意識の高かったドーハ世代と今のなでしこは一緒〈ニッポン放送サッカーパーソナリティ座談会 part1〉
2012年、今年は日本サッカー界にとって非常に大事な1年だ。6月にはW杯ブラジル大会を目指したアジア最終予選が始まり、夏には五輪の舞台でなでしこと若き日本代表が世界と戦う。そして、そんな代表を支えるJリーグは今年、20年目の節目を迎える。そこで、長年日本サッカーを見続け、伝え続けてきたニッポン放送煙山光紀アナウンサー・洗川雄司アナウンサー２人のサッカーパーソナリティと、同じくニッポン放送サッカー中継チーフディレクター木之本尚輝氏に、代表のこと、今年のJリーグのこと、そしてサッカーを伝えることの難しさをうかがった。全4回のサッカーパーソナリティ座談会、まずは日本代表の話から……
＜日本中が勝つと思ってる時って、だいたい何か起きるんです＞
煙山 ワーストゲームですね。
─── えっ、ワースト!？
煙山 この前のウズベキスタン戦でしょ。ワーストゲームですよ。でも、みんな楽勝すると思ってたでしょ。そういう時ってヤバいんですよ。
洗川 確かに、そんな空気はありましたね。
煙山 まあ、僕も思ってましたから（笑）。日本中が勝つと思ってる時って、だいたい何か起きるんですよ。ウズベキスタンっていう相手を見てないんですよね。2002年のW杯の時も、決勝トーナメントのトルコ戦が始まる前、日本中がトルコをなめてたんですよ、トルコ強いのに。「その次はセネガル戦だ！」ってもう次の話してるんです。僕も取材やレポートしてましたけど、日本中が「トルコどうでもいいでしょ」っていう雰囲気なんですよ。僕は一応アタマではわかってたから「そんなことないですよ、強いですよ」って一生懸命言ってたんですけど、もうそうしたうねりになっちゃうと、絶対代表に伝染するんですよ。
洗川 結果的にトルコには負けちゃいましたもんね。
煙山 今回も、代表の選手たちは気を引き締めようとしてたと思うんですけど。まあ、宮市選手が騒がれてて、1点先制すればいい形で途中から使えるね……みたいなイメージをみんなが持ってる時はあんな結果になっちゃうということで。だから、全然心配してないです。ウズベキスタンって元々強いので、ちょっとコンディションが悪かったり、持って行き方が悪かったりするとあんな風になっちゃうな、という感じでした。
洗川 代表戦は6月までなくて、間隔が空いちゃいますよね。
煙山 そうなんだよね、テストマッチもないみたいだし。まあ、僕はザッケローニ監督をすごく買ってるので、上手くやってくれるだろうとは期待してるんですが。そういう意味では、最終予選で強いグループに入る可能性が出てきたので、2連敗して逆に良かったかなぁと。今ってあまりにもW杯への道が広くなっちゃって、今回の最終予選ですら各組2位までがW杯に行けちゃう。そうなると、予選のカタルシスだったり、予選で選手が鍛えられるということがすごく薄くなっているので、ある程度厳しいグループに入った方が代表も成長出来るんじゃないかと。五輪代表も苦しんだことで成長出来てると思うし、この後もしプレーオフまで行っちゃっても、予選で苦しむっていう経験でさらに成長できて、本番では上手く入っていけるんじゃないかなと。だから、前向きに考えていいんじゃないですかね。
＜ガンガン来られると、日本の男子って慌てちゃう＞
─── 今、特に気にかけている選手は誰になりますか？
煙山 ミーハーですけど、宮市選手ですね。あのスピードは絶対に使って欲しいですよね。そういう意味でいうと、ウズベキスタン戦に出てほしかったなというのはありますけど、あの展開じゃ出せないっていうのもよくわかるんで。まぁ、ザッケローニ監督って短い時間でパッとこうコーディネートするの凄く得意ですから、うまくはめてくれるんじゃないですかね。
洗川 でも、日程の話になりますがどこかで使いたかったですよね、6月の最終予選の前に。去年の暮れに日本サッカー協会でスケジュール発表の記者会見があったんですけど、他の記者の方からも試合間隔が空いてしまうことへの質問は出ていたので、今回の敗戦によってちょっとした不安に変わらなければいいなぁと感じるんですが。しかも、6月の試合がいきなりの3連戦なんですよね。
木之本 6月3日、8日、12日ですね。
洗川 最終予選をホーム2試合からスタートできるっていうのは、僕はアドバンテージだと思っているので。そこを乗り切ってくれれば、流れには乗れるのかなぁと。まあ、相手次第ですけどね。仮にオーストラリアなんかが一緒の組に入ってくるとどうなるのかなぁという不安はありますけどね。アジア予選以外の代表スケジュールに関して言うと、今年はキリンカップがなくて「キリンチャレンジカップ」という形で先月のアイスランド戦と、あとは8月（15日）と9月（7日）に1試合ずつ組まれています。あとは10月にフランスに遠征がありますね。
木之本 ヨーロッパ遠征は久しぶりで、楽しみだよね。
煙山 そうですね。海外でやるのと日本でやるのとでは、経験値という意味でもやっぱり全然違いますので。それに、ヨーロッパ組がそのまま出れますからね。今回のウズベキスタン戦は、ホームなのにアウェイみたいな状態だったから（笑）。コンディション悪かったですね。
洗川 ですね。でも、リーグ戦の真っただ中って考えると、どーなのかという……
煙山 まあ、そこがまだひ弱なのかなぁっていう。僕、「代表」って日本人の反映、国民のうつし鏡だと思ってるんですよ。男は弱いけど、女が強いっていう（笑）。
洗川 シュートの本数なんかでも、アルガルベ杯を戦ったなでしこの方が積極的にチャレンジしてる印象はあります。ウズベキスタン戦も日本代表はシュート自体が少なかったですよね。
煙山 なんかキレイにやろうとしてる感じがしましたよね。実力はやっぱり日本のほうが上だと思うんですけど、ウズベキスタンはゴールに積極的にガンガン来るから。日本はああいうのが嫌いなんだろうなって思いましたね。アウェイでも結構やられてたし。ガンガン来られると、日本の男子って「おぉぉ」って慌てちゃうから。そういう意味でも、日本の男だなぁと思って（笑）。
＜意識が高かったドーハ世代＞
煙山 なでしこに関して言うと、アテネ五輪の予選の時も、最後に北朝鮮戦とやった国立の試合をニッポン放送で中継したんですけど、サポーターの応援なんかそばで聞いてたらもう泣いちゃうくらい必死なんですよ。当時のなでしこなんてまだ「なでしこ」という名前が付いたばっかりの頃で、お客さんも満員までは行かず3万人くらいなんですけど。
木之本 北朝鮮にしても鳴り物で凄い応援をしていて。当時の北朝鮮と日本の政治的な緊張関係もあったから、凄い物騒な雰囲気でしたよね。
煙山 なでしこジャパンはその時から取材してるんですけど、生活するのが精一杯な人ばっかりなんですよね。普通に働いて、終わってから電車で2時間くらいかけて練習場に移動して、ナイター練習をやって。で、また朝から働いて。その繰り返しで彼氏も出来なくて、出来そうになっても次の日の練習のこと考えちゃって続かないっていう。今、日本ってハングリーさがないってよく言うじゃないですか。でもあるんですよ、実は。だから、彼女たちはあれほど騒がれても舞い上がらないし、逆境でも……この間の五輪予選なんかも酷い試合スケジュールで、予選が始まるまでも取材取材取材取材で。あれ、男子だったら「こんな調整不足で、こんなスケジュールで、勝てる訳ないだろう！」「こんなピッチコンディションで負けても俺たちのせいじゃないだろう」って自分で自分に言い訳すると思うんです。でもあの子たち、そういうの思ってないんじゃないかなと。その逞しさはもう男子とは全然違う。
─── それが、今のなでしこの強さですか。
煙山 無茶が当たり前なところでやってきた人間と、ユースの時からホペイロがいたり高級ホテルに泊まったりっていう恵まれた環境にいた人間とじゃ、どっちがスポイルされやすいかっていうのは明確ですよね。だから外国の監督なんかは、「五輪の若い選手を取り上げて騒がないでくれ！」ってみんな口を揃えて言いますよね。「こんなの何でもないんだ。こんなの子供の大会だろ」と。日本ってやっぱり若い子をスポイルしやすいというか、ヒーローが現れたらワーワーワーと騒いでしまって……まあ、僕らもその一翼を担っているのかもしれないですけど。でも、今の五輪代表の子なんて凄くしっかりやってますけどね。意識も高いし。それって、教育とかにも被ってくるんじゃないのかなぁと思っていて。本田選手や長友選手とかの北京世代がいい例だと思うんですけど、全部の教材があっていい先生がいていい食事ばっかりっていうよりも、マスコミから「谷間」ってレッテル貼られて、大会でも勝てなくて人気もなくて……っていうほうが、いい時ほど気をつけなきゃいけないっていう意識が上がってると思うんですよね。
洗川 北京世代が中心になって代表が逞しくなってますもんね。
煙山 だから、一番最初のドーハ世代って意識が高かったと思うんですよ。会社員経験もあって……今のなでしこみたいなもんですよね。1993年にJリーグが開幕していきなり脚光を浴びた訳ですけど、「サッカーなんて……」っていう時代でやってきた人間で社会人で経験も積んでいたから、そんなに舞い上がらなかったと思うんですよね。だから、あのチームってすごく愛されたじゃないですか。身近な兄ちゃんたちがヒーローの階段を駆け上がって行ったような。本田選手や長友選手たちって、今でこそエリートみたいになってますけど、そういう感覚が近くなればいいなぁと思って。でも、実は今の子はそういうことがちゃんとわかっていて、日本にいるとやれないから海外に行って人工的にやってるのかなぁと。まあ、僕が勝手に思ってるだけですけど。だから、今の世代の方が僕は買っていますよ。
（オグマナオト）
part2へ続く
