記事のポイント

ナーズは30周年を記念して、ストーリーテリング、ゲーム、コマースを融合したバーチャル体験コンテンツ「ナーズ メゾン エクスプリシット」をローンチした。

仏パリのリアルイベントとリンクし、デジタル体験を通じてグローバルに消費者と接点を強化した。

ロブロックスの成功を活かし、データ活用とゲーミフィケーションで体験を最適化。


化粧品ブランドのナーズ(Nars)はブランド30周年に合わせ、バーチャルコンテンツ「ナーズ メゾン エクスプリシット(Nars Maison Explicit)」をnarscosmetics.comで9月3日にローンチした。この仮想体験はストーリテリング、ゲーム、コマースを融合したもので、10カ国語に対応、南北アメリカ、EMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)、アジアを含む12市場においてモバイルとデスクトップでアクセスできる。

ナーズのグローバルデジタルイノベーション・メディア担当エグゼクティブディレクターであるガブリエル・アーシャンボー氏によると、ナーズにはメゾン エクスプリシットのIRLイベント(リアルイベント)も主催する予定があり、イベントでのQRコードはオンライン体験にリンクしている。IRLイベントの第1回目は9月14・15日に仏パリで開催され、誰でも参加することができた。

「目標は、ナーズならでの冒険やエンゲージメントを促す魅力的な世界を構築することだった」とアーシャンボー氏は語る。

ナーズはYouTube動画広告を含むソーシャルメディアでメゾン エクスプリシットを宣伝。このデジタルエクスペリエンスはまず米国とカナダでローンチし、9月中旬からヨーロッパとアジアでもスタートした。



アーシャンボー氏は次のように語った。「2022年、当社はRoblox(ロブロックス)でブランド体験をローンチした最初の美容ブランドの1社だった。現在でも、美容分野で最多の参加者数を誇る(Roblox)体験のトップ10にランク入りしており、訪問者数の合計は4100万人を超えている。このような経験を通してゲーミフィケーションについて学んだことすべてをメゾン エクスプリシットに取り入れることができた」。

NYCのルーツとグローバルアンバサダーを強調



メゾン エクスプリシットのデジタルワールドは、ニューヨーク市から始まったナーズのルーツを参考にしている。ナーズは1994年にバーニーズ ニューヨーク(Barneys New York)で発売され、ブリーカーストリート413番地に最初の旗艦店をオープンした。そのテーマは注目の製品に反映されており、7月発売のエクスプリシット・リップスティックのラインでは、ナーズのオリジナルの処方とシェード(色)が復活した。

ニューヨークシティの架空の地区、エクスプリシットを舞台にしたこの体験では、ユーザーは最新のエクスプリシット・リップスティック・コレクションを見たり、仮想ナーズブティックで買い物をしたり、エクスプリシット・リップスティックのキャンペーンフィルムに登場するグローバルアンバサダーのスタイルにインスピレーションを得た「アーバンシャトー(urban chateau)」の部屋を見て回ることができる。アンバサダーは、キアラ(インスタグラムのフォロワー数3500万人)、ポム・クレメンティフ(フォロワー数200万人)、カミラ・モローネ(フォロワー数500万人)だ。ブティックでは、エクスプリシット・リップスティックのインタラクティブな3Dバージョンを操作したり、口紅ケースのカチッという音を彷彿とさせるASMR要素を聞いたり、メイクアップチュートリアルを視聴したり、エクスプリシット・リップスティックの全シェードをバーチャルで試すことができる。

ユーザーは、エクスプリシット・リップスティックのシェードの「Provocateur(挑発者)」と「Bare It All(すべてをさらけ出す)」からインスピレーションを得た2つのアバターからどちらかを選べる。そして、ナーズが2022年に発表した3人のデジタルアンバサダーのうちの1人であるパワー・プレイヤー・チェルシーがユーザーのガイドを務める。また、ユーザーは、世界中に戦略的に配置されたダーティートークフォン(Dirty Talk Phones)にアクセスでき、ナーズについてグローバルアンバサダーが語る音声ストーリーテリングを聞くことができる。

アーシャンボー氏は、「物理的なイベントには限られた数の消費者しか参加できないため、拡張性のあるものを作りたかった。デジタルで構築する利点は、現実のルールが当てはまらないので、テクノロジーが許す範囲内では何でもできるということだ」と述べる。

エクスペリエンスのそれぞれの「アーバンシャトー」ルームでは、エクスプリシット・リップスティックの収集から限定リワードのロック解除まで異なる体験を提供している。エクスプリシット・リップスティック3つをすべて集めると、ユーザーはVIPアフターパーティーへ招待される。バーチャルのアフターパーティーでは、別のデジタルアンバサダーであるパワー・プレイヤー・マキシーン(Power Player Maxine)と交流したり、エクスプリシット・リップスティックキャンペーン撮影の舞台裏映像にアクセスしたりできる。

「楽しいゲーミフィケーション要素を取り入れて、魅力的にしたかった」とアーシャンボー氏は言う。「デジタル体験に関して、消費者は洗練されておりこだわりを持っているから」。

自社チャネルのデータを活用



ナーズは、このプロジェクトを実現するために、バーチャルエクスペリエンス開発を行うジャーニー(Journee)と提携した。アルシャンボー氏によると、ナーズは何がユーザーの興味を引き、エンゲージメントを促進するのかなど、ユーザーがどのようにエクスペリエンスを体験するかを積極的に理解したいと考えているという。そのようなことについての学びは購入までの経路を理解したり、将来のエクスペリエンスの構築に役立つ。ジャーニーからはそのような分析が提供されるという。

「Robloxのようなプラットフォームが引き続き発展し成熟するにつれて、データの収集と分析の能力はますます(高度に)なっている」とアーシャンボー氏は言う。ブランドにとってもっとも豊富なデータがあるところは、やはり自社チャネルである。

ナーズは、美容業界のデジタル革新を主導していることで定評がある。2019年にYouTubeで、2020年にはインスタグラムでバーチャルトライオン(仮想おためし)を開始し、その後、主要プラットフォームでARフィルターをローンチした。2021年にはビデオゲームの『あつまれ どうぶつの森』とRobloxでのアクティベーションで、ゲームへの進出を果たした。2023年、Robloxのアクティベーションであるナーズ・スイートラッシュ(Nars Sweet Rush)への訪問者は合計150万時間以上をその体験に費やした。2021年には最初のNFTコレクション「オーガズム エクスペリエンスト(Orgasm Experienced)」を展開。オーガズムとはベストセラーのブラッシュ(パウダーチーク)の色を指す。2023年にはNFTプロジェクト「オーデンティティ(Odentity)」で、NFTコレクティブのボスビューティーズ(Boss Beauties)と提携し、「オーガズム、アクティベーテッド(Orgasm, Activated)」コレクションを通じてデジタルコレクターズアイテムを発売した。

[原文:After Roblox success, Nars launches a virtual experience on its own website]

Zofia Zwieglinska(翻訳:ぬえよしこ、編集:戸田美子)