株式市場で大暴落が起きると、数週間〜数カ月後に再び暴落する「二番底」が起きるといわれている。8月に最大4400円下落した日経平均株価は今後どうなるのか。複眼経済塾の瀧澤信さんは「日本企業の業績が回復すれば日経平均株価も回復する。今後有望な投資テーマについては買っていくべき」という――。
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日本株に大ダメージを与える「二番底」に備えよ(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/mantinov

■「史上最大の暴落」の後は「株は買い」

8月5日、日経平均株価は約4400円も下落しました。

この「史上最大の暴落」で含み損を抱えた投資家も多いと思います。相場の先行きを不安視する声も増えています。

ただ、この暴落によってむしろ株が上がりやすい状況が生まれた、とも考えられます。なぜなら、投機的なマネーがある程度退場したと考えられるからです。

■日経平均は「投機マネー」で上昇していた

日経平均が投機マネーで押し上げられていたことは、『会社四季報』のデータにも表れています。

基本的に、日本企業の業績と株価は連動しますが、『会社四季報』の4号前(約1年前)くらいから、業績と株価の乖離が目立っていました。

さらに2号前(約半年前)からその乖離がより顕著になっていました。

円キャリートレードなどで投機マネーが市場に流入していた証拠だと言えるでしょう。

出典=『会社四季報』市場別業績集計表をもとに複眼経済塾作成

今回の暴落はサプライズ的な「日銀の利上げ」によって起きた可能性が高いです。

ただ、暴落によって投機マネーが退場していれば、現在の株式市場はより実態に沿った「まとも」な状態になったとも考えられます。

つまり、企業業績や将来性といった「ファンダメンタル」に沿った市場に戻ったということです。

■今後株価は回復していく可能性が高い

要するに、暴落はあったものの、今後日経平均は回復していく可能性が高いということです。

そう考える根拠の一つが、日本企業の業績見通しです。

『会社四季報』2024年3集(夏号)の「市場別業績集計表」によると、上場3635社合計の「前期売上高」は、対前年度比で+5.5%でした。

今期は同+3.3%と、増収ながら若干減速する見込みですが、来期は同+3.6%へと僅かに好転すると見込まれています。

出典=『会社四季報』市場別業績集計表をもとに複眼経済塾作成

「営業利益」を見ると、前期は同+15.1%でしたが、今期は同+7.1%とやはり増益ながら一旦減速し、来期は同+9.3%まで回復する見込みです。

今期は減速するものの、来期に向けて業績が回復すれば、日経平均も回復すると見ていいでしょう。

■「二番底」には要注意

注意したいのが「二番底」です。

1987年10月に起きた「ブラックマンデー」をはじめ過去の暴落では、暴落前の直近高値からおおよそ2〜3カ月後に二番底をつけるパターンが多くなっています。

今回の直近高値は7月11日でしたから、2カ月後は9月上旬、3カ月後は10月上旬となります。

この予想が正しいなら、9月から10月初旬の間にもう一度大きく下げて「二番底」をつける可能性があります。

ただその後は本格的な上昇フェーズに入っていく可能性が高いでしょう。

■「国策に売りなし」と言われる理由

投機マネーが退場すれば、株価は実力に見合った上昇を見せるはずです。

そのため、これからの投資戦略を考える上で重要なのは、企業の本質的かつ中長期的な実力と、将来性を見極めることでしょう。

企業の実力や将来性を見極めるには知識や経験が必要ですが、初心者の方でも比較的容易に「買うべき株」を見極める簡単な方法があります。

それは、「国策関連銘柄を買う」という方法です。

相場の世界では、昔から「国策に売りなし」と言われることがあります。

国策として予算が投じられ、大きく動いている業界・業種の株はそれくらい強いということです。

■世界は「自国ファースト」に向かっている

ではどんな業界・業種が「国策」として動いているのでしょうか。

これまで、世界経済はSDGsや脱炭素といったグローバル・イシューをめぐって動いている面がありました。世界経済のグローバル化が進み、各国で「グローバル・イシュー=国策」になりがちだったのです。

ただ近年その流れが変わり、むしろ各国は「ローカル・イシュー」を優先する方向にシフトしつつあります。

米国のトランプ氏は、「アメリカファースト」を全面に打ち出して大統領選を戦っています。欧州でも右傾化が顕著で、自国優先的な政策が目立っています。

写真=iStock.com/twinsterphoto
「アメリカファースト」を全面に打ち出している(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/twinsterphoto

世界中が「自分の国をどう良くするか」「自分の国をどう守っていくか」を最優先に考えるようになっており、日本も同様に動いています。

つまり、「日本が抱える課題」の解決が今後の「国策」となる、ということです。

■日本が抱える「4つの課題」

では日本の課題とは一体どのようなものでしょうか。

人によって見方が違うかもしれませんが、おおむね以下4テーマに絞られるのではないかと思います。

1 少子高齢化
2 エネルギー・資源の輸入依存
3 災害の多発
4 防衛力の不備

これらを基に、今後有望な投資テーマを考えてみましょう。

■「AI」開発企業に大注目

まず第一に、「AI」があげられます。

「少子高齢化」の解決策として、AIの活用が考えられます。人口が減る分、AIの導入が進むからです。

これまでAI関連で伸びてきたのはエヌビディアなどハードウエア企業が中心でしたが、今後はAIそのものを開発するソフトウェア企業も伸びてくるはずです。

日本にもpluszeroなど純国産のAIを作っている会社があり、すでにコールセンターなどで活用が始まっています。

ほか、いわゆるAIではないのですが、広い意味でのソフトウェア関連テーマとしてVTuber関連サービスにも興味を持っています。「にじさんじ」を運営するANYCOLORなど、好業績を続けている企業もあり、今後の注目テーマだと思います。

■「女性の活躍を後押しする企業」は買い

第二に「女性の社会進出」があげられます。

少子高齢化で労働人口が減るため、今後ますます女性の社会進出が進むと思われます。「女性の活躍を後押しする企業」に注目してみると面白いのではないでしょうか。

たとえば富士製薬やあすか製薬HDなどは、不妊治療や更年期障害など、女性特有の症状に特化した医薬品を得意としています。ほか、人材派遣のワンキャリアなど、女性の労働環境改善を後押しする企業にも注目です。

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「女性の活躍を後押しする企業」は買い(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/RyanKing999

■引き続き注目したい「銀行株」

第三に「事業承継・M&A」があげられます。

「少子高齢化」で、事業の担い手不足が深刻になり、事業承継やMBO(経営陣による買収)、M&Aのニーズが高まっています。

専門に扱う企業も多いのですが、日本の銀行にも注目したいところです。

MBOには、ノンリコースローンという特殊な借入金で買収資金を用意するレバレッジド・バイアウトという方式があります。

かつて、日本の銀行はこうした案件にはあまり強くありませんでした。ただアメリカのモルガン・スタンレーと強固なアライアンス関係にある三菱UFJ銀行など、M&Aのノウハウを活用できる銀行もあります。

今後、日本の銀行がMBOやM&Aの世界で存在感を発揮する可能性は高く、銀行株には要注目だと思います。

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銀行株には要注目(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/ultramarine5

■「先進的なサービスを提供する企業」は急成長が期待できる

第四に、「高齢者向け介護」があります。

少子高齢化でニーズが高まる分野なのは間違いないのですが、一般的に、介護施設はいわゆる「装置産業」、事業を急激に拡大しにくい業種で、株価もあまり上昇しない可能性を見ておく必要があります。

ただ、中でも「先進的なサービスを展開する企業」は急成長が期待できるでしょう。

たとえば笑美面という会社は、自分に合った高齢者施設を探せる「マッチングサービス」を提供しています。こういった先進的サービスに重心を置く企業なら今後の急成長が期待できそうです。

■国策として動く「エネルギー・資源」

第五は「資源」です。

日本のエネルギー自給率は11.3%(2020年調査)で、約9割のエネルギーを海外からの輸入に依存しています。また、リチウム、コバルト、ニッケルなどのレアメタル資源にいたっては、100%を海外からの輸入に頼っています。

日本政府は国策として輸入エネルギーからの脱却を進めていますが、なかでも水素・アンモニアの活用が期待されています。今後有望な投資テーマと言えるでしょう。

また近年、日本近海でレアメタルやレアアースなどの資源が見つかっています。

経済安全保障の観点でも、国産資源の有効活用が必要になっていますので、これも有望な投資テーマといえるでしょう。

ほか、政府では経済産業省が中心となり、核融合発電の技術開発や、洋上風力発電の拡大も力を入れています。

■「1人乗りの超小型EV」に注目

第六は「脱炭素」です。

環境問題への対策はグローバル・イシューですが、環境ビジネスで勝てるかどうかが日本経済の浮沈を大きく左右する状況になっており、「国策」として進められています。

中でも特に各国が力を入れているのがEV。

日本勢はEV(電気自動車)では苦戦を強いられていますが、足元ではEV需要が減退し、むしろハイブリッド車に根強いニーズがあります。ハイブリッド車を得意とする日本車メーカーにとっては追い風になっています。

経産省は、棲み分け戦略で戦っていく方針のようです。つまりEVは1人〜2人乗りの超小型車に特化し、いわゆる「乗用車」はハイブリッド(HV)・プラグインハイブリッド(PHV)、また、大型のバスやトラックは燃料電池車(FCV)と、用途ごとに違う技術をあてていくということです。

日本でも排ガス規制により2025年11月には原付バイク(ガソリンエンジンを動力とする50cc以下のバイク)の生産が終了します。

その分、「1人乗りの超小型EV」が発展する可能性は十分あるでしょう。

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「1人乗りの超小型EV」に注目(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Ralf Hahn

■「災害対策・安全保障」産業にチャンスが訪れている

第七は「気象関連サービス」です。

つい先日、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が初めて発表され話題になりました。

この夏は連日ゲリラ豪雨が発生し、災害対策の重要性がますます高まっており、国策として動いていくと思われます。防災インフラ企業には恩恵があるでしょうが、より急成長が期待できそうな分野として、ウェザーニューズなど気象情報サービスの会社には注目したいと思います。

第八は「武器・弾薬」です。

米中対立の激化にともない、台湾有事の危険性が高まっていますが、現状日本が保有する防衛力では対応が難しいため、整備が求められています。

実際、2023年の防衛費は前年比2倍になるなど、急ピッチで整備が進められています。

■日本が弾薬を供給する

特に不足しているのが、武器・弾薬等の量です。

これまで自衛隊では、自国で賄える弾薬の量はおおよそ戦闘3日分と言われ、それ以上については米国からの供給を前提にしてきました。

ところが、ウクライナ戦争の長期化で、米国は大量の弾薬や武器をウクライナに送ってしまい、アジア地域のストックが枯渇しはじめています。

米国もこれを問題視し、今年に入って太平洋地域の政策を大きく変更しており、日本、オーストラリア、韓国、フィリピンが相互連携・相互補完し、かつ武器弾薬についても独自に製造・調達する方向へと舵を切り始めました。

つまり、米国が使用する弾薬を日本で生産する方向に進んでいるのです。

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日本が弾薬を供給する(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/InkkStudios

■日本経済にとって大チャンス

これは日本経済にとってはチャンスです。これまで米軍の兵器や弾薬の製造技術はほとんど開示されていませんでしたが、徐々に開示され日本での生産が認められるようです。日本の防衛産業が飛躍するチャンスであるとともに、日本が軍事的に自立するチャンスでもあるでしょう。

第九は「軍事衛星」です。

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日本は弾道ミサイルに対する防衛力は持っていますが、いまは極超音速低空ミサイルなど、地上レーダーで捕捉できないミサイルが登場しています。

これを迎撃するには宇宙からの監視が必要になるため、各国は衛星レーダーの配備競争に入っています。

中国は197機、米国は132機をすでに宇宙に飛ばしていますが、日本は現在15機しか持っておらず、しかもレーダー機能を備えた衛星は5機しかありません。

現時点では日本全土をカバーできておらず、軍用衛星の配備は喫緊の課題となっていますので、関連産業には国の予算が投じられていくでしょう。

■「水中ドローン」では優位性がある

第十は「ドローン」です。

昨今の戦闘では無人ドローンが活躍しています。日本は海に囲まれているので、水中ドローンの整備が不可欠ですが、水中は電波が届かないため、空中ドローンよりも高度な技術が必要になります。

音波など特殊な通信手段でコントロールするのですが、この分野で昔から潜水艦の技術に長けている日本は優位性を持っています。

ドローン技術は浮体式洋上風力発電でも欠かせないとされていますので、今後非常に重要な分野といえるでしょう。

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瀧澤 信(たきざわ・しん)
複眼経済塾取締役シニアESGアナリスト
Second Baptist Middle School卒(米国)、渋谷教育学園幕張高校卒、成蹊大学経済学部経済学科卒。明治生命、グッドバンカー(日本初のESG専門投資顧問)、野村證券を経て、サステイナブル・インベスターを2006年に起業、代表取締役社長就任(現任)。2016年より複眼経済塾株式会社取締役シニアESGアナリスト兼事務局長。琉球大学講師(2007)、清泉女子大学講師(2019〜)。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。
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(複眼経済塾取締役シニアESGアナリスト 瀧澤 信)