米サンディエゴ・パドレスが、埼玉西武ライオンズのアンダースロー投手、牧田和久に熱視線を送っている。
　22日に行われた対広島東洋カープ第１回戦では、トレバー・シュム環太平洋地域コーディネーターと、ライアン・ドリース国際スカウトが視察。お目当ての牧田は初回、打球が直撃をし、緊急降板したが、シュム環太平洋地域コーディネーターは「降板は残念だが、また何度も見る機会はある」と話した。



　言うまでもないが、アンダースローの投手は少ない。1845年にアレクサンダー・カートライトが策定したルールでは、投手は皆下手投げが義務付けられていたが、度重なるルールの見直し、腰への負担の懸念、そして1920年に起きたニューヨーク・ヤンキースのサブマリン、カール・メイズによる不幸な事故などで、投手の腕は上へ上へ上がっていった。

　現役のサブマリンでは、わが国では牧田の他、千葉ロッテマリーンズの渡辺俊介、福岡ソフトバンクホークスの山中浩史、三浦翔太、米メジャーリーグではアリゾナ・ダイヤモンドバックスのブラッド・ジーグラー、クリーブランド・インディアンスのジョー・スミス、ボルティモア・オリオールズのダレン・オデイが思い出されるが、やはり絶対数は少ない。

　そんなサブマリンだが、プロになってから始めた投手がいる。西鉄ライオンズの島原幸雄だが、投手コーチの小言にキレて、腕を下げた。

　島原は1952年、テスト入団でライオンズと契約したが、球は速いが、とにかくコントロールが悪かった。１年目からプロデビューを果たしたが、制球難から１軍に定着することができなかった。
　島原は気も弱かった。後から入団した河村久文、西村貞朗らが１軍に定着すると、「俺、駄目なんだな」と自らを卑下。プロ２年目の1953年には、高橋ユニオンズに移籍した武末悉昌からエースナンバーの背番号18を譲り受けたが、「恥ずかしい」を連発し、ますます内気になった。

　おおよそ投手に不向きな島原の荒治療に乗り出したのが、石本秀一投手コーチだ。
　大阪タイガース（現在の阪神タイガース）の監督時代にはスパルタ教育で知られた石本コーチは、ライオンズでも血気盛ん。練習では大量のツバを飛ばしながら投手の指導にあたり、試合では自分の指示に従わない投手には、三原脩当時ライオンズ監督よりも先に降板を命じる。判定が厳しい二出川延明審判員は天敵で、抗議を域を越え、怒鳴り合いに発展したこともあった。

　そんな石本コーチの下で、はたして島原がどうかわるのか注目が集まったが、人間、そう簡単には変わらない。島原の制球難はいっこうに改善せず、1955年には石本コーチもついに怒りを爆発させた。
　「おい島原。あんたは頭が悪いけん、投手は駄目じゃ。わしが２年間教えてきたが、あんたはなんも覚えとらん。あんた、野球をやめて田舎へ帰って百姓でもせんかのう。その方がいいで」。
　さすがの島原も睨みつけたが、石本コーチは一向に意に介さない。「あんたはなんぼ投げても一緒。キャッチャーがかわいそうなだけだよ。もうやめんさい」。

　この一言にキレた島原は、懇親の一球をいつものオーバースローではなく、アンダースローで投げた。はたしてボールは、今までは狙っても投げれなかった外角低めに伸びて決まった。隣で見ていた河村も、惚れ惚れとする一球だった。
　すると石本コーチも、一変。「あんた、あの球じゃ。あんないいボールが出るなら、今からアンダースローで投げんさい。げんに（本当に）いいボールよのう」と、手放しで褒め称えた。

　かくして島原はサブマリンに転向。それまでプロ通算９勝だったが、1956年には74試合に登板し、25勝をあげ、ルーキーの稲尾和久、畑隆幸とともに、ライオンズ投手陣を支えた。