【片岡 亮】ミセス「コロンブス炎上」を見た海外の”意外な反応”…感謝された日本人と批判された日本人

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意外と知られていない「コロンブス」がしたこと

3人組ロックバンド、Mrs. GREEN APPLE(ミセス・グリーン・アップル)の新曲「コロンブス」のミュージックビデオが問題視され、公開停止になった。コカ・コーラ商品のキャンペーンソングにもなっていたが、広告展開も中止となった。

日本で大騒ぎとなった数日後、BBCが記事にしたことで英語で世界にも広まったが、正直、日本のような批判集中の現象までは見られない。バンドに世界的な知名度がないことも理由だが、日本以外、アメリカやインドなど6カ国の人々に話を聞いてみると、別の視点も見えてきた。

筆者の住むマレーシア・クアラルンプール、まずは40代の会社経営女性に話を振ってみると「コロンブス…アメリカ大陸を発見した人、それ以外には何も知らない」と笑った。国内上位の大学を出た彼女だが、クリストファー・コロンブスについて詳しくはなく、こちらから今回の炎上について説明しないと、何が騒ぎになっているか、すぐには分かってもらえなかった。

問題のビデオは、「もしも生きた時代の異なる偉人たちが一緒に旅をしたら?」をテーマに、バンドメンバーがコロンブス、ナポレオン、ベートーベンに扮したが、なぜか彼らは類人猿たちに出会い、ピアノの弾き方を教え、人力車を引かせ、乗馬を教え、果てに類人猿の悲しいシーンが描かれた映画を観賞するという奇妙なものだった。

コロンブスについては前述のマレーシア人女性のように、教育上で軽く学んだ程度にしか知らないという人は少なくないが、90年代あたりから欧米で起こった、白人至上主義への抵抗から、先住民が存在していた大陸を「発見した」という見方が、ヨーロッパ主体の視点だと批判されていった。

実際にはコロンブスが奴隷商人で、先住民を騙し、強制労働させ、大虐殺もしている侵略者という認識が広まり、「偉人」のカテゴリーからも外されていった。これは最近でも続いているムーブメントで、4年前には米各地にあったコロンブス像の首が次々に落とされた。

こうした時代の変化をきちんと見ている人たちからすれば、ミセスのビデオを「ひどい」と思うのは当然だろう。レコード会社のユニバーサルも「歴史や文化的な背景への理解に欠ける表現が含まれていた」と認めている。

バンドのヴォーカル、大森元貴は「類人猿が登場することに関しては、差別的な表現に見えてしまう恐れがあるという懸念を当初から感じておりましたが、類人猿を人に見立てたなどの意図は全く無く、ただただ年代の異なる生命がホームパーティーをするというイメージをしておりました」と説明した。

この弁明は、コロンブスや奴隷問題の背景についての見解がなく、批判に対してズレた話にも見えるのだが、国外では決して、このビデオを見た人々が即、「これはひどい」と批判しているわけでもない。

炎上に対する海外の反応

以前、インド取材で知り合った50代の旅行会社を経営する男性は、「ビデオが明るくジョークみたいな感じで、類人猿をイジメたりはしていないので、私は差別的には感じなかった」と言った。同じく香港在住の中国人フリーライターも「類人猿からの人類の進化を表現したものと思いました。アーティストに悪意が感じられないので、問題があるとは思えなかったです。ただ、批判の内容を聞いて、それも納得はできるものです」と言った。

一方、美容メーカーに勤める南アフリカの20代女性は、普段とてもやさしくフレンドリーな人なのだが、今回ばかりは人種的な立場を感じさせる回答で、「正直、日本が白人から悪影響を受けているのが分かります。白人は文化人の象徴で、猿が発展途上の人を表したものでしょう。そうでなければ、コロンブスがなぜ人間ではなく、わざわざ猿と接しなければならないのか分かりません。私はこれを批判した日本の人々に感謝します」と言った。

また、SNSで知り合ってやり取りを続けているベネズエラの学校教師の40代女性も、

「彼らはなぜ日本の偉人を選ばなかったのですか。衣装がいかにもヨーロッパの植民地主義者の格好です。日本人は教育レベルが高いのに、なぜこんな馬鹿げた表現をする人がいるのでしょうか」

と不快感を示した。

白人からの人種差別に敏感なエリアだと、厳しい見方になりやすいのは分かる。

一方、その白人サイドのアメリカ人記者は、「私が驚いたのは、Xを見たら日本語のコメントの99%が、人種差別的だと非難するものだったことです。ほとんどの日本人がすぐに問題に気付いたんです。とても意識が洗練されていると感じました。それに対して、レコード会社やコカ・コーラはなぜ気付かなかったのか。反省すべきは彼らでしょう」と言った。

その上で、「コロンブスを英雄と信じる白人も多いので、私のような意見は決して多数ではない」とも加えた。

話を聞いた人々は、あくまで筆者の友人たちであり、国際世論を代表しているわけではないが、数名に聞いただけでも多種多様に分かれており、日本での批判一色とは違っていた。

ネットで巻き起こった論争

そして、Xで英語のコメントを見てみても、この問題が紹介されている記事、もしくはコメントに対しての投稿は、やはり日本のような批判が大半ということはなかった。

コメントが多く見られたのは、社会的な意見を投稿するアカウントに対してよりも、アニメやJ−POPなど日本文化を愛するアカウントで、今回の炎上現象を「僕らの大好きなカルチャーを潰す」と批判的に見ている意見もたくさんあった。

「左翼が過剰に反応しすぎだ。自国のカルチャーの悪いところを必死に探している連中がいる」

「日本の素晴らしい曲を潰す奴らは、コロンブスを悪者にしたい政治団体の連中と気が合うようだ」

実際には、日本での炎上は、政治思想に関係なく起こったものだが、この炎上自体に陰謀めいたものを感じる人々もいるのが、いかにもネット世論だ。

中には、「コロンブスが猿に文化を教えた場面は、西洋諸国が他国に自国の価値観に押し付けた植民地主義の教科書的な定義に見える。ただ、それを強く批判すると、それもまた価値観の押し付けになってしまう。その二重基準よりも、自分の判断を持つべきだ」と呼びかけるものもあった。

批判殺到の日本と比べると、国外ではもっと多様な意見が広がっている。これを見ると、今回の問題を通じて、いろいろ学べる要素があり、取り返しのつかない大失敗というわけでもない。

バンド側はあまり深く考えずにビデオを作り、批判に対してもズレた見解を持っているようだが、国際的な感覚で見なければいけないテーマは、日本国内だけではなく、海外の見解もキャッチできるほうがより広い視点でモノを見られるだろう。

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