「財務省の玉木潰し」説まで出た不倫問題の影響
「10・27衆院選」での議席4倍増で一躍「時の人」となった国民民主党の玉木雄一郎代表が、「Smart FLASH」による「不倫」報道を認めたことで、民放各局「ワイドショー」やネット上での「超おいしいスキャンダル」(民放テレビ幹部)となり、その“行方”が与党過半数割れによる混迷国会の与野党攻防にも影響を及ぼすという「前代未聞の奇妙な展開」(政治ジャーナリスト)となっている。
「公党の代表」である玉木氏にとって、今回の“不倫”発覚は「本来なら議員辞職に値する」(同)との見方が少なくない。ただ、報道直後に「おおむね事実です」と不倫を認め、「妻や家族には一生かけて謝り続けます」と涙交じりで謝罪した姿に、ネット上には「潔いから許す!」「公約実現に邁進しろ!」などの同情・擁護論があふれ、テレビなどの各種情報番組でも、各界有識者がそれぞれの立場から「政治リーダーの不倫の“善悪”」をわけしり顔で論じる状況が続いている。
そうした中、玉木氏自身は「生き恥をさらす覚悟」で、与野各党との党首会談や、テレビ・ネットの各種情報番組に連日連夜登場。その中で、自らの行為を謝罪した上で、衆院選で有権者が大喝采した「若者の手取りを増やすための『103万円の壁』見直し」の実現を熱っぽい口調で訴え続け、そのこと自体が「『政治家・玉木雄一郎』の存在感拡大」(自民長老)につながっているのは事実だ。
もちろん、「中長期的視点でみれば玉木氏のダメージは大きい」(政治ジャーナリスト)ことは否定できない。ただ、政治史を振り返れば「女性問題を乗り越えて首相になった人物も存在する」(同)だけに、玉木氏があえて「いまではない」との表現でにじませた“首相候補”から脱落するかどうかは、「今後の玉木氏の言動次第」(同)との見方が広がる。
「不倫は事実」と涙目で家族と支持者に謝罪
今回の不倫問題は、特別国会召集日の11日早朝に写真週刊誌『FLASH』のウェブ版「Smart FLASH」が、玉木氏が「高松市観光大使」を務める元グラビアアイドルの女性と不倫関係にあることを、写真付きで報じたことが発端だ。これに対し、玉木氏は同日午前9時半に記者会見し、「報道された内容については、おおむね事実」と認めた上で、目を真っ赤にして家族・支持者に対する謝罪の言葉を繰り返した。
玉木氏はこの記者会見での一問一答で、まず不倫の具体的内容や経緯について「(不倫相手は)地元の観光大使をされていて、さまざまなイベントでご一緒することがあった。交際はいつからというのは妻には全て話しておりますので控えますが、妻子のある身でほかの女性に惹かれたということは、ひとえに私の心の弱さだと思う」と説明。
その上で「金曜日(8日)に報道が出るということを聞き、週末、家族としっかり向き合い、長時間、話をしたが『こんな大事なときに、政党の代表として何をやってんだ』と、妻と息子から厳しく叱責(しっせき)され、同時に『国民民主党に期待してくれた多くの方は、103万円の引き上げを期待してくれて入れてくれたんだから、今回の騒動を挽回するためにも全力で103万円の引き上げやってこい』と言われた」と涙目で語った。
当然、記者団からは「倫理を守れなかった人が国を引っ張っていけると考えるか?」との厳しい質問が飛んだが「まさに妻から全く同じことを言われた。『一番近くにいる人を守れない人は国を守れない』と。その言葉を改めて胸に刻み、少しでも国益にかなう仕事ができるよう、全力で取り組んでいきたい」と議員活動を続ける考えを示した。
その一方で、自らの代表としての進退はそのあとの両院議員総会での協議に委ねたが、「趣味は玉木氏」と繰り返す側近の榛葉賀津也幹事長が「党のために私自身が玉木氏を今は支えるときだ」として代表の続投を求め、両院議員総会でも一部不満が出たものの結果的に続投が了承された。
鈴木宗男、菅野志桜里両氏は玉木氏を擁護
そこで政界が注目するのは、不倫発覚以降の玉木氏の立ち居振る舞いに対する政治家や各界有識者らの反応だ。SNSを中心とするネット上では「不倫はプライベートの問題で、政治とは切り離して考えるべきだ」との声が多数派で、複数の社会学者などからも「そもそも政治家も人間で、世界的に見ても、日本のような不倫報道による謝罪文化は異様だ」との指摘が相次ぐ。
そうした中、「政治と金」の問題で、閣僚当時に「疑惑のデパート」とも追及された鈴木宗男元北海道・沖縄開発庁長官(参院議員)は12日に自身のブログで玉木氏の不倫に言及し「玉木代表は表に出て説明責任を丁寧にしている。こうした件で引きこもる人が大方だが、玉木代表は積極的に表に出ることによって局面が変わったのではないか」との見方を示し、「榛葉幹事長が全幅の信頼を持って玉木代表に尽くしていることがこうした場面で活きてくる。自信を持って国民との公約、約束を実現してほしい」と書き込んだ。
また、不倫スキャンダルで政界を離れた元国民民主党衆議院議員の菅野志桜里弁護士も12日に「X」(旧ツイッター)を更新。その中で「政治家のプライベートを進退に直結させると、『そして誰もいなくなった』になってしまうから、政策実現・政治改革のためにも、玉木さん辞任とならなくてよかったと思っている」と玉木氏が代表を辞任しなかったことを評価した。
その一方で起業家の鈴木円香氏は12日、フジテレビ系「めざまし8」で、9月に行われた玉木氏の議員活動15周年パーティーには、妻はもちろん、不倫相手も参加していたことについて「パーティーに奥さんとお相手の方、両方連れていったって、これも人間としておかしいんじゃないの?って思いました」と断罪。その上で、玉木氏が報道当日に街頭演説を行ったことに対し「こんな街頭演説で私はだまされないって思っちゃう」と語った。
これらに先立ち、杉尾秀哉・立憲民主党参院議員は11日に自身のXを更新。玉木氏が同日行われた衆議院首班指名選挙での決選投票で84票の無効票が出たことに「野党をまとめきれなかったことの証左」と指摘したことに対し「自分から与党にすり寄っておいて、その言い草はない」と強い不快感を示した。
「財務省の玉木潰し」説は「買い被り」―財務省幹部
その一方で、ネット上では「玉木潰し」がトレンド入りするなど、いわゆる“ネット民”の多くが、「絶妙のタイミングにもみえる不倫報道の裏に何かがあると感じている」(ネット専門家)のは明らか。しかも、「財務省の玉木潰し」というフレーズが次々と現れることが特徴だ。確かに、「政治と権力の裏舞台を知る者にとっては、財務省がこのタイミングで玉木氏を潰そうとするのは、いかにもありそうな話」(政治ジャーナリスト)ではあるが、財務省内は「まったくの買い被り。昔のことは知らないが、今そんな力があるはずがない」(有力幹部)と苦笑するばかり。
こうした現状について、政界関係者の間では「侃々諤々の議論も14日の時別国会閉幕以降は沈静化する」(同)との見方が出始めている。「事実関係もあらかた出尽くし、これまでと同じ『いつまでやってるんだ』との批判が台頭する」(同)と予測するからだ。
玉木氏の求める「103万円の壁」見直しも、最終的には12月上中旬に自公と国民の政策協議で決着するとみられていることもあり、政界では「玉木氏の不倫がどう影響したかは、結果をみるまでわからないが、自公から一定の譲歩を引き出せば玉木氏の勝ち」(閣僚経験者)との声が広がる。
(泉 宏 : 政治ジャーナリスト)