Vol.140-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、国内メーカーから登場するテレビの違いについて。製品の方向性を変えることで、利益減少に悩む各メーカーの打開策となるのだろうか。

 

今月の注目アイテム

パナソニック

ビエラ Z95Aシリーズ

実売価格36万6300円(55V型)

↑新世代有機EL「マイクロレンズ有機EL」の採用で、高コントラストかつ美しい映像を実現。Amazon「Fire TV」の機能を内包し、ネット動画もテレビ番組も同じ画面で表示することができ、簡単に見たい番組を探せる

 

方向性が異なってきた国内大手メーカー

今年もテレビの新製品が市場に出揃う時期になってきた。

 

テレビというハードウェアを見たとき、性能や価格はディスプレイパネルで決まる部分が多い。ディスプレイパネルは韓国・中国などの専業メーカーが製造しており、テレビメーカーはそれを購入して製品を作るからだ。

 

10年以上前とは異なり、現在はテレビメーカー側がパネルの一部を購入し、バックライトなどについては工夫して独自の価値を追求するようにはなっている。そのため“同じパネルを使っていれば同じテレビになる”ようなシンプルな話ではない。とはいえ、大まかなトレンドはパネルメーカーの動向に左右されるため、“今年はどこもこんな方向性、そのうえで各社の個性はこう”という風に語ることができた。

 

だが今年、特に日本国内大手については、それぞれの向かう先がかなりはっきりと違ってきている。特に異なっているのが、パナソニック、レグザ、ソニーの3社である。

 

着実に売れるモデルで状況の打開を狙う

パナソニックは今年、テレビに使うOSを変えている。これまではWebブラウザー「firefox」の開発で知られるMozzila・orgと共同開発し、パナソニック自身がメンテナンスを続けていた独自OSを使っていた。それが今年からはAmazonと提携、Amazonが開発する「Fire OS」を採用。動画配信への対応を加速し、コンテンツをより見つけやすくするためだ。

 

ソニーはテレビ事業の方向性を変え、はっきりと“大型で画質が良く、映画視聴に向いたテレビ”にフォーカスする戦略を採った。

 

結果として、今年の製品の中心は、バックライトにミニLEDを採用した液晶モデルとなっている。特に上位機種では、独自のLEDコントローラーを採用し、バックライト制御を微細化して対応している。有機ELも販売するものの、“液晶よりも有機EL”という序列は取らず、最上位をミニLEDモデルにする。従来とは違う考え方で製品を作っている。

 

それに対してレグザは、“液晶も有機ELも注力”とはっきり言う。OSを変えたり製品の方向性を変えたり、といった見せ方はしないが、55V型以上の大型製品にフォーカスし、ハイエンドかつ大型の高付加価値製品をアピールする戦略である。

 

各社の方向性はまちまちなのだが、そうした戦略を選ぶことになった背景自体は似ている。理由は、テレビ自体の販売が停滞しているためだ。

 

販売が落ちているのでもなく、増えているのでもない。毎年同じように売れはするものの、劇的に数が増える要素も減る要素もなくなってきた。ただ、だからといってなにもしないと、価格の安い中国勢に市場を取られるばかりになる。円安や部材価格上昇の傾向から、利益率自体も圧縮されてきている。ビジネス的には不利な状況だ。

 

日本国内だけでなく海外も見据え、“着実に売れるテレビを作るにはどうすべきか”を考え、各社は戦略の再構築をした。だから今年の製品は“各社の戦略が異なる”ように見えるのだ。各社がそれぞれの戦略を選んだ理由や、その結果としてのテレビ市場の行方は、次回以降で解説する。

 

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