6月5日のイベントで集まった来場者の前で講演したセルジオ越後氏(撮影:今井康一)

いよいよ6月14日に開幕が迫ったロシアワールドカップ(W杯)。日本代表は6月19日に初戦のコロンビア戦を迎える。そこで東洋経済オンライン編集部は6月5日、東京・御茶ノ水にセルジオ越後氏を招き、「東洋経済オンライン TREND CAMP」を開催した。「緊急提言!日本代表が残り2週間で出来ること」とのテーマで語ってもらった刺激的な提言をダイジェスト版でお届けする。

――いよいよW杯の開幕が近づいてきました。日本代表はグループステージの初戦にコロンビアと対戦します。初戦まで本日(6月5日)から数えて2週間後となりますが今の日本代表をどのように見ていますか。

一発勝負で何が起こるか分からないと言われていますが、W杯は一発勝負ではないと言うことは最初に伝えたいと思います。グループステージで3試合をやるのです。レベルの差があるとはいえ、仮に1試合は勝つことができてもやはり3試合勝つことは簡単ではありません。

4年前のブラジルW杯では日本だけでなく、アジアの出場国は1勝もしなかったのです。日本は「アジアにいる国」ということを忘れてはいけません。

今の日本代表に「錯覚」をしてはいけない

組み合わせ抽選のポッド1・2・3・4というのは明確な実力分けであり、世界ランクが低い日本はポッド4にいます。


セルジオ越後(せるじお・えちご)/1945年ブラジル・サンパウロ市生まれ。日系2世。18歳でサンパウロの名門クラブ「コリンチャンス」とプロ契約。1972年に来日し藤和不動産サッカー部(現・湘南ベルマーレ)に所属。エラシコというフェイントの創始者といわれる。(撮影:今井康一)

W杯に出場できない国がある中で6大会連続出場を果たした日本を「他の国に比べて強くなった」と錯覚をしてしまうことがいけないところです。

前回のブラジル大会での惨敗後、日本はロシアW杯に向けて出場常連国レベルの国と、どれほど試合を組んだのでしょうか?

分析というのは冷静にすべきであり、アジアの中で勝っていても強くはなりません。

負けて「どうすれば強くなる?」という問いを突きつめることで初めて強くなります。日本代表をポジティブに考えるだけでは反省は始まりません。

――5月31日に日本代表23人のメンバーが発表されました。南アフリカW杯や前回大会経験者も多く選出され、若手選手たちが落選したベテラン主体の選手構成に見えます。代表メンバーのリストを見て率直にどうお考えですか。

日本のメディアは「ビッグ3」と選手をもてはやしますが、なぜポッド4の国がビッグな選手を持っているのでしょうか? 彼らが世界的にも通用するビッグ3というなら、日本はポッド2くらいにまで世界ランクを上げなければおかしいはずです。やはり興行的側面もあり、強く見せておかなければいけないというジレンマがあることは分かります。


イベント応募者から募ったアンケートをもとに解説したセルジオ越後氏(撮影:今井康一)

また、(井手口陽介や浅野拓磨など)若手が落選し、年齢の高いベテランが優遇されたといわれていますが、選ばれたベテラン選手たちには何も責任がないと考えています。

今回の代表選出はこれまでの日本サッカーの流れを分析するには、非常に重要な選び方といえるでしょう。

育成という意味での在庫が減り、ベテランと言われる彼らを上回るスターがいない国になった。本来であれば、過去の大会を経験しているベテラン勢と、若手とを上手く融合して若手を国際舞台に慣らしていくという取り組みを長い時間をかけてやっていかなければならなかったのです。そういう意味では強豪国に勝つ強いチームを作るといった長期的な対策を協会(日本サッカー協会、JFA)もやっていかなければいけません。

グループステージの戦い方は?

――初戦で当たるコロンビアは4年前のブラジル大会で1-4で惨敗した相手です。さらに2戦目のセネガル、3戦目のポーランドとはどのような戦い方が日本代表には必要でしょうか。

弱いチームが強いチームに勝つためには11人で引いて、守る戦いが必要です。西野朗監督が4月に就任し、初戦となったガーナ戦(日産スタジアム)では3バックの布陣なども試していますが、11人対11人のゲームで固定したシステムというのはありません。相手が攻めてきたら、5バックになってボランチも両サイドも下がって全員で守るしかないのです。

さらに、W杯は6人交代が許される国際親善試合とは異なり3人交代制です。誰かがケガをした際に備えて1人置いておくと考えれば、実質交代できるのは2人しかいないのです。その点も踏まえて「ポッド4」の戦い方を徹底しなければなりません。初戦の結果も踏まえ、2戦目については精神的な立場と戦い方を変えなければなりません。


読者の方々が予想したグループステージ勝敗をもとに解説したセルジオ越後氏(撮影:今井康一)

前回大会では、コロンビアは予選突破している状態で3試合目に日本と対戦しました。今回とは逆です。

W杯でのグループステージは得失点差も重要であり、今回コロンビアが格下相手にどんな試合をやってくるのかは誰もが想像がつくと思います。

グループステージを戦う上で負けられないのは2戦目です。セネガル相手に勝ち点3を獲得できなければ突破は難しい。ただ、今の日本代表に3試合圧倒する力はありません。もし、そんな力があれば、まだハリルホジッチ氏(前監督)が続投しています。

監督解任の余波はまだ尾を引いている

――後任として就任した西野朗監督のもと、W杯に向けた準備を進めていますが、国内最後のテストマッチとなったガーナ戦ではベストメンバーではない相手に0-2と惨敗。ネガティブな声も高まっていますがチームの状況をどのように見ていますか。

結局はW杯直前時期の監督解任と西野監督就任は、突貫工事の人事だったわけです。ハリル氏の技術委員長の立場にいて、監督解任という形で自身の顔を潰されたら「私も辞めます」というのが普通でしょう。

協会の体質として会長がすべて決めるという考えがあったのではないでしょうか。

ただ、ひとつ誤算だったのは、監督解任に対して世間がここまで問題視すると思っていなかったということです。2カ月前の解任問題が未だに尾を引いており、最後の準備に取りかかる現在の代表の雑音になってしまっています。

現在の日本代表には1戦目のコロンビア戦で負けたらチームが崩壊してしまうというくらい強いプレッシャーがかかっているでしょう。W杯で戦えるチームというのは急にできるわけではありません。

8年前、4年前から着実に積み重ねていく長期的な努力が必要です。ロシアまでもう残された時間はありません。いくら監督を替えたからと言っても、そう簡単に奇跡は起こらないでしょう。

ですが、次のカタールW杯まであと4年あります。だから4年間過ぎた後に「まだ1カ月あるから十分に修正できる」というセリフだけは避けて欲しいですね。

選手を強化するためにはピラミッドの頂点だけを強化しても意味がありません。ピラミッドの底辺を拡大し、かつ強化することで、頂点がより際立つのです。

層の厚さ、海外に比べた競争文化の違いなども有りますが、今の日本の制度のままでは海外の強豪国のようなチームを作るのは難しいと言うことを忘れてはいけません。

学歴を重視する日本社会や学校の部活制度の改革、補欠制度を廃止して人材を増やすなど、強い選手を輩出するためのピラミッドをたくましくする努力が必要です。これはサッカーだけの話にとどまらず日本のスポーツ界全体の課題です。

結果を出すことに集中して欲しい

――最後になりますが、このロシア大会に挑むメンバーにはどのような戦いを見せて欲しいと考えていますか。

今回選出されたベテラン勢には最後のワールドカップになる可能性が高いです。だからこそ、すべてをかけて、「最後の最後に俺らはW杯できちんと結果を出した」といえるように集中してやって欲しい。コロンビアとのリベンジも「根性があるなら返せ」といいたい。日本代表はこんなものじゃないというところを見せられる試合をして欲しいと思います。


当日、会場に集まっていただいた読者120名と一緒にセルジオ越後氏を囲んで記念撮影(撮影:今井康一)

そして日本代表の初戦は19日(日本時間21時)から始まりますが、14日から開幕する他の国の試合も見て、日本とどれくらい違うのか? 何が足りないのかということを比較しながら試合を見て欲しいと思っています。4年に1回の結果だけで色々と言っても仕方がないのは事実。その結果を見守ってください。私も結構長く見守っていますから。

(文中一部敬称略)