1日公文を100枚解いていた「東大医学部卒の神脳」…河野玄斗がボクシングを始めた理由

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昨今、理系YouTuberによる、分かりやすい数学ものチャンネルが人気だ。その背景には、「子供の頃は理系が苦手だったがあらためて学び直したい」という、大人たちの“理系への憧れ”があるよう。実際、YouTubeチャンネルに限らず、書籍も『子供も分かる……』、『苦手でも……』といったタイトルの、分かりやすい数学関連本が続々出版され人気を博している。

大人になると、学ぶことは非常に大切なことで、知識は人生を豊かに生きるための一つの秘訣である、と痛感する機会が増える。無機質に一つの答えを出す科目のように思っていた数学も、実はもっともっと奥深く、生きていくうえで非常に役に立つ“数学的思考能力”を育ててくれる大事な科目だったのだ、と気づいた人も多いのではないだろうか。

そこで数学の魅力を知り尽くす人気理系YouTuberたちに、数学を学ぶことの本当の楽しさ、さらに学び方のコツを聞いてみるリレー連載を実施。第三回は、Youtubeチャンネル『Stardy―河野玄斗の神授業』を配信する、河野玄斗さんに取材。東京大学理科三類を卒業、医師国家試験、司法試験、公認会計士試験などあらゆる難関資格試験を突破し「天才」「神脳」とも呼ばれる彼が考える、“真の学び”とは?

文武両道を目指して始めたボクシング

日本の最高学府と言われる東京大学の中でも、もっとも難関とされる東京大学理科三類を卒業。医師国家試験、司法試験、公認会計士試験という“三大難関国家資格”を制覇しているだけでなく、宅建、簿記検定1級、数検1級、英検1級、世界遺産検定1級、漢字検定1級なども取得している河野玄斗さん。“東大医学部の神脳”との異名を持ち、クイズ番組『頭脳王』では、歴代最高となる3度の優勝実績をも誇っている。

言わば、勉強絡みのあらゆる試験や競争は極めてきたわけで、もはやこれ以上チャレンジするものはない……。そんな印象すらあったのだが、この夏、その河野さんが新たに挑戦を始めたものがある。それは何かというと、ボクシング! 8月に初めての試合に挑み、ダウンを奪って見事勝利。現在は、プロライセンスを取得すべくさらなる練習を積んでいるという。しかしなぜまた、ボクシングという全くの異分野に挑戦しようと思ったのだろうか……。

「端的に言うと、文武両道を目指すためです。“文”のほうはある程度資格も取り切ったので、次は“武”のほうを取っていきたいなと思いまして。これまで文武両道を分かりやすく体現した人ってそんなにはいないと思うんですよ。そこで僕がプロボクサーになったら唯一無二になれるかな、というのがまず1つの理由です。

もう一つの理由は全く違うところにあって。というのも、僕は勉強ができる人というふうに思われているんですけど、どちらかというと僕自身は“できなかったことをできるようにする、そこの部分に長けている人”というふうに思っていて。勉強って、自分に今足りないものは何だろうか?と分析し、頭を使ってそれができるようになるまで実行していく、そのプロセスにこそ意味があると思うんですね。僕はそのプロセスにおいて優れている、と言ったら偉そうですけど、実際上手いと思うんです。

で、そのスキルは勉強を通して身に着けたもの。それを格闘技という、勉強とは対極の位置にあると思われているところで体現してみたいな、と思った次第です。実際のところ、格闘技ってかなり頭を使うので、本当に対極かといったらそんなことはないのですが」

勉強で培った思考プロセスをどう活かすか、が大事

たしかに河野さんのこれまでの実績を見ると、『ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト』のベスト30に輝いていたり、『太鼓の達人 神業チャレンジ』に挑戦して賞金100万円を獲得していたり。勉強に限らず、あらゆる分野で「できなかったことをできるようにする」に挑戦している印象がある。

「ジュノンのコンテストに関しては、体現とかいう意識は全くなくて。友達に誘われてお祭り気分で参加しちゃった、みたいなところが本当ですね。でも『太鼓の達人』は、挑戦へのオファーをいただいた最初こそ、『好きだしやります』ぐらいの感じだったんですけど、練習しているうちに、勉強とは違うところで“できないことができるようになる”を見せられたらいいなと思うようになっていました。そのプロセスの大切さは、勉強に限らず全てに共通していると思うので」

これは必ずしも、「勉強だけが全てではない」ということを言っているわけではない。むしろ、「勉強で培った能力はあらゆるところで生かされる、ということを見せたかった」と河野さんは語る。

「できないことをできるようにするためには、単純に頭を使わなければなりません。『これができるようになるためにはどうしたらいんだろう?』と分析して、その方法を考え、さらにそれをひたすら練習することが必要。

これって勉強における『問題が解けるようになるためにはどう考えればいいんだろう?』という思考プロセスとかなり似ているなと思っていて。そして僕は、勉強を通して身に着けたこの思考プロセスを、勉強以外のところで応用させることこそ、すごく大事なことだなと思っているんです」

公文の問題を毎日100枚解いていた

ということで、河野さんがこの“できないことができるようになる”能力を培った子供時代について伺ってみることに。子供の頃はどのような学びの環境に囲まれ、どのような勉強の仕方をしていたのだろうか?

「勉強を好きにならせてもらえるというか、常に好奇心を満たしてくれる環境にいたというのはあると思います。というのも僕の親は、『あれ何?』とか『何で?』などと聞くと、常に『これはこうだよ』と説明してくれたり、『面白いよね』と一緒になって楽しんでくれたりしていたんです。むしろ僕はそのコミュニケーションが面白くて、『あれ何』『これ何』となんでもかんでも疑問を投げかけていたほど。

そういう好奇心が醸成される環境にあったことと、その後、公文を始めたことも大きかったと思います。僕は1日100枚ぐらい公文の問題を解いていたんですけど、それは親が、どんどんやりたくなるよう工夫してくれていたから。

親は僕の隣で採点してくれていたのですが、ただ採点するのではなく、『お母さんが1枚採点する間に1枚解いて、どっちが早いか競争しよう』みたいな提案をしてくれたり、時には『1枚〇秒で解けたらすごいよね』と時間制にしてみたり。だから僕はとくに勉強している感覚がなくて、遊んでいるような感覚でやっていて、気付けば勉強が終わっている、そういう環境にあったんです」

そうやって楽しみながらどんどん学んでいると、当然、他の子たちより勉強は進むことになる。やがて、この“進んでいる”が“好き”につながっていったのだという。

「公文で算数の問題を1日100枚とか進めていたから、まわりよりかなり進んでいるなというふうには思っていました。で、一回まわりより進むと、だんだん『あれ?僕は算数が得意かもしれない』と思うようになって、やがて“得意”と“好き”が混同し始めたんです。卵が先か鶏が先か分からないような状態になって、気付いたら僕は算数が好きでもあるし得意でもある状態になっていたというわけです。

その後、中学受験をすることになったんですけど、中学入試の問題って公文で解く問題と若干毛色が違っていて。公文はわりと計算重視なんですけど、中学入試は“発想”がけっこうな割合を占めてくるんですね。そこで僕は、暇なときにいつも寝転がって『中学への算数』という雑誌をパラパラめくっていました。その頃にはすっかり算数が好きになっていたので、雑誌も遊び感覚で読めたんですね。『この問題ってこんな解き方があるんだ、面白!』とか、『こんな補助線の引き方、カッコよ!』とか(笑)。謎解きとかパズルで遊ぶみたいな感じで、算数の勉強を楽しんでいました」

算数・数学は“先取り”が必要な学問

このように、算数を好きになることはいとも簡単なことのように語る河野さんだが、とはいえ現実は、算数・数学は苦手と感じる人がかなり多い科目でもある。その分岐点は一体どこにあるのだろうか?

「何といっても算数・数学は積み重ねの学問ですから、どこかで一回分からなくなってしまうと、それ以降のことが全部分からなくなってしまうんです。つまり長い道のりの中で、一回詰まると一生詰む、ということ。足し算、引き算、かけ算、割り算と順に学んでいく中で、たとえば分数の足し算が分からなくなったら、それ以降の公式に行く前にもう詰んでいるわけです。ある意味、ノーミスを強いられる学問とも言えますから、脱落者が多くなるのも分かります」

では、そうやって詰んでしまわないためにはどうしたらいいのか? 鍵を握るのは“多少の先取り”だという。

「先取りといっても、ただ先の学年の内容を勉強すればいいわけではなくて、それよりもいかにして計算力をつけるか、ということが大事だと僕は思っています。結局、計算のところで詰まってしまうと、その計算が出てくる全ての問題に対応できなくなりますから。で、計算力をつけるにはひたすら計算問題を繰り返すしかない。これはもう修行で、何度も何度もやって体に染みつかせるしかないんです。

それでももし『置いていかれた』と感じたら、置いていかれた地点に立ち返ることが絶対です。『置いて行かれちゃった』と感じたとき、多くの子がやるのは、たとえばそのとき小学校3年生だとしたら、その小3の算数をしっかりやろうとする、ということなんです。

でも実はその手前の、小2の範囲でつまずいている可能性もある。先ほども言いましたが、算数・数学は積み重ねの学問なので、その地点に戻ってあげないとどんなに頑張っても結局置いていかれたまま終わってしまうんですよ。勇気を出して、『ここは分かるな』というところまで戻って、そこから始めるのがベストだと思います。

ちなみに僕は、数学の授業中はいつも内職をしていたんですけど、片耳だけは先生の話を聞いていたんですね。それはなぜかというと、分かっているかどうか確認するため。ちらっと意識を向けて、『ああ、この問題はこうやって解いてるのね、はいはい』と思えたときはまた内職に戻って、それができないときは聞く、というふうにしていました」

「要はこういうことね」と把握する能力

先取りすることの大切さは痛感したが、とはいえ先取りしたくても、誰しもそんなにスイスイ先のレベルへと理解が進むわけではない。「それは河野さんが天才だからでは?」と聞いてみたところ……。

「たしかに、数学の新しい概念などを押さえるときに、『要はこういうことね』と把握する能力というのが自分は長けているなと思います。でも子供の頃からそんなことを思っていたわけではもちろんなくて、そのことに気付いたのはいろんな資格試験を受けるようになってからです。

普段の勉強の中で、濃淡つけずにダーッと参考書などを読んで『結局何だったんだろう?』というふうになってしまうことって非常に多いじゃないですか。大抵の本は、要点を広げていたり、何度も繰り返して述べているから、何だかよく分からなくなってしまうんです。

数学も同じで、参考書や教科書が200ページぐらいあったとして、本当の要点だけまとめたら、正直、見開き2ページ分ぐらいで済むんですよ。中学数学なんてとくにそうで、たとえば『二次方程式は、たすきがけという解法があって、因数分解の公式が使えないときはこれを使う』とか。

今僕が話したこの内容だけで充分なんですけど、実はこれを30ページぐらい割いて解説しているんですね。それで『何かたくさん書いてあって分からなかったなあ』となりがちなところを、『要はこういうことをするわけだよね』と置き換えていく。これが、あらゆる勉強をする中で役に立ってくる能力なんですけど、僕はこの能力を、計算問題をひたすら解くという訓練によって身につけられたと思っています」

そして初めて自分のその能力に気づいたのが、資格試験を受けていく中でだったという。

「大学の受験勉強をしている間は、受験というものは先行者利益―-、つまり早いうちから始めているほど有利になると考えていました。でも資格試験に挑むようになったとき、この『要はこういうことね』と把握する能力が大事になってくる、と気がつきました。というのも資格試験において僕は、大学受験のときより圧倒的に短い勉強期間で合格を果たしていたんですね。

そこで何で短期で合格できるんだろう?と考えたとき、1から地道にすべてを完璧におさえていくという勉強スタイルではなく、まずバーッと参考書などを読んで核となる部分を押さえ、それを変形させながら他の問題を解いている……、そういうスタイルで自分は勉強しているなと気づいたんです。

この『要はこういうことでしょ』と把握する能力は、文系の勉強でも生きていたと思います。僕は高校に入るまでは国語があまり好きじゃなかったんですけど、高校生になって『ちょっとやってみるか』という気持ちになりまして。

そこで小論文を徹底的に読んでいたら、『あれ、国語も数学の勉強と一緒で、“要はこういうことでしょ”というのを把握する学問では?』と思った。そうしたら『国語も面白いかも』と感じるようになって、どんどん好きになっていったんです。その結果、いろんな資格試験に対して、最善となるアプローチができる力が身に着いたんだと思います』

「なぜ解けなかったか」を徹底的に考え抜く力

他にも、算数・数学における徹底的な訓練を通して身に着けた能力はあるか、聞いてみた。

「僕がいつも数学の勉強を進めていく中で、意識していることがあって。それは問題が解けなかったときに、『この問題を解けるようにするためにはどうしたら良かったんだろう?』と考え抜くことです。ある試験問題を僕は解けなかったとしても、世の中には絶対にそれを解ける人がいるわけじゃないですか。『その人はどう考えてこの問題が解けたんだろう?』と、できる人の思考をイメージしてみることはとても大事なんです。

解けた人だって、神からのお告げで解けたわけはない(笑)。何かしらの論理や取っ掛かりがあって、それをもとに解法を選ぶことができたはず。そのフックは何だろうっていうのを、必ず考えていくようにしているんです。そうすると、同じようなフックがある問題に関しては同じようなアプローチができるようになるので、解ける問題の幅が一気に増えるわけです」

この「どうすれば良かったんだろう」と考え抜く力は、冒頭で語ってくれたボクシングの技術向上にも生かされているという。

「スパーリング(実践的な練習のこと)をしていると、『何であそこでパンチをもらっちゃったんだろう』とか、『何であそこでパンチを当てられなかったんだろう』とか、試験問題が解けなかったときと全く同じ状況に遭遇します。

そこで、『あのとき〇〇すればパンチをもらわなくて済んだんだ』とか、『ここで軽くフェイント入れれば当てられるようになるんだ』とか、一個一個振り返って確認をする。さらに、『じゃあこの動きを練習すればこういう状況で使えるようになるじゃん』と、自分の中で腑に落としていく。あとはそれをひたすら実践するだけです。

つまり頭を使って原因を分析し、次に同じ場面に出くわしたときにはどうすればいいのか判断できるようにする――、これも全ての学びに共通している必要不可欠な能力だと思っています」

このように、“できなかったことをできるようにする”ための様々な能力を、勉強を通して身に着けていった河野さん。しかしボクシングは殴られる競技でもあるゆえ、脳へのダメージもあるのではないかと心配になってしまう。その懸念はないのだろうか?

「試合以外ではヘッドギアを付けていますし、そんなに危険にさらされることはないので心配はしていません。たまに試合のときとか練習のときにうっかりいいパンチをもらってしまったら、クラッとするぐらいはある、という感じですね。それよりも僕が感じているのは、逆に脳へのメリットのほうで。

というのも僕はボクシングを始めてから体重が10キロ落ちたんですね。わずか8,9カ月ほどで。脂肪が減ったうえ、筋肉は劇的に増えて体力がついた。結果、血流が良くなってむしろ脳にはプラスに働いているんじゃないか。その説のほうが強いかもしれない、と個人的には思っています(笑)」

河野さんの、勉強で培った能力を生かした挑戦はとどまるところを知らない――。

◆“できなかったことをできるようにする”を勉強でもスポーツでも体現している河野さん。後編では「神脳」とも言われる類稀なる学力を持つ彼が考える「理系思考とは何か」についてお届けする。

河野玄斗・プロフィール

1996年3月生まれ。神奈川県出身。2020年3月、東京大学医学部卒業。東大在学中の2018年にクイズ番組『頭脳王』に登場し、優勝したことで注目を集める。同年、自身の会社・(株)Stardyを設立し、Youtubeチャンネル『Stardy―河野玄斗の神授業』を開設。現在、登録者数120万を超える人気チャンネルとなっている。2022年より次世代型オンライン塾『河野塾ISM』を開校。2024年には、オンライン少人数クラス授業『KONO式』、次世代型模試『KONO模試』をリリース。三大難関国家試験と言われる医師国家試験、司法試験、公認会計士試験に全て合格している他、実用英語技能検定1級、実用数学技能検定1級、世界遺産検定1級、統計検定1級、日商簿記検定1級、宅地建物取引士など、多数の難関資格試験を制覇している。

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