柳楽優弥が選んだ1冊は?「未来への期待と不安を感じていたとき、ここから多くのことを受け取りました」

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 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2024年10月号からの転載です。

花嫁は獄中にいる猟奇殺人犯…? 遺体のありかと事件の真相をめぐるアクリル板越しの駆け引きに背筋が凍るサイコサスペンス

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、柳楽優弥さん。

(取材・文=倉田モトキ 写真=干川 修)

「“愛”とは何かという問いが軸になっている本です。正直、答えは分かりません。周囲への思いやりや優しさなのかなと思うし。ほかにも“幸せ”や“理想”など哲学的なテーマが書かれていますが、どれも簡単な言葉で綴られ、ファンタジー要素も強い。大好きな世界観でした」

 柳楽さんが薦めるのは『アミ 小さな宇宙人』。ペドロ少年が宇宙人アミの案内で地球の本当の姿を知るエンリケ・バリオスの名著だ。アミが語る内容は人が幸せになるための普遍的な真理ばかり。しかし、原書の初版から約40年を経ても、その理想に近づけていないことを実感する。

「僕が俳優の仕事を始めてから20年ほど経つ中で、エンターテインメントの根本は変わってないものの、業界自体には大きな変化を感じるんですよね。サブスクが増え、海外作品の輸入輸出も身近になってきた。その良し悪しは別として、この先どうなるんだろうという期待感と不安がある。想像もつかない変貌を遂げるかもしれないし。そんな未来に向けて心の準備をしておきたいと思っていたタイミングで薦められた一冊でした。物事が進化していく過程で変わっちゃいけないものもある。それを教えてもらったように思います」

 現在公開中の『夏目アラタの結婚』。この映画で柳楽さんは連続殺人事件の死刑囚・品川真珠と獄中結婚する主人公を演じている。ここで描かれているのも「やはり愛」と柳楽さん。

「原作を読んだ時、最初は真珠が冤罪か否かを巡るミステリーかなと思ったんです。でも面会を通して、消えた遺体のありかを真珠から聞き出そうとするうちに、二人の間に愛情のようなものが芽生えてくる。この複雑な作品を堤幸彦監督の下で撮れることに大きな魅力を感じました」

 元ヤンキーで現在は児童相談員であるアラタ。この役については、「器が大きく頼りがいがある」と評する。

「面会室でいきなり『俺と結婚しようぜ』と言い出す破天荒さがいいですよね(笑)。監督の中にはマーロン・ブランドやジェームズ・ディーンのイメージがあったようで、外連味のある彼の言動は演じていて楽しかったです。作品全体にもリアルさの中にファンタジー要素があり、そのハイブリッド感が心地良かったです」

 二人の関係の行方にも注目したい。

「死刑囚というフィルターがかかっているけど、真珠からこぼれ出る言葉って実は普遍的で。共感する部分も多いので、そうした二人の会話劇も楽しんでいただきたいです」

ヘアメイク:勇見勝彦(THYMON Inc.) スタイリング:長瀬哲朗 衣装協力:ポロシャツ4万1000円(税込)(peter wu/M TEL03-6721-0406)、その他全てスタイリスト私物