾーンである左サイドで多くプレーできるフォーメーションにしているのがそれを物語っている。
ドログバもそんなブラジルの攻撃に舌を巻くしかなかったようだ。なぜ得点を奪われたかという原因を探すのは不可能で、「それがブラジルで、ゆえに最強なんだ」で片付けるしかない。
2006年ドイツW杯では、ブラジルは攻撃が噛み合う前に得点を奪われてしまい、さらに「相手のボールを奪うことができなかった」(フランス戦後・カカ)ため、攻撃もできなくなってしまうという悪循環に陥った。
その教訓を活かしてか、ドゥンガ監督は先制点を奪われないようにマネジメントしているし、攻撃陣が得点を奪えるまで耐えられる強固な守備ブロックを作っている。
実はこれこそが今回のチームの肝だ。カカやロビーニョばかりが注目されるが、特筆すべきは、欧州チャンピオンズリーグを制覇したインテルの守備陣、GKジュリオ・セザル、右サイドバックのマイコン、センターバックのルシオがいること。さらに現役時代のドゥンガさながらに、ジウベルト・シウヴァも守備の舵取りとして配置し、エリクソン監督に「守備が強い」と言わしめた。ゆえにコートジボワールは「パーフェクトな試合をしなければブラジルには勝てない」と白旗をあげたのだ。
とは言え、鉄壁と思える守備陣も、試合が決まったと思うと気を抜くブラジル伝統の悪癖は抜けていない。北朝鮮戦、コートジボワール戦で緩慢な失点を喫したように、隙がまったくないわけではない。
ただ、おそらくまだ彼らのコンディションは70%程度だ。これからどんどん上がってくるだろうし、あのドゥンガがそんな伝統を放っておくはずがない。
人間が獣を倒すために矢を生み出したように、多くのチームが打倒ブラジルを掲げ、様々な戦略を生み出してきた。今回のブラジルを倒す策はどのようなものなのか。自分が監督ならばどうするか。考えながらみるのも面白い。(了)
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