広島高裁から安芸高田市議による“恫喝”がなかったと認定された石丸伸二

 7月11日、広島県安芸高田市は、同市が被告となっている訴訟での広島高裁の判決について上告しない方針を明らかにした。

 同市の山根温子市議(68)が起こした名誉毀損による損害賠償訴訟で、高裁は同市に対して支払いを命じている。

 この裁判は、当時安芸高田市長で、東京都知事選挙にも出馬した石丸伸二氏(41)が「山根市議から恫喝を受けた」などの“嘘の”主張をおこなったことが発端だった。

「当初は石丸氏を相手取り、訴訟を起こした山根市議でしたが、石丸氏は『市長としての発言は公務員としての職務行為』として、安芸高田市に訴訟告知をしたことで、山根氏は石丸氏と同市の両方を相手取って裁判をおこなっていました。

 山根市議は市議会のなかでも、石丸氏から厳しい言葉を浴びせられることが多く、まさに石丸氏にとっては“仇敵”ともいえる相手だったのでしょう」(政治担当記者)

 2020年8月に安芸高田市長に当選した石丸氏と議会の対立ぶりは、彼のX(旧Twitter)による発信で注目を集めていた。

 山根市議に対しては、2020年10月1日に《敵に回すなら政策に反対するぞ、と説得?恫喝?あり》と投稿し、その後、名指しで糾弾したことが始まりだ。これについて広島高裁は恫喝発言は「なかった」と認定している。

 安芸高田市の方針に対して、同市側の補助参加人だった石丸氏は、すでに7月4日に最高裁に上告している。

 一方、安芸高田市と同様に高裁判決を上告しない意向を示している原告の山根市議。

 じつは、彼女はここまでの裁判の経過や、議会での市長時代の石丸氏との応酬などを、自身のホームページに掲載している「活動報告」で克明に記しているのだ。

 そこで今回、本誌は山根市議に取材を申し入れた。しかし、彼女からは「私からお話しすることはありません」とだけ回答があった。

 ただ、取材を続けていると、一連の石丸氏と山根市議の裁判の影響を長らく見てきたという安芸高田の市政関係者に話を聞くことができた。

 山根市議が取材に応じない理由について、この関係者はこう話す。

「石丸氏の主張がメディアによって報道されたことで『クソババア、議員辞めろ』、『居眠り、恫喝やるようなババアはいらん』といった誹謗中傷のメールが、山根氏に届くようになったんです。

 まったく関係のない“居眠り”まで、山根氏がやったことにしたりしてね。最初のころは30件くらいだったが、日を追うごとに増えていったそうで、山根氏は相当、傷ついていましたね。つらかったと思います。

 石丸氏を提訴した後も『裁判を取り下げろ』などのメールが山のように届いた。東京都知事選への出馬を決めてからも、悪質なメールは届いてきてね。いわゆる“石丸信者”の仕業だと思います。

 今回、取材に答えると『また、火がついたようにメールが来るかもしれない』と信者の攻撃を恐れているわけです」

 そもそも、山根市議が“標的”にされたきっかけはなんだったのか。

「石丸氏が市長に着任して、初の議会の一般質問で、山根市議は『地域振興会組織』の重要性を説きました。歴代の市長は、地域振興会組織と対話をおこない、街作りを進めてきたことを伝えたんです。

 あとは、石丸氏がTwitterを用いて、特定の市議を落選させようとする動きを示唆した際に、山根市議は『議会を牛耳るんですか?』と聞いたことも、石丸氏は『嫌味なやつだ』と感じたのかもしれません。

 あとは女性だから、責めやすいと思った部分もあるんでしょうか」(前出の関係者、以下同)

 市長時代の石丸氏は音声記録にも残っていない“恫喝”を主張し続けた。2020年10月31日には《私は「恫喝を受けた」と問題提起をしました。#議会 は発言の事実を認め、さらに「受けた側の感じ方で恫喝となる」と纏めました》と投稿することで、山根市議が恫喝を認めたかのような“架空の事実”を風潮していた。

「今さら主張を取り下げると、石丸氏は自分の“位置”を保っていられないと思っているのではないでしょうか。一審の広島地裁での公判で、山根市議は『彼は嘘を言い続ければ、それが真実になると思っている人です』という言い方をしていましたね。

 石丸氏は、当選した市長選のときから『政治再建』を掲げています。たしかに、河井克行元法務大臣の事件で、安芸高田市議も3人辞職し、その前には着任したばかりの市長が辞職したこともありました。そのため、彼の頭の中には『安芸高田は腐りきっている』と思い込みがあったのでしょう。

 その思い込みのせいなのかどうかは知りませんが、彼の言動を見ていると『何かあったら市議会を叩いていこう』というような計画めいたものを持っている印象を受けましたね」

 安芸高田市議会では、これまで何度も石丸氏の“化けの皮”を指摘していた。石丸氏の発言にはおかしな点もあったという。

「2022年9月、中国地方に大型の台風が来るかもしれないという日に、石丸氏はプライベートで、千葉県でのトライアスロン大会に参加していました。しかし、当時はどこに行くかも知らせず、市長代行も決めずに安芸高田を離れていたんです。

 このことをその後の議会で、山根市議から追及されると『プライベートの詮索はキモい』と批判で返すだけ。しかし、約1年後の記者会見では、プライベートというのがどこかにいったのか、『トライアスロンを愛好する人が多い富裕層が、安芸高田市に目を向けるために、意図的に参加した』と言い出したんです。

 また、2024年3月の議会で、山根市議が質問している際、石丸氏が地方交付税の『普通交付税』と『特別交付税』を取り違えた状態で突如、山根市議を糾弾する発言をしたんです。

 これについて、山根市議はその場で石丸氏の支離滅裂さを指摘しましたが、多くの石丸氏を賞賛する“切り抜き動画”では、その部分がカットされていました」

 東京都知事選挙で2位になった石丸氏。しかし、その直後のインタビュー対応によって、猛批判を浴び、一夜にして評価が逆転した様相だ。そのことについても感想を尋ねた。

「それは私たちもそうですからね。(石丸氏を選んだことは)誤ったかもしれないです。たしかに選んだけれども、中身がこういう方だとは思いませんでしたから。いまでも『まさか』という思いでいます」

 7月12日深夜には、フジテレビ系の『オールナイトフジコ』に出演し、女子大生と共演を見せるなど、イメージ戦略を変更している石丸氏。

 だが、多くの東京都民はいま、安芸高田市民と同じ気持ちでいるだろう――。