エキレビライターでゲームクリエイターの、とみさわ昭仁さんが現役の先生に授業!ゲームのシナリオづくりと授業づくりの意外な関係とは?

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ゲームクリエイターが学校の先生に授業づくりを指南するーーこんなユニークな研究会が2011年12月17日に千葉大学で開催されました。

講師はエキレビライターでおなじみの、とみさわ昭仁さん。研究会のタイトルは「ゲームのシナリオづくりに学ぶ授業づくりーシナリオづくりのコツを学ぶー」です。主催はNPO法人の企業教育研究会。企業と連携した授業づくりが専門で、これまでにもソニー・コンピュータエンタテインメントと共同で「キャリア教育支援プログラム」などを開発し、全国各地で出張授業を行ってきました。

研究会には公立校の先生や教育委員会の方々、学生、そしてゲーム業界の関係者など、約40人が参加。ふだんは20人程度とのことで、並々ならぬ関心度の高さが伺えます。会場には同じくゲームクリエイターで、立命館大学教授も務める米光一成さんや、書籍にウェブにポッドキャストとマルチに活躍する島影真奈美さんと、エキレビライター2名も参加。筆者もノートPCとカメラ片手に、ばっちり取材してきました!

それにしても、先生がゲームクリエイターに「説教」するんじゃなくて、ゲームクリエイターが先生に対して「講義」するんですよ。いやもう、時代は変わったと驚かされます。いったいゲームのシナリオづくりと授業づくりに、どんな関係があるのか。読者の皆さんも一緒に考えてみてください。

さてさて、膨大なコレクションや読書量などを背景に、常にエキレビランキングの上位にランクインする良記事を連作中のとみさわさん。一方でゲーム「ポケットモンスター」シリーズのメインライターを務めた経歴を持つなど、現役のゲームデザイナー/ゲームシナリオライターとしても活躍中です。1961年生まれで、「スペースインベーダー」に触れたのが高校生の時という、ゲーム業界でもベテランの部類に属します。

そんなとみさわさんは、絵を描いたりプラモデルを作ったりするのが大好きな、手先が器用でインドアな子供でした。漫画家、次いでイラストレーターになりたくて、でもなれなくて、機械製図を描く仕事につきます。ところがCADの導入と共に製図屋の限界を悟り、24歳で会社を退社。芸能ミニコミ誌への寄稿をきっかけに、文章を書くおもしろさにめざめ、今はなき男性誌「スコラ」でゲームライターを始めます。

その後「ファミコン通信」のライターや、週刊少年ジャンプのコンピュータゲーム紹介記事「ファミコン神拳」に「カルロス」という謎の外人キャラクターで登場。後に「ポケットモンスター」を送り出す田尻智さんや、「ドラゴンクエスト」で社会現象を引き起こした堀井雄二さん、共に「メタルマックス」を作った宮岡寛さん、きむらはじめさんらと親交を深めていきます。田尻さん率いるゲーム制作スタジオ・ゲームフリークの立ち上げにも参加。以後「ポケモン」シリーズの第一作から制作に携わることになります。

こんなふうに「『ポケモン』の田尻イズムと、『ドラクエ』の堀井イズムから学んだ」という、とみさわさん。そんなとみさわさんは「ゲームは目的(ストーリー)と手段(ゲームシステム)から構成される」と切り出し、「会社や人によって違いはあるけど、はじめに全体像を思い描いて、ゲームの仕組みを作り、後からゲームシナリオを当てはめていくのが、自分のスタイル」だと説明しました。

「ゲームはインタラクティブなメディアです。プレイヤーがシステムを使いこなして、目的を達成していく過程から感動が生まれます。そのため、いくらゲームシナリオが良くても、ゲームシステムが悪ければ感動できません」(とみさわさん)。ゲームを遊んでいると、映画などと同じように、シナリオをもとに作られると思いがちなんですが、まったく反対なんですね。

こんなふうに、とみさわさんは「ゲームシナリオはゲームシステムの従属物」とした上で、「ゲームシナリオにもゲーム特有の要素、つまりインタラクティブ(双方向)性を生み出す要素がある」と、本題のテーマについて解説しはじめました。具体的には「分岐」「すべての状況を用意する」「わかりやすさと奥ぶかさを共存させる」「褒めると叱るのバランスをとる」「知的な時限爆弾」という5点に気をつけているそうです。

ゲームのストーリー体験と、小説や映画を分ける大きな要素が「分岐」です。ゲームのストーリーはプレイヤーの絶え間ない選択で進んでいきます。しかし、この時に大切なのが「プレイヤーはどのような選択をするか、わからない」ということ。ストーリー上で重要なアイテムを、取り逃したままゲームを進めてしまうかもしれません。そのため「すべての状況を想定して、先回りをして用意しておく」ことが大切になります。

例として上げられたのが「ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー」で、通路の前で通行料を取ろうとするロケット団のシーンです。プレイヤーの所持金が1000円以上の時、1円以上1000円未満の時、0円の時では、それぞれ異なる台詞を表示する必要があります。「カネのたりないやつは あるだけちょうだいするぜ!」とかですね。

ちなみに所持金が0円の時でも、通してもらえるのがポケモンイズム。とはいえ、そこで何と表示するかは、シナリオライターの知恵の使いどころです。「ポケモン」らしさを演出する「秘伝のたれ」にあたるそうですが、遊んだ人は覚えていますか? 手元にカセットがあれば、ぜひチェックしてみてください。こんな風に、ちょっとした台詞回しの積み重ねで、RPGの世界観やストーリーって積み上げられているんですね。

「わかりやすさと奥ぶかさの共存」では、ゲームは行き詰まった瞬間にプレイヤーの心が離れていくので、とにかくわかりやすく、段階的に構築していく必要があると説明しました。「ポケットモンスター」シリーズでもゲーム中盤までをチュートリアルと見立てて、ゲームシステムの習得に必要なさまざまな情報を、ゲーム進行のバランスを見ながら、そぞれれの街で、それぞれの台詞などに散りばめているそうです。

ただし、これは「底が浅いものにする」という意味ではなく、あくまでも「敷居を下げる」ということ。ここで、とみさわさんはイギリスの作家キース・ジョンストン氏の「多くの教師は子どもを未成熟の大人と考える。もし、大人を萎縮した子どもと考えれば、もっとよく、もっと敬意を払って教えることができるかもしれない。」という言葉を引き合いに出しました。

大人になるということは、社会の中で平均化され、没個性化される側面を含んでいます。そんな大人たちでも、ゲームを遊んでいるときは子供のような気持ちになるはず。だからこそ、その人が持っていた個性や、その人らしさを取り戻せるようなゲームになるように、心がけていると説明しました。ポケモンも同じで、子供向けゲームという側面もあるが、実際は「個性を失った大人になる前の子供」に向けて作られているそうです。

ちなみに、とみさわさんは11歳になる娘さんの言動を観察して、「語録」をメモにまとめているんだとか。あるとき「地割れはなぜ起こるの?」と聞かれたので「地面は固定されていなくて、動いているんだよ」と回答すると「じゃあ地割れで北海道に行けたりする? 北海道が千葉に来て(とみさわ家は千葉在住)、千葉が北海道に行けばいい」と返されました。これ、なんだかボードゲームのイベントネタになりそうですよね。 こんなふうに、ゲームづくりの参考にもなるんだとか。うーん、奥が深い!

続いてのキーワードが「褒めると叱るのバランスを取る」こと。とみさわさんは「ゲームはプレイヤーを褒めるメディア」だと説明します。敵を倒す、経験値を得る、レベルアップする。こんな風にゲームはプレイヤーが正しい選択肢を選ぶことで進んでいき、そのたびにさまざまな方法で「褒めて」もらえます。逆に間違った選択をするとペナルティ、つまり「叱られ」ます。叱られる回数が増えるとゲームオーバーになるわけですよね。

こんな風にプレイヤーの行動を「褒める」と「叱る」で誘導しながら、ゲームクリアまで導いていくのがゲームデザイナーの仕事なんだそうです。この時に大事なのが、プレイヤーの行動を褒めて、褒めて、褒めまくって、でも褒めるだけだと喜びが薄れちゃうので、たまに叱って、全体的には良い気持ちのままで最終目標まで到達させること。こうすることで、プレイヤーは「自分の力でクリアできた」と実感するんだとか。

ところがですね、ゲームのアイディア会議を行うと、「褒める」よりも「叱る」アイディアの方が出やすいんだそうです。「ゲームはプレイヤーに有利になるアイディアだけでは成立しないが、ほっておくと、ついそっちに流されてしまう。意識して、良い方に進む方がちょうどいい」(とみさわさん)。皆さんの会議はどうですか? 実際、あら探しって簡単ですよね。僕も自戒するように心がけますです、はい。

最後に紹介された「知的な時限爆弾」は、ネーミングに関する基本姿勢で、ドラクエから学んだそうです。たとえば最初の大陸「アレフガルド」は、始まりを意味する「アルファ」と、国を意味する「ガルド」を組み合わせた造語。ドラクエIIIで魔王バラモスが住む大陸「ネクロゴンド」は、死を意味する「ネクロ」とと、太古の大陸「ゴンドアナ」の組み合わせなんだとか。へー、言われるまで気づきませんでしたよ!

こんな風に、子供の頃はまったく気がつかなかったけど、記憶の片隅に残っていて、成長していろんな知識を習得する中で、あるときハッと気づく。この体験は非常に強烈なんだとか。そのためのネーミングが「知的な時限爆弾」なんだそうです。ちなみに「ポケットモンスター ルビー・サファイア」で登場するダンジョン「すてられぶね(カクタスごう)」は、サボテンを意味する英語「カクタス」から引用されたとか。他にも「元ネタ探し」をしてみると、いろんな時限爆弾が見つかるかもしれません。

これ以後も質疑応答が1時間近く行われ、たいへん盛り上がったんですが、そこは割愛させていただくとして。最後にとみさわさんは「あらかじめ答えが用意されていて、そこに子供たちを導いていくという意味では、ゲームも授業づくりも同じだと思います。そんな形で役に立つとしたら嬉しいです」とまとめました。これに対して、参加された先生方からも「何か仕掛けがあって、それに対してストーリーがあるというのは、授業づくりでも同じ」など、さまざまな形で読み解かれていたようですよ。

今や先生方も親御さんも、社会の中核を担うのはファミコン世代。 電子黒板や電子教科書などのデジタル機材も、どんどん学校に普及しています。いわば外堀はどんどん埋まりつつあるわけで、肝心なのはそこで何をもりこむか。そのためにも、こうしたゲームクリエイターと先生方との対話が増えていくと、おもしろくなりそうですよね。同研究会の今後の活動にも、もっともっと期待したいところです。
(小野憲史)