伊豆箱根鉄道駿豆線の修善寺駅。ターミナルらしい堂々とした雰囲気がある(記者撮影)

長距離の鉄道旅の主役が新幹線となった現在でも、東京駅を始発駅として最大14両の長編成で伊豆半島方面へ東海道線を走る「踊り子」は在来線特急の代表格と言える。

少し前まで国鉄時代の特急形電車185系がモーター音をうならせていた踊り子の車両は2021年3月のダイヤ改正以降、すべてE257系に置き換えられた。中央線「あずさ」「かいじ」や房総方面などで活躍した特急車両をリニューアルした車両だ。

修善寺駅は開業100年

東京駅で見ることができる踊り子の行き先は「伊豆急下田」と「修善寺」の2通り。その1つ、西武グループの伊豆箱根鉄道駿豆線の修善寺駅は2024年が開業100年の節目の年にあたる。

東京―修善寺間の踊り子は毎日2往復運行されている。下り列車の場合、東京駅9時発の1号と12時発の9号が途中の熱海まで、伊豆急下田行きの「伊東編成」9両と修善寺行きの「修善寺編成」5両を連結した14両編成で走る。土休日などは3往復が運転される。

【写真】東京駅から特急「踊り子」が直通する伊豆箱根鉄道駿豆線の修善寺駅。いったいどんな場所なのか?かつての駅前の様子がわかる貴重な白黒写真も(18枚)

修善寺編成は熱海で伊東編成と分割されると、そのまま東海道線を西へ進み丹那トンネルを抜けて三島へ。同駅から伊豆箱根鉄道の駿豆線に入る。踊り子は三島田町、大場、伊豆長岡、大仁(おおひと)を経て終点の修善寺に到着する。修善寺まで東京から乗り通しても約2時間ちょっとの乗車で気軽に出かけられる目的地だ。

一方、伊東編成は東海道線から分かれる伊東線へ入り、JR東日本で最南端の駅、伊東へ。同駅から東急グループの伊豆急行線に入り、伊豆高原、伊豆熱川、伊豆稲取、河津を経て伊豆急下田を終着とする。東京―伊豆急下田には「サフィール踊り子」も走っている。


東海道線の東京駅と結ぶ特急「踊り子」(記者撮影)

地元の足「いずっぱこ」

営業キロ19.8kmの駿豆線は地元では「いずっぱこ」と呼ばれている。のんびりしたローカル線のイメージだが、普通電車は三島発が7時台は5本、それ以外の時間帯でも1時間に3、4本が運行していて利便性は高い。

車両は地方私鉄としては珍しく自社のオリジナル車両が多く、1979年デビューの主力車「3000系」や1991年登場の「7000系」が活躍。このほか元西武鉄道101系の「1300系」も走る。三島―修善寺間は各駅停車で35〜40分程度の乗車時間だ。この区間は踊り子も特急料金200円で乗車できる。


三島行きの駿豆線「3000系」。この車両は「軌道線カラー」(記者撮影)

短い路線ながら沿線にはたくさんの観光スポットが点在する。伊豆長岡駅の東に位置する国指定史跡の韮山反射炉は1857年の完成。2015年に「明治日本の産業革命遺産」の1つとして世界遺産に登録された。同駅西側、狩野川を渡った先には温泉街が広がる。

源頼朝が若き日に流人としての日々を送っていたとされる蛭ヶ島付近には公園が整備されている。北条家ゆかりの願成就院では運慶作の国宝の仏像を拝むことができる。2022年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に登場した仁田忠常や源範頼らの墓所も沿線に点在する。

アニメファンの中には、沼津市が舞台の「ラブライブ!サンシャイン!!」とのコラボ企画を目当てに訪れる人も多いようだ。駿豆線にもラッピング電車が走っている。

駿豆線のルーツである豆相鉄道の開業は1898年にさかのぼる。三島町―南條間(現在の三島田町―伊豆長岡間)で営業を開始。翌年、南條―大仁間が延伸した。開業時は蒸気機関車による運転で、1919年に電化した。修善寺までの区間が開業したのは1924年8月1日で、三島―修善寺間が1本の線路でつながった。

もっとも当時の東海道線は山北・御殿場経由のルートを採っており、三島駅はいまのJR御殿場線下土狩(しもとがり)駅のことを指す。現在の三島駅に乗り入れたのは1934年だ。

伊豆箱根鉄道のもう1つの鉄道路線、小田原から延びる大雄山線は1925年に開業した。1963年までは三島広小路―沼津間に軌道線も走っていた。


路線バスの乗り場がある修善寺駅南口。ほかに北口と西口がある“大ターミナル”だ(記者撮影)

「天城越え」バスの乗り換え拠点

修善寺駅は3面5線の頭端式ホームでターミナルらしい堂々とした雰囲気を備えている。10年ほど前に完成したリニューアル工事では天井に天城杉を用いた駅舎に生まれ変わったほか、駅前広場やロータリーが整備された。駅舎内の売店「イズーラ修善寺」の飲食コーナーでは「しいたけそば」が名物だ。

駅前は、独鈷の湯(とっこのゆ)で知られる修善寺温泉方面のほか、湯ヶ島温泉口・浄蓮の滝・天城峠・河津七滝(ななだる)など「天城越え」を経て河津駅に至る路線バスの乗り換え拠点でもある。東海バスは自転車を前面に載せられるサイクルラックバスも運行している。


駅に隣接した東海バスのターミナル。修善寺温泉や天城峠方面のバスが発着する(記者撮影)

2024年5月13日に伊豆箱根鉄道は台湾の台北大衆捷運(台北メトロ)と友好協定を締結、修善寺駅は台北メトロの新北投駅と姉妹駅となった。新北投も都心から鉄道で気軽に行ける温泉街だ。

伊豆箱根鉄道の広報担当者は「協定締結を機に、国内だけでなく海外からの観光客にも一層足を運んでもらいたい」と話す。東京駅からダイレクトにアクセスできる踊り子修善寺編成の利便性も再評価されるチャンスといえそうだ。


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(橋村 季真 : 東洋経済 記者)