「好きという思い」だけではどうにもならない現実…宇垣美里が心を揺さぶられた理由
 元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。

 そんな宇垣さんが映画『サヨナラの引力』についての思いを綴ります。

●作品あらすじ:2008年の夏、ソウル。ゲーム作家を夢見る大学生ウノと、建築家を目指すジョンウォンは長距離バスで運命的に出会い、互いの夢を支えながら恋に落ちる。しかし、現実の厳しさに引き裂かれ、別れを選ぶ。それから10年後、二人は偶然、飛行機の中で再会。青春時代の思い出をたどりながら、「もしもあの時、別の選択をしていたら」という胸の奥にしまっていた想いと向き合っていく……。

 切ない再会を通して、愛と人生の選択を描く大人のラブストーリーを宇垣さんはどのように見たのでしょうか?(以下、宇垣美里さんの寄稿です)

◆ありえたかもしれない将来へ報いる唯一の方法

 人生は選択の連続だ。今の自分に辿り着くまでに、多くを捨てて、諦めて、飛び出して。私の足元には、選ばなかった未来の屍が山積み。だから、その骸(むくろ)たちへのせめてもの餞(はなむけ)に、今の自分は幸せなのだと、声を大にして宣言する必要がある。

 選択を正解にし続けることでしか、ありえたかもしれない将来へ報いることはできない。それでも、時々あの頃を振り返って、そのあまりの美しさに泣きそうになることがある。

◆好きという思いだけではどうにもならない現実

 ソウル行きの飛行機の中で偶然再会したウノとジョンウォン。台風の影響で欠航となり、唯一とれたホテルの一室でふたりが対面し、話はじめたのは、10年前の夏、長距離バスの中で運命的に出会い、ソウルでの日々を支え合った大学生時代の記憶だった。

 モノクロで描かれた現在に対し、過去の描写の色の溢れた様といったら。過ぎ去った青春時代がキラキラと鮮やかで、若く未熟でありながらも、たしかにあの時本当に相手を大切に思っていたことが、互いの理解者であり居場所であったことが、ひしひしと伝わってくるからこそ切なさが増す。

 生活は時に何よりも残酷で、好きという思いだけではどうにもならない現実があることを、年を重ねた者は皆知っているから。

◆現在を力強く肯定するパワーのようなもの

 ラストでここまでの伏線が回収され、明かされる過去と現在との色分けの理由が胸に沁みる。手放すしかなかった想いのふいに訪れた答え合わせのチャンスは、万人に起こるものではないだろう。

 それでも、得たものと失ったものを確かめながら、過去があるから今の自分がいるのだと、現在を力強く肯定するパワーのようなものを感じた。

◆振り返るだけで心がほかほかと温まるような記憶

 恋愛映画というよりも、むしろ出会いと別れが繰り返される人生そのものを主題に置いているような本作。鑑賞後、自分の過去と重ね、思わず感傷的になってしまうのは私だけではないはずだ。

 ただ、振り返るだけで心がほかほかと温まるような記憶があることの幸福を噛み締めた。その記憶たちをお守りのように抱きしめて、これからも生きていく。

『サヨナラの引力』
配給/⽇活、KDDI TOHOシネマズ ⽇⽐⾕ほか全国公開中 ©2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

<文/宇垣美里>

【宇垣美里】
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。