サザンカパートナーズ・牛越直社長インタビュー 〜待ったなしの早期再生、次世代を担う人材は組織の中に〜
「ファンドはハゲタカ」とのストーリーはもはや古典だ。
バブル崩壊やリーマン・ショック後、大企業のバランスシート調整に登場したファンドは、大胆な振る舞いがメディアなどで拡散した。このため、企業統治にファンドが関わることへのアレルギー反応は根強い。ただ、中小企業の再生支援の現場では、イメージとは全く異なる取り組みが進んでいる。
東京商工リサーチ(TSR)は、ファンドを活用した再生支援に取り組むサザンカパートナーズ(株)(TSR企業コード:698736982、東京都港区)の牛越直社長と圓尾貴司取締役に、中小企業の現状や支援の取り組みを聞いた。
―サザンカパートナーズについて
牛越:長期的な視点で本業支援に取り組むロングブラックパートナーズ(株)(TSR企業コード: 297597809、LBP)と商工中金キャピタル(株)(TSR企業コード:698551257)の合弁で2023年9月に設立された。今年2月に出資総額72億円でサザンカ中小企業活性化投資事業有限責任組合(サザンカファンド)(※1)を組成した。中小企業基盤整備機構も出資する中小企業再生ファンド(※2)(令和2・3年度補正予算)だ。ファンドGP(無限責任組合員)のサザンカパートナーズには商工中金キャピタルが49.8%出資している。全国型再生ファンドは国内にいくつかあるが、我々は金融機関と専門家(LBP)が組む他に類を見ない特色を持ったファンドだ。
私はLBPを2008年に設立し、以降代表を務めるとともに地域再生ファンドを運営し、「ハンズオン」での再生支援に取り組んできた。今でこそ、多くの人がハンズオンと言っているが、LBPが再生支援の取り組みを始めた十数年前は一部の再生実務家が使う程度だった。ハンズオンと「モニタリング」は違う。後者はあくまで業績やキャッシュフローのモニターに留まるが、ハンズオンは経営そのものに介入する。
中小企業への支援では、その場所に行って心を通わせる努力が必要だ。私もかつて家族とともに岡山に10年間移住し、支援先企業と一緒になって再生に取り組んだ。また、LBPやサザンカファンドでは投資実行(支援決定)前から支援候補先に常駐することもある。
圓尾:私は商工中金からの出向だが、ほかのファンドで支援決定前から常駐するケースは聞いたことがない。コストの問題はあるが、その後の再生に向けた立ち上がりを考えると先に入った方が絶対に良い。
牛越:コストを無視することはできないが、出資者から管理報酬を頂いており、その中で賄っている。報酬を受け取る以上、良い投資にしなければならず、それに繋げるためには良い立ち上がりが必要で、決定前の常駐は必要コストだ。
※1 その後追加出資があり、5月31日現在の出資総額は76億円。出資者は中小機構、商工中金、地銀7行
※2 令和2・3年度補正予算で措置されたスキームで組成されるファンドの総称。中小機構はLP(有限責任組合員)として出資する
―LBPと商工中金のタッグについて
圓尾:商工中金は6年ほど前から再生支援の強化を模索していた。多くのコンサルや支援者とコミュニケーションしたが、LBPのハンズオンの支援力に惹かれた。
牛越:投資先、投資候補先の経営者と対話を始める際、商工中金がファンドに関与していることは安心感の醸成に繋がっている。
―サザンカパートナーズへの出資比率は、LBP50.2%、商工中金キャピタル49.8%だ
牛越:入口の段階で役割分担について整理した。ファンド運営では船頭が多いとうまくいかない。運営主体はLBPだが、商工中金には全国ネットワークや資金面でサザンカファンドの運営に最大限のコミットメントを頂いている。
―支援対象は商工中金の与信先だけなのか
牛越:商工中金をメインとする企業も手掛けるが、それだけではない。地域金融機関が自行だけでは再生を動かしていけないが、商工中金が何番手かに入っていて、協力することで動かしていけるような案件も想定している。ただ、2月以降、全国の地銀から商工中金と取引がないが、地域にとって重要な企業の紹介が相次いでいる。
―組成以来の実績、投資判断の基準は
牛越:投資実行は2件、相談ベースでは約80件(※3)だ。実行した2件のうち1件は社名を開示した。レピュテーションへの配慮が必要な中で、しっかりとした前向きなメッセージを出すことが大切だと判断した。
投資判断で大切なのは事業性の見極めだ。我々はリファイナンス前提でのお付き合いではなく、ファンドとして全てのリスクをテイクする。コロナ禍で負った過剰債務もあり、相談を受ける案件は事業性が極めて厳しいケースが目立つ。こうした状況に金融機関も悩んでおり、長年の付き合いの中で「事業性がまだあるのではないか」との想いで持ち込まれる。だからこそ、支援決定前から常駐する。
ほかのファンドだと、社外の専門家のデューデリ(資産査定)を見てプライシングをし、支援案を提案することが多いが、我々は自分たちの目で見極めることに時間をかけている。
取材に応じる牛越直社長
我々の取り組みを通じて金融機関に気づきを与えたいとの想いもある。資金繰りに窮した企業を抜本再生する場合、企業が所在する地域外のスポンサーに身売りする形にならざるを得ないケースが多い。着手が遅すぎるのだ。金融庁が早期再生への取り組み促進を掲げた(※4)こともあり、金融機関の本部人員は拡充されているが、営業店からの「トスアップ」がまだ弱い。なので、早期再生に関する金融機関向けの研修や、ツールとしてのファンドの有用性の啓蒙も非常に重視している。
また、債務者区分とその企業経営者の年齢の関係を分析すると、高齢になるほど下位区分(※5)になるとの話もある。上位区分で財務の良い企業はM&Aの対象になり、悪い企業は下位区分のままM&Aも事業承継もされず、経営者はますます高齢になる。環境は変わりつつあるが、金融機関内の評価制度も含め、こうした層へのアプローチには課題が多い。
さらに、スポンサー型による抜本再生の配当率は平均3%との話もある。早期に着手できておらず、スポンサー選定時の交渉余地が少ないことを物語っている。地域経済の活性化を是とする前提自体に議論の余地があることは承知した上で申し上げると、スポンサーが地域外の企業だった場合は本社機能が移転されたり、サプライチェーンが大きく塗り替わったりする。これでは地域経済は守れない。
上場企業の場合、赤字がずっと続くとゴーイングコンサーン注記(※6)が記載され、継続企業の前提にシグナルが灯る。継続企業の前提が成り立っていないと清算価値になってしまう。金融機関としてその企業の価値を本当に考えるのであれば、本業支援に取り組むか、早期再生に舵を切るしかない。どのようにトスアップの仕組みを作るのかは、金融機関がその地域とどのように関わり合うかに繋がる。
※3 インタビューは9月上旬実施
※4 2024年3月8日に金融庁は経産省・財務省と連名で「再生支援の総合対策」を公表。このなかで、監督指針を改正し、金融機関に「事業者の現状のみならず状況の変化の兆候を把握し、一歩先を見据えた対応を求める」(2024年4月より適用)ことを明記した
※5 債務者区分と単純比較はできないが、TSRの調査(「代表者の年代別財務分析」調査、2024年8月29日)によると、経営者の年齢別の経常利益率(中央値)は、40歳未満3.0%、40歳代2.6%に対し、70歳代2.4%、80歳以上1.9%で、高齢の企業ほど悪化している
※6 TSRの調査(2024年3月期決算 上場企業「継続企業の前提に関する注記」調査、2024年5月31日)では、2024年3月期本決算を発表した上場企業約2,300社のうち、決算短信でゴーイングコンサーン注記を記載したのは23社
―金融機関がトスアップしても、企業側の「ファンドアレルギー」が強いこともある
圓尾:そうしたケースは少なくない。先日も支援企業の従業員向け説明会を開催したが、「ファンド?ハゲタカか?」との受け止めもあった。だからこそ、官民ファンドであることや商工中金が関与していることなどを丁寧に説明して理解を得るようにしている。経営陣や取引先も含め、丁寧なケアは当然必要だ。
牛越:サザンカと名付けた理由もそこにある。LBPで支援した企業の経営者に支援完了後にインタビューしたが、「ファンドは進駐軍」と言われた。ファンドに対するアレルギーは今でも根強いと感じた。なので、名前は企業に寄り添うことを表したものにしたかった。
最終的には商工中金メンバーで考えてもらった「ひたむきさ」「困難に打ち勝つ」などを花言葉として持つサザンカとなった。支援企業には、名前の由来を含め、我々が何故この仕事をしているのかについてもお話している。商工中金はこうした想いを体現した方が多いので、一緒にやっていて全く違和感がない。
圓尾貴司取締役
―債務者区分と経営者の年齢の話があったが、そもそも後継者がいない企業が多い
牛越:TSRは「後継者不在率」(※7)を出しているが、不在の定義は難しい。大切なことなので昔、TSRに聞いたことがある。企業へ「後継者は居ますか?」と聞き取りして集計しているとの回答だった。中小企業の場合、聞き取り対象は現役の経営者が中心だと思うが、「オレに成り代われる奴はいない」となるだろう。つまり、「社長による後継者認定率」となっている可能性がある。
現在の調査手法による後継者不在率は高く出やすいので、M&A仲介ビジネスを加速させたい方には刺さる。ただ、再生実務の経験から言うと、多くの企業で後継者になりうる人材は必ずいる。
中小企業の組織は、大きく分けて「文鎮型」と「ピラミッド型」に分かれる。前者は例えば小売業で社長が経営から管理まで全て担い、ほかはアルバイトのような形態だ。このケースで後継者を探すのは難しい。一方、ピラミッド型では、各現場で責任感を持って働いている人は後継者候補となる。後継者を考える場合、いわゆる番頭や管理部長など金融機関のカウンターパートとなっている人が思い浮かぶかもしれないが、その方々は「現経営陣」だ。
製品開発や製造現場、営業チームなどの縁の下の力持ちとして会社を支えている若手(30〜50歳代)の中心人物を思い浮かべて欲しい。再生支援の現場では、こういった方々が後継者候補になる。
圓尾:そうした方が頭角を現して再生が動き出した瞬間は、再生支援に取り組むうえでの大きな喜びだ。ただ、そうした人材は経営を担ったことはないケースが多いため、本ファンドで経営人材を補完する。
※7 2023年「後継者不在率」調査(2023年11月14日)。不在率は61.09%(前年比1.19ポイント上昇)で、初めて60%を超えた。信用調査時の当該企業へのインタビューで収集されたデータを基に算出している
―窮境企業を支援するプラットフォームは足りているのか
牛越:現在の事業再生は、「自力再生」と「スポンサー型の抜本再生」しか選択肢がない。中小企業にフォーカスすると、その中間の「準自力再生」があっても良いはずだ。我々はそれを「次世代再生」と呼んでいる。
先ほど、後継者候補の話をしたが早期再生によって中小企業で真面目に働いている次世代の人材の底力を信じて、その力を解放する。そのツールとして、ファンドによる再生支援は活用できるはずだ。
―投資期間は
牛越:ファンドとしてパフォーマンスや企業人の想いとしても3年程度でEXITするのが理想だ。ただ、LBPの実績をみると平均5-6年だ。
―再生支援にファンドや金融機関以外のファイナンサーが登場することが多くなった。一方で、与信管理担当者は「その支援者は信頼できるのか」と悩んでいる
牛越:ファンドがハンズオンで関わるということは再生に自信があることの裏返しだ。金融支援額の適切性や事業性評価、財務健全化に向けた道筋などすべての検討をしながら相談企業の再生に全力を尽くす。仮にファンドとして支援決定ができなかったとしても、相談企業の事業性の見極めや代替スキームの提案に努めている。我々を事業再生のリトマス試験紙として活用してもらえればありがたい。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年9月17日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)