文=加藤恭子 撮影=加藤熊三 写真提供=龍神酒造

もはやロゼワインにしか見えない純米大吟醸酒スペックの「ロゼノユキドケ」! 華やかな見た目通り、甘酸っぱく、もぎたてイチゴのようなみずみずしさとキュートな香味が広がる。飲み心地のよい軽やかな余韻は、さすが龍神酒造が醸す「尾瀬の雪どけ」ファミリー。甘酸っぱさがしっかりと際立つため、ロックでも薄く感じず、美味しい。アルコール度数は12% 「ロゼノユキドケ」(龍神酒造)720ml  1870円


[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

新星の甘口ロゼワイン!?

 透明感あふれるほんのりとしたルビー色に、思わず見惚れる。グラスを傾ければ、穏やかなベリー系の香りとともに、もぎたてのイチゴのようなみずみずしい甘酸っぱさが、やわらかな余韻を残し、すっと軽やかにすべり落ちる。新星の甘口ロゼワイン!? いえいえ、これはいまやニューヨークでブレーク中の「ロゼノユキドケ(海外の商品名はOze×Rose/オゼロゼ)」。「尾瀬の雪どけ」シリーズのなかでも、ひときわ完璧でキュートな存在感を放つ正真正銘、日本酒界のアイドルの巨星だ。

 

純米大吟醸に向く全国屈指の“超軟水”

400年以上前、水源豊かな群馬県館林市に創業した龍神酒造。敷地内の「龍神の井戸」より汲みあげられる超軟水を仕込み水としている。近年、欧米やアジアなどでの人気にいっきに火がつき、現在は売上高の30%を海外が占める


「尾瀬の雪どけ」を代表銘柄とする龍神酒造は、1597年(慶長2)、利根川と渡良瀬川に挟まれた水源豊かな群馬県館林市に創業した。つまり、戦国時代から酒造業を続けてきた歴史ある酒蔵。敷地内に掘られた龍神の井戸より汲みあげられる、全国きっての“極軟水”を仕込み水としている。

 みずみずしさと米のうまみ、そしてふわっと舞いあがるような軽やかさ。一度飲んだら忘れられない尾瀬の雪どけシリーズの特徴は、この極軟水がきわめて重要な要素なのだと、杜氏の堀越秀樹さんは話す。

「群馬県は山あり谷ありの起伏に富んだ地形で、水質も個性豊かです。そんななかで、私たちの極軟水は、吟醸造りに有利。ゆっくりと低温発酵させることで、米のうまみがありつつ、余韻は軽やか。カルシウムやマグネシウムといったミネラル分がごく少ないため、やわらかいお酒になりやすいのです」

左から杜氏の遠藤英行さん、杜氏の堀越秀樹さん、上槽担当の石川清久さん。龍神酒造は杜氏2人の体制をとっている


 龍神酒造といえば、純米大吟醸。現在の製造比率は純米大吟醸以上が約75%を占め、残りの約25%が純米酒、と堀越さんは続ける。

「たくさんの人に純米大吟醸を味わっていただきたいので、価格は抑えてカジュアルな路線を重視しています」

デリケートで弱い “赤色酵母”

「ロゼノユキドケ」は、2017年の試験醸造から初リリース。2018年から本格的にデビューし、人気に火がつき増産を重ねてきた。

 ロゼワインのようなピンク色と、イチゴのような甘酸っぱさは、赤色酵母を使うことで生まれる。酵母は自然界のあらゆるものに生息している微生物であり、糖分をアルコールと炭酸ガスに分解する酒造りの立役者。とくに赤色酵母は、とても繊細で扱いが難しいと堀越さんは説明する。

赤色酵母を使ってもろみを仕込む。赤色酵母は非常に弱く、ほかの酵母に負けやすいため、扱いが難しい


「赤色酵母は非常にデリケートで、弱い酵母なんです。寒ければ風邪をひき、暑くてもダメ。極端な言い方をすると、自滅しちゃうほど弱い酵母です。万が一、ほかのもろみがちょっとでも混ざると、とくに強い9号酵母が入ってしまうと、赤色酵母が負けて透明な酒になってしまいます。目に見えない世界なので、怖さはつねにあります。タンクや道具の洗浄殺菌を完璧にするしかありません」

 

スイーツやスパイシーな料理にも合う

 イチゴの果実のような“甘酸っぱさ”を引き出すのも、至難のわざ。赤色酵母の調子によっては、発酵が進みすぎて辛口になってしまうこともあり、逆に酸が出ないまま甘口で終わってしまうこともある。リスクとも隣り合わせなのだという。

 そんなロゼノユキドケの甘酸っぱさと穏やかな香りは、食事と組み合わせると、なお楽しい。たとえばレアチーズケーキとのペアリングは、華やかさもひときわ。やわらかなレアチーズのクリーミーな風味が重なって、ロゼノユキドケの美しい余韻がよりいっそう広がる。

「意外とスパイシーな料理にも合います。たとえばスパイスカレーや本格中華も! ロゼワインに合うものはだいたい合うので、ぜひ試してみてください」

レアチーズケーキとの相性もよい。華やかな見た目でペアリングの楽しさが広がる


筆者:加藤 恭子