将棋は指さなくても観るだけで面白い!“将棋大好き芸人”が推す、推し棋士づくりのポイントは3つ「師弟・世代・地元」

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藤井聡太七冠の台頭でブームが過熱している将棋。昨今はさまざまなタイトル戦、師弟関係、“AI将棋”など、年間を通して話題が多い。

『知るほど観たくなる将棋 ドラマティック将棋論』(扶桑社新書)の著者は、吉本興業所属の“将棋大好き芸人”のランパンプス・寺内ゆうきさん。「将棋は指さなくても、観るだけで面白い」をテーマにした一冊だ。

観戦するだけでも魅力を味わうことができたりするが、中でも推しポイントの一つが、棋士同士の関係。そこから熱い師弟愛のエピソードと、推しをつくる上で知っておきたい、棋士の3大繋がり「師弟・世代・地元」を一部抜粋・再編集して紹介する。

弟子入りしなければ棋士になれず

一人の推し棋士を作ると、自然と他の棋士との繋がりも見えてくるということがわかりました。その繋がりについてお話しします。

まず一つ目は、「師弟」です。

棋士になる条件は、「奨励会」という棋士養成機関で四段に昇段することです。そして、その奨励会を受験する条件は「師匠の推薦」です。

逆にいえば、条件はこれしかありません。どんなに将棋が強くても、師匠に弟子入りして推薦をもらえなければ棋士にはなれないのです。

奨励会に入るのは大体小学校高学年から中学生。そのころに自分の生きる道を将棋と決めて師匠に弟子入りをして、棋士への厳しい道のりを歩み始めるのです。

今は少なくなりましたが、昔は「内弟子」といって師匠の家に住み込みで将棋を学んでいたお子さんもたくさんいたといいます。

壁にぶつかったとき、昇段したとき、タイトルを獲ったとき……そのすべての瞬間をスタートから共にするのが師弟です。

僕の推し師弟は、深浦康市(ふかうら・こういち)九段と佐々木大地(ささき・だいち)七段の師弟関係です。

佐々木七段は子供の頃難病を患っていて、酸素ボンベをチューブで鼻につなぎ深浦九段に弟子入りを志願しに行ったといいます。

将棋は長時間に及ぶ対局が多いので、実は体力勝負の競技です。闘病の支えが将棋だという少年を弟子にするということは、深浦九段にとっても相当な覚悟でした。

師弟でSNSの共同運営も

そんな佐々木七段がまだ奨励会の修行時代、成績不振で二段から初段に降段してしまう危機に陥ったことがあります。

棋士になる人で奨励会で降段を経験する人はほぼいないというジンクスがあり、彼にはものすごいプレッシャーがかかっていました。

そんな中、師匠から連絡が入ります。

「将棋を指そう」

師匠の深浦九段はプロ目前の三段になるまで弟子と将棋は指さないと決めていましたが、伸び悩む弟子に手を差し伸べたのです。

佐々木七段はそこで将棋を教えてもらったことがとても嬉しくて、そこから棋士となる四段昇段までの勢いとなる8連勝をしたという話があります。

この2人はなんとX(旧Twitter)で共同アカウントを運営しています。その名も「深浦一門」。

弟子がタイトル戦の挑戦者になると「やったぜ、師匠!(弟子)」というポストをします。なんとも愛らしい関係です。ぜひフォローしてみてください。

同世代での切磋琢磨も魅力

そして2つ目の繋がりが、「世代」です。

小学生の頃から奨励会で切磋琢磨してきた同世代は永遠のライバルであり、最高の仲間です。そもそも奨励会に受かる時点で地元では天才少年です。

そこからさらにしのぎを削り努力を続けた大天才のみが棋士になれるわけです。その苦楽を共にした同世代は、どう転んでも関わりが深くなるでしょう。

将棋以外でも松坂世代、大谷世代、辻・加護世代(元モーニング娘。で筆者と同学年)など世代で括られることはありますが、その世代の一人が調子を上げて好成績を残すと、他の同世代も対抗心から調子が上がっていくことはよくあります。

特に有名なのが羽生世代。羽生善治九段が生まれた1970年付近に生まれた棋士を指す言葉で、この羽生世代はタイトル獲得者が多いことや、新戦法の開発など将棋界に大きな影響を与えてくれました。

郷土愛の強い棋士も多い

そして3つ目の繋がりは、地元です。

出身地は棋士にとって重要な要素で、全棋士が所属している将棋の総本山「日本将棋連盟」には関東所属と関西所属の2つがあり、居住地によって配属が違います。東京支店、大阪支店くらいの感覚だと思ってくれればわかりやすいですね。

幼少期には地元の将棋道場に通うわけですが、出身地によって環境の差があります。

将棋が盛んな街や都市部に生まれればライバルはたくさんいますが、地方出身の棋士は子供ながら遠くの将棋道場に通ったり、奨励会のために上京して下宿したりする人もいるくらいです。

その分、郷土愛が強い棋士も多く、対局のほとんどが東京か大阪にもかかわらず、地元から離れない棋士も少なくないです。

そして各地域には将棋連盟の支部があり、その土地に住んでいる棋士やゆかりの棋士が将棋教室や大会を開いて、次世代の棋士を送り出すことに貢献しているのです。

棋士というのは小学校の低学年から将棋の実力だけでなく、人と人との関わりによって物語がすすんでいきます。そして、還暦を過ぎても続くその現役生活の中でその関わりが消えることはなく、すべてにドラマがあるんです。

この3つの繋がりをおさえると、将棋観戦がより楽しくなること間違いなしです。

寺内ゆうき
お笑いコンビ「ランパンプス」。2013年、楽屋で先輩に誘われた将棋でボロ負けしたことをきっかけに将棋の勉強を始める。年間のプロの将棋観戦は1000局以上。YouTubeチャンネル「よしもと将棋芸人と金チャンネル」を開設し、将棋を知らない人にもわかりやすく将棋の魅力を伝えるための動画の企画・出演・編集を担っている。