山田洋次監督50周年記念展「半世紀を映画から振り返る」
展示会の入場料は一般・大学生400円、高校生以下無料。
「寅さんあなたは誰なの?」(約30分)の特別上映は1日5回で別途300円。収益は東日本大震災の義援金として送られます。

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正月映画と聞いて真っ先に思い浮かぶのは今でもやっぱり山田洋次監督、渥美清主演の「男はつらいよ」。
ふらりと柴又とらやに帰ってきてはおいちゃんやタコ社長と喧嘩して飛び出し、マドンナを好きになってもそのマドンナの恋や人生を応援する寅さん。毎度おなじみのシーンやセリフ回し、そして昔懐かしい日本の原風景を見ることで、今年も無事に正月を迎えられた慶びや古き良き日本のお正月を認識することができたものです。

2012年1月、久しぶりにお正月の風物詩、寅さんが帰ってきました! そのスクリーンのある場所は西武池袋別館2階。1月6日〜15日までの期間限定で、「男はつらいよ」全48作品を山田洋次監督自らが編集した「寅さんあなたは誰なの?」(約30分)が特別上映されているんです。
実はこれ、山田洋次監督50周年記念展「半世紀を映画から振り返る」にともなう特別企画として上映されています。「男はつらいよ」の名場面(とらやでのドタバタ劇や各マドンナとの切ないやりとり、そしてリズミカルな商売口上)がぜいたくにコラージュされ、ほんわかと幸せな笑いに包まれること間違いなし。一緒に見た他の観客と笑いが共有できるのも久しぶりの感覚です。この短編を見るだけでも、山田洋次監督がいかに市井の人間の喜怒哀楽を、そして庶民目線における幸せを描写し続けてきたのかがわかるのですが、記念展の各展示物を見ることでそのバックボーンをさらに掘り下げることができるのがうれしいところ。展示は大きく4つのカテゴリーに分けて構成されており、山田洋次監督の歴史のみならず、日本映画史の足跡をたどることができます。

入場口から入って最初に目を引くのは、壁一面に伸ばされた東日本大震災の被災地の写真。最初の展示コーナー<被災地に立つ>では、山田洋次監督が東日本大震災の被災地・陸前高田市を訪れた模様が写真で紹介されています。津波で何もかもが失われた大地に建てられた“黄色いハンカチの塔”は実際ニュースでも取り上げられ、また1月2日にNHKで特番も組まれたことで話題になりましたが、その写真がパノラマ展示され、少し小さくはありますが復元展示もされています。高倉健・武田鉄矢・桃井かおりが演じる「幸せの黄色いハンカチ」の名場面もビデオ上映されているので、ハンカチが織りなす人間ドラマが多面的に描かれた不思議な空間となっています。

<撮影所が夢の工場であった時代>は、山田洋次監督が「二階の他人」でデビューした1961年当時の映写機や録音機、ミッシェルカメラなどが実際に展示されているほか、大船撮影所の巨大模型もあって山田洋次ファンならずとも映画ファンには必見。現在週刊モーニングで連載され人気を博している『デラシネマ』で黄金期の映画世界に興味を持った人であれば、京都と大船の違いはあれど時代考証の参考に要チェックです。

<劇場(コヤ)に笑いがあふれていた>は、渥美清をはじめとする日本の喜劇人が紹介されるとともに、「男はつらいよ」全48作品の名場面を写真で振り返ることができます。若き日の竹下景子、吉永小百合、大原麗子らの姿は純粋に美しさに満ちあふれ、それらを見るだけでなぜか幸せな気分に浸ることができました。

<人間のあり方と家族の絆を見つめて>は山田洋次監督の大きなテーマである“家族の絆”という視点から、「男はつらいよ」以降の代表作である「母べえ」や「おとうと」などの作品が紹介されるほか、“食卓”というテーマで編集された「男はつらいよ」「たそがれ清兵衛」「息子」の名場面映像も見ることができます。


この4つの展示コーナーを回ると冒頭で紹介した短編「寅さんあなたは誰なの?」の試写室へという導線になっているのですが、その短編の最後に描がかれていたのは、「男はつらいよ」シリーズそのものの最終シーンでもある48作目「寅次郎紅の花」、1995年に起きた阪神淡路大震災の被災地・神戸です。地震と火災で何も無くなってしまった広場が徐々に復興する様子を見ながら「本当にみなさんごくろうさまでした」という寅さんのセリフともに物語は終わります。
これを見るまで、震災の年に「男はつらいよ」が終わったことをすっかり忘れていました。そして、東日本大震災についての展示からはじまり、阪神大震災から立ち上がる様子を描いた寅さんのラストシーンで終わるという、この記念展そのものがひとつの物語になっていることに気づかされます。人間の生きる舞台が過去からの地続きであること、そしてそこで生きる人間そのものを描くのが山田洋次作品であるということを再認識させられました。

山田洋次監督による次回作は小津安二郎監督の名作「東京物語」へのオマージュ作「東京家族」。この映画はもともと2011年のクランクイン予定だったのが震災の影響で今年に延期。完成していた脚本も全面的に見直しをしたということで、「戦後最大の災害を経た2012年の東京を舞台に描かなければならない」というパネル上でのコメントが山田洋次監督の意気込みを物語っていました。まさに、50年を越えて第一線で活躍する山田洋次監督の生き様が享受できる展示会です。

遠方でこの記念展を見に来られないという方もいらっしゃると思いますが、「山田洋次監督50周年記念」としての企画は昨年から様々な媒体でも取り上げられていますので最後にそれらをご紹介します。
まず、三越劇場では舞台版「東京物語」が1月24日まで公演中(脚本・演出を担当)。
また講談社からは「男はつらいよ 寅さんDVDマガジン」が発売されています。全50巻(シリーズ48作+特別編+テレビドラマ版)で現在26巻まで発売中。今年いっぱいをかけて残りの24巻が発売されます。
文化放送では毎週月〜金の8時13分〜8時20分で文化放送開局60周年×山田洋次監督50周年プロジェクト「みんなの寅さん」という番組がON AIR! 月曜〜水曜は歴代マドンナや関係者、ファンを招いてのトーク、木曜と金曜は倍賞千恵子によるけっこう毛だらけの朗読が放送されています。
2012年は辰年ですが、なんだか気分は「寅年」です。
(オグマナオト)