ブンデスリーガ第25節。前節、バイエルンがマインツに敗れ、急遽天王山となったドルトムント対バイエルンの一戦はスコアレスドローに終わった。

 それまでの勝ち点差は8。決して逆転不可能な数字ではないが、今季のバイエルンの強さと、グアルディオラの今季限りでの退団という事情を考えると、現実的には難しい差と思われた。それがマインツといういわば伏兵の勝利で、状況は一変した。しかし結局、ドルトムントは差を縮めることができず勝ち点差は5のまま。トーマス・トゥヘル監督は「勝っていたとしても勝ち点2差で追う立場だった。0−0は落ち込む結果ではない」と、複雑なコメントを残した。

 トゥヘルが就任してからのドルトムントは、バイエルンを意識しすぎているという印象が強い。リーグ戦前半の対戦では、当日の判断により0トップで臨み、前線からのプレスを強化した。だが昨季の自信のなさを引きずっていたドルトムントにとって、急な戦術変更をこなすのは難しく、5−1の大敗を喫している。うまくいき始めていた4−3−3でやっていればもう少し試合になっていたかもしれない......と思わせるほど、チグハグな戦いぶりだった。

 そしてこの日は5バックを採用。そのため「10番を置かないことにし、心苦しいが香川真司はベンチに入れなかった」(トゥヘル)という。後半戦に入っていくつもの組み合わせを試しながら、まったく新しい布陣、そしてホームでありながら後ろに枚数を割いてバイエルンを迎え撃ったというわけだ。トゥヘルは「守備の規律が大事だった」とも話している。

 香川のベンチ外についていえば、大方のドイツメディアにとっては想定内だったかもしれない。前節ダルムシュタット戦で17歳のフェリックス・パスラックを先発させる一方、ベンチスタートの香川には出場機会がなかった。さらにこの試合ではマルコ・ロイス、ウカシュ・ピシュチェクはベンチ外。ベンチ入りの枚数を数えれば自然と構想外だったことがうかがえる。

「10番を置かないことにしたからベンチ外」と言うが、同じ攻撃的MFのモリッツ・ライトナーやゴンサロ・カストロはベンチ入りしているわけで、彼らよりも現状では優先順位が低いのは明らかだ。もしくは、いくつかのシステムを試す中で、香川は10番しかこなせないとトゥヘルが捉えている可能性も考えられる。

 実際、香川は後半戦に入ってパフォーマンスがまったく上がらず、苦しい状況が続いている。状況は前半戦とはまったく違うのだ。

 試合に関しては、前半はドルトムントペースで進んだ。ペップ・グアルディオラが「前半25分は問題だらけ」と言えば、トゥヘルは「最初の30分間はすばらしかった」と応じた。ハーフタイムの時点でポゼッションはほぼ互角。これはバイエルンにとっては苦しい数字だ。

 一方のドルトムントはうまくボールを奪い取ることができ、カウンターにつなげられたとしても、最後の精度を珍しいほどに欠いた。オーバメヤン、ロイス、ミキタリアンら攻撃陣全員に、他のチームが相手であれば確実に決めているであろう決定機が訪れた。どこか前線でのちぐはぐぶりが目立った。このことは「少し焦って正確性を欠いた」とトゥヘルも認めている。

 後半に入って本来のバイエルンに戻ったかといえば、彼らもまたゴールが決まらない。残り15分でフランク・リベリーを投入しても、糸口は見つからなかった。ペップが会見で名を挙げて称えたのは21歳のヨシュア・キミッヒだった。本当は攻撃的MFだが、故障者続出で手薄になった最終ラインをデビッド・アラバとともに支えた。ペップによれば「将来のドイツ代表選手」。だが守備を称えるということは、攻撃での収穫がなかったことの裏返しでもある。

 リーグ戦最大の敵であるドルトムントを相手に、不調でも敵地で勝ち点1を手にしたバイエルン。どこかバイエルンを意識しすぎて奇策に走ったドルトムントは勝ち点2を逃した。リーグ戦残り9節への興味を持続させるには、違った結果がほしかった。

了戒美子●文 text by Ryokai Yoshiko