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 店舗前などにある傘立てに置いた自分の傘を第三者に持ち去られることがある。似たようなビニール傘をうっかり間違って持って行かれることもあれば、急な豪雨で傘を持っていない者が確信犯的に他人の傘を〝失敬〟していくこともある。そうして、傘を取られる立場になる経験をした人も少なくないだろう。過失か故意かはともかく、自分の傘を持ち去ろうとしている〝現行犯〟を目撃した時、その相手にどう接したらいいのか。「大人研究」のパイオニアとして知られるコラムニストの石原壮一郎氏が対策を提言した。

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 【今回のピンチ】

 雨の日にビニール傘をさしてコンビニに。買い物が終わって出ようとしたら、まさにその時、入口の傘立てから自分の傘に手を伸ばして抜こうとしている人が……。

  ◇  ◇

 コンビニ前の傘立ては、使うたびに不安になります。ちゃんとした傘のときは「盗まれないかな」と心配だし、ビニール傘のときは誰かに間違えられたり、自分がうっかり間違えたりする危惧を抱かずにいられません。

 そんな経験を踏まえて、今日は店に入るときに「持ち手は黒で、傘立ての右隅に入れた」と、心の中で念入りに確認しました。買い物を終えて店を出ようとしたら、若くてガタイのいい青年が、持ち手が黒い傘を右隅から抜こうとしているではありませんか。

 その傘は、間違いなく自分のものです。このままだと傘を持ち去られてしまう大ピンチ。さて、どう声をかければいいのか。

 いきなり「おい、人の傘を持ってくんじゃないよ!」と、キツイ口調でとがめるのは危険です。おそらくはわざとではなく、当てずっぽうで手に取ったのでしょう。

 キツイ口調でとがめるのは、いわば泥棒扱いしているのと同じ。相手を刺激して、凶暴な反応を招きそうです。「それ、俺の傘だから」という指摘も、カチンと来た相手に「証拠はあるのか!」と反論されかねません。証拠があるかと聞かれたら、名前でも書いてない限り、言葉に詰まってしまいます。

 この状況で大切なのは、自分の傘をその青年の手から平和裏に取り戻すこと。うっかりミスを責めたいわけではありません。

 まずは、半笑いぐらいの口調で「あっ、ごめん、ごめん」と声をかけて、青年の動きを止めましょう。謝る必要はありませんが、人は謝ってくる人間に対しては、穏やかな気持ちで接する習性があります。

 その上で、静かに「たぶんその傘、俺のだと思うんだよね」と主張すれば、「あ、すいません」と手を引っ込めてくれるでしょう。ただ、自分の傘を見失った相手は、どうしていいか戸惑ってしまいます。

 華麗な大団円を目指すなら、さらに「お兄さんの傘も、持ち手が黒だったの?」と尋ねるのがオススメ。「そうなんスよ」と答えた場合は、ほかの黒の持ち手の傘を指差して、「じゃあ、これかな」と決めつけます。

 ほかに黒がなかったら「誰か持ってっちゃったかな。店員さんに言ったほうがいいかもね」と適当にアドバイスしつつ、さっさと立ち去りましょう。「何色だったか……」と首を傾げた場合も、「ビニール傘って紛らわしいよね」と適当なコメントを残して、やっぱりさっさと立ち去ります。

 自分の傘が戻れば、長居は無用。モタモタしていたら、面倒に巻き込まれるという新たなピンチを招きかねません。

 万が一、相手が「ふざけんな。俺の傘だ!」と言ってきたら、どうればいいのか。なんせ、自分の傘という明確な証拠はありません。しかもその手の輩は、簡単に主張を曲げないでしょう。その場合は、涙をこらえて引き下がるのが最善の判断かも……。そのまま濡れて帰れば、雨が涙を洗い流してくれます。

(コラムニスト・石原 壮一郎)