グラフィック社提供

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60歳でモデルデビュー、73歳で自分のお店を持つ、62歳で人生のパートナーに出会う……など、自分らしい生き方をしている60歳以上の女性51人をインタビューした『60歳からの生き方図鑑 いくつになっても「今がしあわせ」と言える女性でありたい』(百田なつき編著・グラフィック社)。本書の中から、「自分らしく生きている女性」を一部抜粋・編集してご紹介します。第3回目は、自身の“がん罹患”という経験から、がん患者に寄り添うサポートを提供する株式会社を設立した、武田さわ子さん​にスポットを当てます。

<Profile>武田さわ子さん​

年齢 67歳
出身地 神奈川県
住んでいるエリア 神奈川県
同居家族 夫と二人暮らし
子ども 息子1人
持ち家か賃貸か 持ち家
お仕事・職業 ウィッグ販売会社経営
年金受給 有
HP https://www.meiwa-kikaku.co.jp

はじめに

――まず、かんたんにあなたについて教えてください。

20代後半は学芸員、40代はパソコン教室の講師など、ずっと働いてきましたが、52歳のときに乳がんになりました。

この乳がんの経験を役に立てたいと、57歳のときに乳がん患者向けの商品を扱う会社のコーディネーターになりました。その後、60歳のときに夫を代表にして医療向けのウィッグを扱う株式会社明和企画を設立しました。

多くのがん患者さんに接したことで、「ピアサポーター(同じ経験をした人の支え)」と「アピアランスケア(外見ケア)」の大切さを感じました。抗がん剤治療を目前にし、脱毛など外見の変化を不安に思っている患者さんが大勢います。

私もどんなウィッグを使ったらいいのか全くわからずとても不安でしたが、鍛紀子プロデュースのウィッグと出会いました。私は治療中、このウィッグのおかげで外見(脱毛)を気にすることなく、友人たちと交流することができました。

友人との楽しい会話で笑顔になり、食欲がなくてもおいしくランチが食べられて、次の約束をすることで、未来を信じて生きる希望が持てました。

他人と交流することが私にとっては何よりの治療でした。他人と交流するには外見も大切です。

今不安でいる患者さんにもっと寄り添い、お役に立ちたい。がんになり抗がん剤治療の経験者だからこそ、どんなウィッグを選んだらいいかを伝えられると思い、ウィッグプロデューサーの鍛紀子さんに相談しました。

鍛さんは「がん治療で脱毛するという女性にとってはいちばんつらいときをウィッグで一緒に支えましょう」と、脱毛した頭皮に被っても優しく、おしゃれで手入れも簡単なウィッグをプロデュースしてくれることになりました。

サロンは新築した自宅内に構えました。プライベートサロンなので、お客様は人目を気にせずにウィッグを選び、気軽に何でもご相談いただいています。

<My History>

22歳 大学卒業後、アパレル企業に就職
26歳 大学院進学のため退職
27歳 大学院進学、学芸員資格を取得。結婚
28歳 学芸員として就職
33歳 夫の名古屋転勤に伴い退職、長男出産
40歳 横浜に転居
42歳 パソコン教室の講師になる
52歳 乳がん罹患(手術・抗がん剤治療・服薬)
53歳 父の看取り、半年後に母の看取り
57歳 乳がん患者向け商品を扱う
    企業のコーディネーターとなる
60歳 株式会社明和企画を設立

がん患者に向けて「ウィッグ」を中心としたサポートを提供

――現在のあなたについて詳しく教えてください。

がん患者さんに向けて、ウィッグだけではなく、アピアランスケアのご相談と治療中の相談窓口などの情報を提供する会社を経営しています。

夫も息子も起業に賛成してくれました。個人事業主や、ボランティア、団体設立など色々検討したのですが、がん患者さんに直接私の思いを届けるために、社会的信用度が高い株式会社として設立しました。

完全予約制のサロンでは人目を気にすることなくウィッグを実際に見て選んでいただけますし、電話やオンラインでの相談も実施しています。

起業してからは夫婦で過ごす時間がぐっと増えました。仕事上の報告・相談だけでなく、会話や一緒に行動することも多くなったので、今は夫婦仲がとてもよいです。また、初孫も生まれ、毎日充実した日々を送っています。

自宅に構えたサロン

乳がんの治療中で十分に寄り添えないまま両親を看取ることに

――人生でいちばんつらかったことを教えてください。

乳がん治療と両親の看取りがほぼ重なったことです。私のがんがわかったのは52歳のときですが、翌年、2度目の手術直後に父を看取り、その半年後に母を看取りました。

がん罹患は、死を考えざるを得ない心の状態と、手術、抗がん剤などの副作用による身体的・精神的な苦痛、社会から遠ざかる不安など、想像を絶するつらさでした。

そんな自分の体調が万全ではない中で、両親の介護、看取りがあり、十分に両親に寄り添うことができなかったのではないかと思うととても残念です。

自宅に帰りたかった父を病院で看取ったのは本当によかったのか、と今でも思い起こします。自分の治療と重ならなければ別の対応ができたかもしれないのが心残りです。

がん治療において私の場合は、夫婦で決めた病院で、信頼できる主治医に出会い、治療を受けられたことで、安心できた部分も多かったです。治療中は友人との交流、息子の成長が心の支えでした。見守ってくれた夫にも感謝しています。

お金は“使ってこそ”価値がある

――お金について将来は不安はありますか。

会社設立にはそれなりの資金が必要となりました。会社経営を維持することは大変です。したがってプライベートにも無駄な出費は控えています。夫婦二人の生活費と、イベント時の支出は、年金とこれまでの貯蓄などでまかなう部分も大きいです。

日々の生活に贅沢はできませんが、子どもも独立し、持ち家があるので、大きな心配はなく、コロナ禍も落ち着いたので、会社の業績が伸びていくことを期待しています。

お金や時間の使い方は変わりましたが、お金に対する考え方は変わっていません。教育や体験への投資は惜しまないですし、「お金は天下のまわりもの」で、使ってこそ価値があるものだと思っています。また、その使い方にその人らしさが表れると思っています。

“がん患者”という偏見のない世のなかを目指して活動中

――夢や目標を教えてください。

コロナ禍では思うような活動ができませんでした。会社経営を軌道に乗せることが直近の課題です。「アピアランスケアでがん患者さんを支える」、「ピアサポートの立場からいま不安な患者さんに寄り添い、より質の良いウィッグの提供と情報を発信する」ということが起業の原点であり変わらない目標です。

その先にはがん患者という偏見がない世界、どんなときも誰もが自分らしくいられる世の中になってほしい。その一助にアピアランスケアがなるように活動を続けていきたいです。