(写真:© 2024 Bloomberg Finance LP)

自民、公明両党の連立による第2次石破茂内閣が11日夜、発足した。「10・27衆院選」での与党大敗で、30年ぶりの「少数与党」内閣となったことで、石破首相は今後、「出たとこ勝負の未知との遭遇」(自民長老)という厳しい政権運営を余儀なくされる。

その一方で、野党陣営も「足の引っ張り合いで各党バラバラ」(立憲民主幹部)というのが実態で、各党幹部もほとんど未経験の「宙づり国会」(ハングパーラメント)が、政局の行方をいっそう不透明にしている。

そうした中、衆院選での議席4倍増という大躍進で一躍「政局の主役」となった国民民主党が、玉木雄一郎代表の不倫発覚で「進撃に急ブレーキ」(政治ジャーナリスト)がかかり、国民の圧倒的支持を受けた「103万円の壁」見直しをめぐる自公両党との交渉にも影響が避けられそうもない。

これに対し、圧倒的野党第1党となった立憲民主党も、11日の首相指名選挙で日本維新の会、国民民主など他野党の協力が得られず、満を持して臨んだ野田佳彦代表が石破首相に大差で敗れるなど、衆院選での「政権交代が最大の政治改革」という公約も“空証文化”しつつある。

「実質的最高権力者」森山裕幹事長の動き

そうした状況を踏まえ、辛うじて政権維持にこぎつけた自民党は、「実質的最高権力者」(党長老)の森山裕幹事長を中心に、権謀術数も駆使して野党を分断し、年末以降の国会攻防での野党攻勢をかわす構え。さらに「野党の最大最強の武器となった内閣不信任案には解散で対抗」する構えをにじませることで、来夏の参院選での敗北による「自公政権崩壊」の回避を狙う考えとみられる。

これに対し、次期参院選勝利による政権奪取を狙う立憲民主は、野田代表が32の1人区での「野党統一候補」擁立に向け、各党に協力を呼び掛けている。しかし、今回衆院選での議席減で代表交代となった維新や、大躍進の国民民主、れいわ新選組などは「立憲民主主導の候補者調整には応じない」(選挙アナリスト)との見方が多く、「バラバラ野党のまま参院選もしくは衆参ダブル選になだれ込めば、自公政権の延命につながる」(政治ジャーナリスト)だけに、各党リーダーの判断が問われる状況が続きそうだ。

衆院選を受けての特別国会は11日召集され、同日午後の衆院本会議での首相指名選挙を経て、石破自民党総裁(67)が第103代首相に改めて選出された。衆院で与党が過半数(233議席)を割り込む状況下、首相指名選挙は30年ぶりの決選投票での決着に。これを受け同夜の皇居での首相任命式と閣僚認証式を受けて、自民、公明両党の連立による第2次石破内閣が発足した。

今回の首相指名選挙は、衆院の1回目の投票(投票総数465票)で、石破氏221票―立憲民主・野田佳彦代表151票―維新・馬場伸幸代表38票―国民民主・玉木雄一郎代表28票―れいわ新選組・山本太郎代表9票―共産党・田村智子委員長8票―などの結果となり、いずれも過半数に達しなかった。

これを受けた決選投票は石破、野田の上位2氏が得票数を競う仕組みで、自公支持の石破氏が221票を獲得、野田氏の160票を大きく上回った。共産は野田氏に投票したが、決選投票での野田氏一本化を拒否した維新、国民民主、れいわ、参政、日本保守各党が石破、野田両氏以外の名前で投票したためで、無効票が84票に達した。

首相指名選挙が決選投票になったのは戦後5回目で、今回は社会党出身の村山富市首相が選出された1994年以来の異例の事態。自公が過半数を占める参院(投票総数239票)では、石破氏142票―野田氏46票―馬場氏18票―玉木氏11票―田村氏11票―山本氏5票―などで石破氏が圧勝した。

石破首相、記者会見で「政治資金透明化」など決意表明

首相指名を受けて石破首相は11日夕、首相官邸での斉藤鉄夫・公明代表と党首会談で両党の連携強化などを確認した上で、組閣本部を設置、衆院選で落選した牧原秀樹法相と小里泰弘農相の後任に、それぞれ鈴木馨祐元副外相と江藤拓元農相を、公明の斉藤代表が務めてきた国土交通相には同党の中野洋昌元経済産業政務官を起用し、それ以外の閣僚は再任させた。

今回衆院選では、巨額裏金事件での強い逆風を受け、自公両党が過半数を大きく下回る計215議席と大敗。自民は裏金問題で非公認とした無所属ら6人を会派に加えたが、それでも計221議席の「少数与党」として国会運営に臨み、政策ごとに国民民主党など一部野党の協力を取り付けて政権維持を目指すことになる。

そうした状況を踏まえ、石破首相は11日夜、新内閣発足を受けての官邸記者会見で、「自民党は今度こそ、あるべき国民政党として生まれ変わらなければならない」として、政治資金の透明化などに早急に取り組む姿勢をアピール。併せて、経済対策の一環として人工知能(AI)や半導体分野に10兆円以上の公的支援を行い、今後10年間で50兆円を超える官民投資を引き出すための新たな枠組みを設ける方針を打ち出した。

また、外交分野では、トランプ次期アメリカ大統領と「なるべく早いタイミングで直接会談する機会を持ちたい」と対面会談実現への意欲を示した。

「不信任提出なら解散で対抗も」―自民・森山氏

その一方、石破政権で今後の国会運営などを取り仕切るのは森山幹事長とみられている。すでに森山氏は、衆院選直後から、野党各党との幅広い人脈も活用して、少数与党での安定的な政権維持に、様々な駆け引きを展開している。

その中心となるのは,ねて“ゆ党”(“や党”と“よ党”の間という意味)とみられる立場だった国民民主と維新の取り込みによる野党分断∪治改革での立憲民主との大胆な妥協N憲民主に衆院予算委員長を譲ったことで、今年度補正予算案や来年度政府予算案の処理に責任を持たせるち缶酖泙一致して内閣不信任案を提出した場合は、衆院解散で対抗するーーという戦略だ。

中でも、森山氏が重視しているのは、国民民主との「103万円の壁」の見直し交渉。すでに、宮沢洋一自民党税制調査会会長を交渉責任者とし、「国民民主要求の大幅取り入れ」での早期決着に動いてきた。ただ、11日朝に一部メディアが報じた「玉木氏と元グラビアアイドルの不倫」を玉木氏が「おおむね事実」と認め、謝罪に追い込まれたことで、状況が大きく変化しつつある。

玉木氏に代わる国民民主の交渉者は旧大蔵官僚の古川元久・国対委員長となり、自民・宮沢氏との間で「税の専門家」として実務的協議を進めることになる。ただ、国民民主の議員からは「玉木氏が不倫で求心力を失ったことで、我々はさらに引くに引けない状況となった」(若手)との声も相次ぐ。このため、自民内にも「玉木氏の不在で、国民民主取り込みはさらに難しくなる」(政調幹部)との不安が広がる。

石破首相「あるべき政党モデルの確立」を強調するが…

そうした中、自民党は12日午前、党本部で「政治と金」をめぐる自民党のあり方を協議する政治改革本部の初会合を開催。石破首相は冒頭、政治と金問題で自民党が衆院選で敗北、与党過半数割れになったことについて「こういう政治状況になった。私自身の至らないところもあり、お詫びする次第だ」と述べた上で「自民党がさらに近代化を進めて、本当に、これがあるべき政党のモデルだということを確立したい」と強調した。

石破首相は11日夜の官邸会見でも、政党から議員に支給され、使途の公開が必要ない政策活動費について「廃止を含めた」議論に言及しており、12日の政治改革本部で年内の政治資金規正法改正に向け党内論議の促進を確認したが、企業団体献金の廃止などを主張する野党側との交渉は難航必至だ。

(泉 宏 : 政治ジャーナリスト)