『むすんでひらいて 3』水瀬マユ/マッグガーデン
第3巻では、古屋広呂に一方的な思いを寄せている高校一年生・橘柚が初登場。朝木日摩裏に憧れている広呂に対し、積極果敢なアタックを繰り返します。表紙を飾っているのは、1巻から登場している澤村夏です。 (C)Mayu Minase /MAG Garden

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無料WEBコミック「EDEN」発、オムニバス青春ラブストーリー『むすんでひらいて』。著者の水瀬マユさんへのロングインタビュー中編です(全3回)。デビューに向けての試行錯誤の中、初めてのラブコメに挑戦することになった水瀬さん。ところが、提出したネームは一発オッケー。そのネームから『むすひら』の第1話が生まれました。
(part1はこちら)

――僕は第1巻が発売になったとき、初めて『むすひら』を読んだんです。ある書店で、最初の数ページだけ中を読めるようになっていたのですが、それをチラッと読んだだけで「この漫画、絶対に好きだ。買おう」と思いました。
水瀬 わあ。ありがとうございます。
――それまでラブコメを描いてこなかった人のデビュー作とは思えないのですが、実際ラブコメを描き始めたら、すらすらと描けた感じなのですか?
水瀬 あまり詰まったりはしなかったです。自分の周りに18、19歳くらいの若い女の子がいっぱいいて、その子たちの恋愛や家庭や自分自身の悩みをよく聞いてたんです。私も一緒に悩んだりすると、「その気持ち分かるわ〜」とか共感できるパターンがあったり。その子にとって、どう言ってあげるのが一番いいんだろうと考えていると、ネタにできるような言葉が出たりするんです。
――元々そういった話を聞く機会が多くて、それが作品に繋がったのですか?
水瀬 はい。でも、リアルの悩みだとどうにも救えない場合もあるんですよ。そういう子たちにも何か救いみたいなものがあって欲しいというか……。キャラにモデルがいるとして、リアルではダメだったけど漫画ではハッピーエンドにしてあげたいというつもりで描いてるというか……。あれ? なんか上手く言えないんですけど(笑)。
――例えば、リアルに悩みを抱えている女の子がいて、その子の出会う男の子がこんな子だったら彼女も救われるのにな、という思いが漫画の中で形になってる?
水瀬 それです!(笑) 『むすひら』に出てくる子たちって、みんないい子なんですよ。でも、それぞれにギャップをつけないと、ただのいい子になってキャラが立ってこないので、ギャップを狙って描いてはいるんです。だから、中には(橘)柚みたいな自分中心な子もいるわけですが、描いていくと「こいつ実はむっちゃいいやつやん」ってなるんです。自分で考えて悩んで成長する子は、救ってあげたいですね。
――ストーリーが先か、キャラクターが先かで言うと、キャラの方から先に生まれている感じですか?
水瀬 キャラからですかね。キャラクターを作る過程でプロフィールとかを考えていくうちに、「あ、これネタに使えるわ!」とか。この子はこういう性格で、きっとこういうことで悩んだり落ち込んだりするから、こういうタイプの女の子が合うだろうなとか。そういう感じですね。
――そのようにして生まれたキャラクターたちが数多く登場し、基本的に一話完結の形で物語が描かれていきます。オムニバス形式であるというのは、作品の非常に大きな特徴ですが、これはどういった理由で? 最初の段階からこの構想はあったのですか?
水瀬 そうですね、昔からオムニバスの漫画が好きで、面白い形式だなと思ってたんですよ。だから、もし私がこの形式で描いたら、どんな漫画になるのかなって思って。挑戦してみることにしました。あと、女の子をいっぱい描きたかったんです。でも、男の子一人対女の子いっぱいのハーレムみたいな感じは絶対に嫌で。この形式なら、たくさんの女の子がちゃんと1対1で恋愛できるお話を描けるなって思いました。制服もいっぱい描きたかったので、いろんな学校の子を出したり中学時代の話を描いたり……。
――『むすひら』は、オムニバス形式といっても1つのエピソードだけで終わるのではなく、その続きの物語も後々のエピソードで読めるのが嬉しいです。例えば、1話は男性恐怖症の朝木日摩裏が、後輩の古屋広呂の真摯な思いや優しさに触れて、少し前向きに頑張ろうとするところで終わりますよね。
水瀬 はい。
――オムニバス形式だと、ここで二人のエピソードは終わりという場合もあると思うんです。でも、『むすひら』の場合、2巻で二人のその後のエピソードが描かれ、3巻では広呂に恋する女の子の橘柚も登場します。こういう形式も、最初から考えられていたのですか?
水瀬 基本的に連鎖させていきたいとは考えてました。私、脇にいるキャラがけっこう好きなんですね。普通のストーリー漫画でも、ちょっと人気の脇キャラとか絶対にいるじゃないですか。そこにスポットが当たると「キャー!」ってなるんですよ(笑)。そのキャラが出てくるお話ばっかり何度も読んでて、コミックスのあの巻だけめっちゃ汚れてるみたいな(笑)。だから、1回終わったように見せたキャラを忘れた頃に出して、「あ、このキャラいた!」みたいな見つけた感を、読者の人にも感じて欲しかったんです。
――第5巻までに、メイン級のキャラクターだけでも10人以上登場しています。連載開始時点では、何人くらいまでキャラクターを考えられていたのですか?
水瀬 そんなには考えてなかったんです。最初は日摩裏と広呂。その次に(牧原)理央、(澤村)夏、明智(桂)の3人の話というのはできていて……あ、でも、男の子4人は最初に決まってました。一人は年上の子に恋して、一人は良い感じの幼なじみがいるけど、クラスの可愛い子との間で揺れる。一人はその中途半端な友達を見て「どうするの?」みたいな感じで四角関係に。もう一人は昔、恋をした女の子が今も気になる。そんな感じでぼんやりとは考えてましたね。
――では、構造としては男の子から先にキャラが固まって、ヒロインたちが生まれていった形だったのですね。
水瀬 あ、言われてみれば、そうですね。そうだった気がします。そこから、1話の話の流れで広呂のお姉ちゃん(舞)が出てきたので、お姉ちゃんの話もいずれ描こうみたいな。けっこう行き当たりばったりです(笑)。「あ、そろそろ、このキャラ出さなきゃ」とか。基本的に名前のついているキャラクターは、ちゃんと恋愛させてあげたいという気持ちはあります。
――おー。名前のついているキャラ全員ですか! 脇にいるキャラまで本当に愛を込めて描かれているんですね。
水瀬 まだまだ、脇の脇に出てきたキャラとかがいっぱいいるんですよ。いずれは、その子たちの恋愛エピソードも回収できたらいいですね。
――それは非常に楽しみです。中高生たちのラブストーリーということで、僕のようなアラフォー男でも読んでいて「きゃー!」と照れくさくなるシーンやセリフも多いのですが(笑)、水瀬さんも読み返して「きゃー!」とか思うことはないですか?
水瀬 あります、あります(笑)。コミックスを出す時に1冊分全部の原稿を送り返してもらって直しを入れたりするんですけど、恥ずかしくて読めないみたいなところはありますね。
――特にこのシーンが恥ずかしかった、とかありますか?
水瀬 最近だと5巻の村田(雄成)と(雨宮)ありすのエピソードの終盤とか、MIUと(青山)翼の話の終盤とか恥ずかしいですよね。「何描いてんねん自分」って思うんですけど(笑)。でも、描いてる本人がめっちゃ恥ずかしいってことは読者の方がもっと恥ずかしいんじゃないかなって。
――恥ずかしいですねー(笑)。
水瀬 良かった。なんか、エロ本を覗き見するみたいな感じでニヤニヤしながら読んでもらいたいし、「ページをめくるの超恥ずかしい」って思いながら見てもらいたいので、そんな風に思ってもらえたなら嬉しいですね。
(丸本大輔)

(part3に続く)