東京駅直結の百貨店・大丸東京店のお弁当エリアで、「ミルフィーユ寿司」が3年連続売り上げ1位になっている。時事通信社水産部の川本大吾部長は「インスタ映え間違いナシの見た目だけでなく、味付けに工夫があって満足度が高い。“肉高魚低”の消費傾向の中で、魚食の新たなトレンドになりつつある」という――。
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創作鮨処タキモトの「ドリームプリティミルフィーユ」 - 筆者提供

東京駅デパ地下で人気を博す美しい弁当

大丸東京店の地下1階の食品フロア「ほっぺタウン」には、全長約60メートルにおよぶ“お弁当ストリート”がある。多くの店が軒を連ね、フロア全体で年間およそ1000種の弁当が販売されている。開店からたくさんの人が詰めかけ、お目当ての弁当を求めてすぐに行列ができる店もある。

そんな弁当激戦区でこの3年間、不動の人気を誇っているのが「創作鮨処タキモト」が販売する“ミルフィーユ寿司”だ。その名も「ドリームプリティミルフィーユ」(税込1695円)。ファンタジックかつ幾分盛り過ぎとも思えるネーミングで、透明の四角いケースは弁当というよりまさに「海の宝石箱」。インスタ映えは間違いなし、といった印象だ。

ミルフィーユの層を構成するのは、酢飯のほかサーモン、サケフレーク、高菜、タラコ、キクラゲの佃煮。その上に、アワビ、ネギトロ、エビ、カニ、イクラといった高級食材が載せられている。

■年間6万食を売り上げ、3年連続売上数第1位

この「ドリームプリティミルフィーユ」、大丸東京店で販売される1000〜1600円(税抜)の弁当の中で、2022年から3年連続で年間売上数第1位に輝いた。昨年1年間の販売数は計6万食におよぶ。

お弁当ストリートには、黒毛和牛のすき焼き重、牛フィレ肉のカツサンド、デミグラスハンバーグといった豪華な肉系や、ばらちらし、うな丼、銀ダラの西京焼、はたまた握り寿司や海鮮丼といった海鮮系など、豪華かつオーソドックスな弁当の数々がライバルとして軒を並べる。その中にあって、万人に馴染みがあるとは決していい難い斬新なミルフィーユ寿司がなぜ3年連続売り上げ1位なのか。

理由のひとつは、やはりこの見た目だろう。前述の通りいかにもインスタ映えしそうな華やかさで、SNSはもちろんメディアでもたびたび取り上げられてきた。

だが、それだけではない。創作鮨処タキモトの大丸東京店・出口昇店長は、人気の理由を「器の上からだけでなく横からも綺麗な断面が見えることに加え、ご飯やネタそれぞれにしっかりと味付けしていて食べ応えがあるからではないか」と分析する。

■見た目だけではない味付けの工夫に納得

たしかに、筆者も「ドリームプリティミルフィーユ」を実際に食してみて、味付けがしっかりされていることに驚いた。特に、ミルフィーユの層に挟み込まれた高菜の塩味と食感が意外と大きな存在感を発揮している。食べ応えと鮮度維持のため、エビは酢漬け、イクラは醤油漬けされており、全体に味は濃いめだ。醤油の小袋も別途付属しているが、好みによっては付けなくても十分おいしく食べられるよう作り込まれている。

食べ方について、大丸東京店の広報担当者は「容器のふたを裏返しにして皿代わりにし、上に盛られたネタを取り分けながら食べるのがおすすめ。ミルフィーユの部分は、最初に混ぜて食べるのもおいしい」と説明する。

日本の交通の玄関口である東京駅直結とあって、主な客層は東京から地元に帰る観光客や地方へ出かける旅客など。車中で食べる駅弁あるいはお土産として、なかには10食以上まとめ買いする人も珍しくないという。濃い目の味付けに加えて、夏場は保冷剤もつけることで、おいしく食べられる時間の目安は9時間ほどとなっている。

■ケーキのミルフィーユをヒントに新商品を考案

タキモトがミルフィーユ寿司を考案したのは、2007年11月のこと。大丸東京店が現在の超高層ビル「グラントウキョウノースタワー」に移転オープンした際、「何か新しい商品を」と知恵を絞る中でお菓子のミルフィーユにヒントを得て作ったのが、初代ミルフィーユ寿司「贅沢ミルフィーユ」だった。まだ「◯◯映え」といった謳い文句が当たり前ではなかった頃だ。

「贅沢ミルフィーユ」のネタはカニ、エビ、イクラ、ホタテなど10種類で、価格は2100円(税込)。その後、今から5年ほど前にごはんの量と価格をやや抑えた「ドリームプリティミルフィーユ」が誕生した経緯がある。

「贅沢ミルフィーユ」は現在も「ドリームプリティミルフィーユ」に次ぐ人気商品だ。2品の大きな違いは、分量のほか、上部のネタの構成。「ドリームプリティミルフィーユ」は前述の通り上部にアワビ、ネギトロ、エビ、カニ、イクラが載っているのに対し、「贅沢ミルフィーユ」ではアワビ、ネギトロの代わりにホタテとカズノコが使われている。

■日本人の“魚離れ”は進み続けている

「贅沢ミルフィーユ」も「ドリームプリティミルフィーユ」もサーモンやエビ、イクラなど暖色系のネタが中心で、寒色は高菜とワサビだけだ。魚介で寒色といえば、〆鯖などの青魚がある。そうしたネタとの組み合わせはどうなのか、出口店長に尋ねてみたところ「季節感のあるサンマなどを過去に試したが、売れなかった」という。ミルフィーユ寿司に青魚はなじまないようだ。青魚好きは同店なら押し寿司を選ぶのだろう。

大丸東京店の食品フロア「ほっぺタウン」の一角にある創作鮨処タキモト(筆者提供)

季節感という言葉が出たように、魚介は季節ごとに旬があるが、「ドリームプリティミルフィーユ」は1年を通じてネタの種類が変わらない。サンマのほかにも春のカツオやホタルイカを試したものの、いまいちだったという。特にホタルイカは足が速い(鮮度が落ちやすい)こともあり、テイクアウト商品には不向きだ。

ネタは国産・輸入を合わせて調達している。季節ものや「◯◯産の本マグロ」といったこだわりよりも、全体での味と見た目のバランスがミルフィーユ寿司においては重要であり、ヒットの所以といえそうだ。

一方で、季節感や地域性を売りにしない一品が人気となっていることについて、少々インパクトに欠けると思う向きもあるだろう。だが、現状では「魚より肉」がもてはやされ、若者を中心とした「魚離れ」が顕著になっているのも事実。農林水産省の食料需給表をみると、魚介類の年間1人当たりの消費量は、2001年度の40.2kgをピークに減少し続け、2011年度には肉の消費が魚の消費を上回った。

そうした「肉高魚低」の消費傾向の中で、魚介メインのお弁当が年間6万食の大ヒットを続けているのは、水産業界にとって注視すべき現象だ。

■築地場外でもミルフィーユ寿司が登場

ミルフィーユ寿司の人気はますます高まる気配だ。築地場外市場(中央区)のすし店などでも、店頭でミルフィーユ寿司を販売するところが現れ始めた。場外市場を歩くと、外国人をはじめ観光客が色とりどりの魚介を重ねた透明カップに目を留め、数人でシェアしながら舌鼓を打つ様子を見かける。もちろんスマホでの撮影も欠かさない。そうした写真がまたSNSで拡散され、話題が広がるのだろう。今後も扱う店が増えそうだ。

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築地場外市場で販売されているミルフィーユ寿司 - 筆者提供

東京・銀座でも、今春からミルフィーユ寿司の提供を予定している寿司店がある。こちらはカップに入れるスタイルではなく、押し寿司タイプ。生湯葉のパイ生地やサーモンとホタテの豆乳ムースクリームに、花山椒シャリを使ったサーモン押し寿司を組み合わせた創作寿司を試作中だという。

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東京・銀座の寿司店にて今春発売予定の創作寿司 - 筆者提供

さらに、ネット上では今、こうした既存商品だけでなくミルフィーユ寿司を自作するためのレシピが数多く公開されている。特に3月のひな祭りに向けて「ミルフィーユちらし寿司」を勧めるレシピサイト等も多いようだ。「見て楽しく食べておいしい」魚介類の新たな活用は、今後も広がりを見せるだろう。ミルフィーユ寿司が魚離れの救世主になるのかもしれない。

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川本 大吾(かわもと・だいご)
時事通信社水産部長
1967年、東京都生まれ。専修大学経済学部を卒業後、1991年に時事通信社に入社。水産部に配属後、東京・築地市場で市況情報などを配信。水産庁や東京都の市場当局、水産関係団体などを担当。2006〜07年には『水産週報』編集長。2010〜11年、水産庁の漁業多角化検討会委員。2014年7月に水産部長に就任した。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)、『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文春新書)など。
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(時事通信社水産部長 川本 大吾)