「日本は、地方などでギリシャ化が進行中です」と語る原田氏。

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 消費税増税論議がかまびすしい。復興財源法の根拠である内閣府の推計では、原発事故の被害を除いて、東日本大震災による建物や道路などの被害額は16.9兆円だというから、増税も避けられないと思うかもしれない。

 しかし、その試算に疑問を呈するのが早稲田大学教授で『震災復興 欺瞞の構図』の著者である原田泰(ゆたか)氏。原田氏は、震災の被害額は4.8兆円で、増税など必要ないと説く。

――そもそも政府の、過大な被害額のカラクリとは?

 福島・宮城・岩手の人口は571万人ですが、すべての人が被災したわけではありません。3・11の津波による浸水地域の人口は51万人。一方で、住宅や工場、道路などの物的資産は日本全体で1237兆円(2009年)で、日本人ひとり当たり966万円です。ここから考えると、東北3県で破壊された物的資産は、966万円×51万人の約4.8兆円ではないでしょうか。

――津波被害のなかった場所でも、家屋が壊れたりして被災した人がいるのでは?

 地震の揺れで全壊した建物もあるでしょう。しかし、私が被災地を見た限り、老朽化した建物であることが多い。つまり、あと10年もすれば震災がなくても建て替えなければならなくなるような、資産的価値が小さいものです。

――政府の試算は、そういった資産的価値があまりないものも過大に高く見積もっているということですか。

 そうです。そもそも、16.9兆円という政府の試算には、詳細な根拠はありません。日本政策投資銀行も被害額を16.4兆円と推計していて、こちらは政府よりも細かく被害額を出しています。これを見ると、建物は「再調達価格」といって、これから新たに家を造り直すコストで計算しています。

 洪水でも雷でも家は壊れます。未曽有の震災とはいえ、公共施設ならともかく、被災者に新品価格で家を補償するのは妥当とはいえません。

 今議論されている高台移転も、建物のお金は別で、一軒当たり約3000万円の造成費がかかるとされています。政府がやろうとしていることには、コスト意識が欠けています。

――では、どのような復興策が望ましいのでしょうか。

 車や漁船は中古があります。工場や住宅は新たに造り直さなければなりませんが、そのお金は満額を補償するのではなく、一部を貸し付ける形にします。新しく造れば、前の工場よりも維持費や修繕費が安くなる。その分で、借金を返していけばいい。家なら、死後の所有権を生前に売る方法もあります。ビアジェという、フランスでは古くから行なわれている制度です。

――コンパクトに復興する方法はあると。では、政府はなぜ大盤振る舞いをしようとしているのですか。

 政治が、人々を政治に依存させようとしているのです。生活を再建した人は自立し、政治には依存しません。そんな状況は政府にとってつまらない。人々をいつまでも補助金頼みにしておけば、そういう人は簡単に政治がコントロールできる。これは、経済破綻が叫ばれるギリシャと同じです。

 財政赤字がギリシャの問題なのではありません。人々が政治に依存し、コネなどの政治的な影響力で自分の生活を守るしかなくなっていることがギリシャの一番の問題です。日本は、地方などでギリシャ化が進行中です。今の復興のあり方では東北のギリシャ化が加速するでしょう。

 私は復興のために税金を使うことに反対しているわけではありません。効果のないこと、不合理なことに税金を使い、それを口実に増税しようとしていることに反対しているのです。

●原田泰(はらだ・ゆたか)
1950年生まれ、東京都出身。早稲田大学政経学部教授、東京財団上席研究員。1974年、東京大学農学部卒。経済企画庁、財務省、大和総研などを経て現職。著書に『日本国の原則』(石橋湛山賞受賞、日経ビジネス人文庫)など

『震災復興 欺瞞の構図』(新潮新書/714円)
日本人のひとり当たりの物的資産は1000万弱。しかし、阪神大震災からの復興には被災者ひとり当たり4000万円の税金が使われ、東日本大震災の復興では4600万円が浪費されようとしている。復興の大合唱の裏にある、政府のたくらみを暴く。

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