『むすんでひらいて 5』水瀬マユ/マッグガーデン
第2巻に登場した黒魔術好きの美少女・雨宮ありすが再登場する、最新第5巻。また、『むすひら』では初めてとなる、大学生メインキャラクターの青山翼が初登場。人気アイドルのMIUと運命的(?)に出会います。(C)Mayu Minase/MAG Garden

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無料WEBコミック「EDEN」で連載され、男性だけでなく、女性にも人気拡大中のオムニバス学園青春ラブストーリー『むすんでひらいて』。著者の水瀬マユさんへのロングインタビュー最終回は、最新第5巻に収録されたエピソードについても、お話を伺っていきます。
(part1、part2はこちら)

――ストーリーを考えるときは、どのようなシチュエーションでアイデアを練っているのですか?
水瀬 プロットを考える時は、基本的に音も何もない空間で机に座って紙とにらめっこしながら、ずっと文字を書いてます。ポンポンと浮かぶ時もあるんですけどね。(ストーリーは)やっぱり私が女なので、女の子は、こういうことをしてもらったら嬉しいだろうなっていう視点で、考えちゃいますね。そういう感覚を丁寧に描いていきたいってところもあって。だから、女性の方にも読んでもらえているのかなと思います。
――でも不思議なのは、男性ファンも多いということなんですよね。女性視点で考えられていながらも、なぜ僕のような男性でも楽しめるのか。
水瀬 なぜだろう? やっぱり、お色気ですか(笑)。
――それもあるとは思いますが(笑)。僕が感じるのは、男性から見て可愛い女の子と、女性から見て可愛い女の子って相反するものだったりするじゃないですか?
水瀬 はい、しますね。
――水瀬さんの描かれる女の子は、そのあたりのバランスが絶妙だと思うんです。
水瀬 ありがとうございます。
――女の子が描きたい。制服が描きたい。パンチラが描きたい。そういう男子目線で女の子を見る感覚も、水瀬さんの中にはあるのかなって。失礼な話ですが(笑)。
水瀬 でも、そうかもしれないですね。パンツや下着描きたいですし(笑)。男の子を描いてるよりは、女の子を描いてる方がめっちゃ楽しい。あとは、担当さんに感想を聞いたりはします。
担当A たまたま担当が男の僕だったので、「僕をキュンとさせて欲しい」というのは、よく言ってます。たぶん、僕がキュンとする内容だったら、男性の読者にも届くだろうと。でも、そういう男性にも受け入れられる要素を本人が最初から持ち合わせていたと思います。
――悩みながら5巻まで描き続けてきて、当初の構想とは変わったことや、予想外の方向に成長したキャラクターなどはいますか?
水瀬 明智(桂)は、自由過ぎますね。最初は、こんなボケキャラのつもりじゃなくて。もっとみんなの恋愛をサポートする役割だったんですよ。縁の下の力持ち的なポジションとして考えていたんです。でも、話数を重ねる度に、一人だけギャグ絵になるようなキャラになっていって……。最近は誰の恋愛もフォローしてないし(笑)。
――幼なじみの澤村夏とクラスメートの牧原理央の間で揺れていて、自分のことで手一杯な感じですよね(笑)。
水瀬 そうですね(笑)。あと、理央は成長した気がしますね。最初は引っ込み思案で、友達もあまりいなくて。一人で隠れて、好きなことにだけ打ち込んで。それが、明智のおかげで少しずつ自分を出せるようになって、クラスの子ともだんだん仲良く出来るようになっていったりとか……。
――理央は、良いクラスメートに出会えて良かったですよね。
水瀬 中学とか高校とかのクラス替えって、みんな絶対、不安になると思うんですよね。逆に、「この子に出会えて良かった〜」というのもあると思うんです。恋愛以外のそういうところでも、共感してもらえたら嬉しいです。
――そのくらいの時期って、席替えで近くになって話をしたくらいのきっかけでも、生活に変化が起きたりしますよね。
水瀬 ありますよね。だから、『むすひら』は中高生の子にも読んで欲しいんです。今まさに恋愛をしてたりする子たちに読んで欲しい。
――それは、僕もすごく思います。
水瀬 ちゃんと、後悔しない恋愛をして欲しいので。大人になったら、絶対に後悔するんですよ。告白しときゃ良かったなとか、あの時、ああしときゃ良かったとか。そうならないように応援したい、みたいな。
―― 僕も「自分が中高生だったら、『むすひら』のキャラたちから学んだ教訓を生かせるのに。もう、その機会が無い!」と思いながら読んでます(笑)。自分の中高生時代を思い返すと、「なぜ、あの時……」みたいに、どこか重なる部分があるんですよね。
水瀬 そうなんです。思春期が恋愛の邪魔をするんですよ(笑)。
――『むすひら』のキャラだと、男友達の前で格好をつけたことがきっかけになって彼女と別れることになった吉岡圭輔なんて、その思春期が恋愛を邪魔したパターンですよね。
水瀬 まさに、そうです!
――最初に、女の子の恋愛相談を聞いて参考にしていると仰っていましたが、当然、水瀬さん自身の体験や感情も作品の中に入っていますよね?
水瀬 もちろん、自分が一番色濃く出ていると思います。どのキャラにも、どのシーンにも。自分が理解できない気持ちは描けないし、たぶん読んでる方にも共感してもらえないと思うので。
――ちなみに、水瀬さんが「学生時代、この子が友達や同じクラスにいたら楽しかっただろうなー」と思うキャラは誰ですか?
水瀬 もう完全に里見(英二)ですね!
――里見みたいな、お祭り男がいて欲しかった?
水瀬 はい。私の入るクラスには、お祭り男が全然いなかったんですよ。隣のクラスとか、学祭の時にめっちゃ盛り上がってるのに、ウチのクラスは普通みたいな。里見みたいな子がいたら、もっと周りを巻き込んで、楽しい学生生活になってたでしょうね。
――水瀬さんは、そういうタイプではなかった?
水瀬 全然違いましたね。中高の頃は、友達の間だと「わー」ってなれるけど、みんなの前で発言したり、クラスで何かをしたりとかは全然無理。もう、まさに思春期でしたね(笑)。
――思春期に邪魔されてた(笑)。
水瀬 邪魔され過ぎて全然できなかったです(笑)。
――では、今中高生くらいの子には、「もし、クラスにお祭り男がいなければ、自分で引っ張って!」くらいの気持ち?
水瀬 はい! そういう子は絶対に必要だと思うので頑張って欲しいですね。
――5巻では、2巻以来久しぶりに村田雄成と雨宮ありすのエピソードが描かれています。この二人もまさに思春期が邪魔してる感じで、2巻から二人の関係が全然進展してませんね(笑)。
水瀬 そうなんです。でも、こういう「進まないな……」ってことはリアルでもあると思うんですね。どうすれば、この二人の関係を進められるのかは、すごく考えました。それで、何かハプニングでも起きれば良いのかなって(村田の妹の)雛乃を絡ませて、お風呂のシーンを描いてみました。
――5巻に登場する、もう一組の男女はアイドルのMIUこと山田美宇と大学生の青山翼です。MIUは、村田が大好きなグラビアアイドルとして作中の雑誌などには登場していましたが、こんな風にメインで描かれるとは思っていませんでした。
水瀬 MIUは、(2巻で)村田が持っているグラビア雑誌に描いた時点から「この子の話はいつか描こう」と思っていたんです。ようやく出せました。でも、ゲストキャラっぽくしたかったので、2話で終わりという形に。このお話は、夢ややりたいことがあるのに足踏みしている子に対しての警鐘じゃないですけど……。「やろうよ!」って気持ちで描いたんです。MIUのようにすでに夢を叶えている人が、翼のようにもじもじしている人を見たら、なんて言ってあげるんだろうな、と考えて。私の周りにいる、漫画を描きたいけど描いてない子に対して、自分ならこう言うだろうなというのをMIUに代弁させた感もありますね。ちょっと説教臭くなっちゃったかもしれないですけど。
――だから翼は中高生よりも、より社会人に近い大学生なのですね。
水瀬 そうですね。「もう時間ないで」って。「高校生の時も決断できなかったのに、今がマジで最後のチャンスやで」ってつもりで。MIUの話は、ウチのアシスタントさんたちも耳が痛いって言ってました(笑)。
――このエピソードも、リアル中高生たちに読んで欲しい話ですね。
水瀬 はい。やりたいことあるのに、もじもじしてる人、めちゃいっぱいいると思うので。そのままだと、50になっても60になっても、絶対に「あの時、できたのにな……」って後悔しながら生きていくことになるので。やろうよって、伝えたいです。
――それは作品全体に通じるテーマみたいですね。自分の気持ちに素直に行動していかないと、こんなに楽しそうな日々は来ないんだぞ、っていう(笑)。
水瀬 そうかもしれません。みんな、色々と格好つけたりしちゃうと思うので。
――アイドルや大学生も登場して、『むすんでひらいて』という作品の舞台はさらに広がった印象を感じます。これから先、どのようにこの世界を描き、どのような結末をと考えられているのでしょうか?
水瀬 私自身が、これだけたくさんのキャラクターを生み出してしまったので、ちゃんとみんな幸せになってもらいたいんですよね。それぞれの物語の着地点は、それぞれの恋愛が決着するまで。その後の人生は、たぶん、その子たちが広げていくだろうくらいの感じで描きたいです。とにかく、私が思っていることを全部詰め込みたいし、描き切りたいと思ってます。どの子たちにも、たっぷり愛情を注いであげたいんです。
――そのお話を聞くと、僕たちファンはこれからも安心して読めます。
水瀬 やっぱり、母親のような心境なんですよね。「みんな頑張んねんで」みたいな(笑)。
(丸本大輔)