■なぜ交通取り締まりのデマが出回るのか

駐車違反の取り締まりを逃れる裏ワザはないのか」

これは、ドライバーなら一度は考えたことのある疑問ではないだろうか。

しかし、よくいわれる裏ワザは、だいたいがデマだろうと私は見る。オービスに撮影されて呼び出しを受け「捜査には協力しない」とか宣言すればチャラになるという話も、デマだ。真に受けて実行し、逮捕され報道された人もいる。

写真=iStock.com/Rich Legg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rich Legg

なぜそんなデマが出回るのか。交通違反・取り締まりにもう40年以上熱中してきた私はこう考える。

交通取り締まりは年間547万6654件(2023年、警察庁)にも上る。かつては1千万件を軽く超えていた。いろんな警察官がいて、いろんな事情があったりする。当然、想定外のことも起こる。

たとえば、ノルマ(努力目標)にしたがって次々に違反切符を切ったのだけれど、上司のパワハラでうつ病ぎみになって、あとの処理を放り出してしまうとか。交通関係の大事な書類を机の奥に眠らせた、廃棄した、そんな報道もたまにある。報道にまで至ったケースの背後には、報道に至らないケースが多数あるはずだ。

駐車違反がチャラになる裏ワザは存在する

某県警でオービス担当になった警察官は、倉庫の「缶カン」の中に、オービスの未処理の書類や、違反者の氏名が書かれた赤切符が、多数放り込まれているのを見て驚いたという。後任は音楽隊の警察官で、月の半分ぐらいは演奏活動に出ていたという。

また、国産の固定式オービスは、午前3時とか予めセットされた時刻に自動的に「定時点検」を行う。違反車両の有無に関係なく赤いストロボを光らせる。そのときたまたまストロボを浴びても、呼び出し状は来ない。取り締まりのための発光じゃないからだ。

1、そんな想定外のことで違反がチャラになったとは、違反者は露知らぬ
2、「はは〜、俺があのときああしたからチャラになったんだ」と思い込む違反者もいる
3、「あれをやればチャラだ」とネットの匿名掲示板に思い込みを書く
4、裏ワザでチャラになりたい違反者が多く、デマが広がる

そういうことかなと私は見る。

しかし! 駐車違反だけは違う。駐車違反については、「取り締まりを受けても、これをやれば違反点数はセーフ。ゴールド免許のままでいられる」ということがある。すでにご存じの方もおいでだろうが、無知なためにゴールド免許を失う人もいる。どういうことか、ご説明しよう。

■駐禁ステッカーを無視するとどうなるか

自分のクルマで放置駐車違反をしてしまい、標章(あの黄色い駐禁ステッカー)をフロントガラスなどに取り付けられた場合、違反者には2つの道がある。

(1)警察へ出頭する

違反者が出頭してきたら、警察官は基本的には違反切符を切り、反則金の納付書を交付する。反則金の納付は任意、という話は少し長くなるので今回は省略する。

反則金を納付してもしなくても、違反切符を切られたら、いわば自動的に違反点数が登録される。放置駐車違反の場合は2点または3点だ。ゴールド免許の人は、次の免許更新のときゴールド免許でなくなる。更新時講習の時間が長くなり、手数料が高くなる。任意保険の掛け金が何千円か上がったりする。悪いことしかない。

写真=iStock.com/Yusuke Ide
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yusuke Ide

(2)警察へ出頭せず、知らん顔する

標章には、警察へ出頭せよとは一切書かれていない。そもそも出頭しなくていいのである。ぺたりと貼られた標章は、違反者が自分で剥がして(取り除いて)オッケーだ。

■「放置違反金」だけ支払えば違反点数はゼロ

標章を丸めて捨て、知らん顔していると、だいたい数日程度で、警察のほうから郵便が届く。違反者のあなたへ、ではない。ナンバーから判明した、違反車両の持ち主であるあなたへ届く。実際に違反した人が誰か、警察は知らないし、特に知ろうともしない。

郵便には「放置違反金」の納付書が入っている。反則金は違反者に対するペナルティ、放置違反金は違反車両の持ち主に対するペナルティ。金額は同じだ。持ち主の立場で放置違反金を払えば、違反の処理は終わる。

誰にも違反切符が切られずに終わるので、誰にも違反点数は登録されない。違反して捕まってペナルティを払ったのに、ゴールド免許の人はゴールドのままでいられる。

そんなの信じられない、という人もいるかもしれないが、そもそも違反点数は違反者本人に登録される。車両の持ち主に違反点数を登録することはできない。違反者=持ち主であってもだ。

「反則金より違反点数のほうが痛い!」と考える人は多いだろう。取り締まりを受けても点数はセーフで、放置違反金は“見逃し料”といえる。

■わざわざ出頭するのは無知な人?

しかし、これは裏ワザじゃない。そのようにする道交法の改正法案が2004年の通常国会で可決され、2006年6月1日から施行されたのだ。言い方が変かもしれないが、堂々と出頭せず、堂々と点数登録を逃れてほしい、ということだ。

それなのに、わざわざ出頭して違反切符を切られる人もいる。情報公開により得たデータによれば、2022年の出頭率は18.1%だ。無知なうえ、「なんか貼られた。出頭しなきゃ」という人、「取り締まりに納得いかない。文句を言ってやろう」という人がほとんどではないかと思う。

配送の仕事の人が会社から命じられて出頭ということもあるかもしれない。レンタカーを借りている間に標章を貼られ、知らん顔していたが、レンタカー業者から言われて仕方なく出頭、という人もいるはず。なぜそんなことになるのか。

放置違反金制度の導入とともに、車両の「使用禁止命令」というのが誕生した。要するに、あるクルマで何度も放置違反金の納付命令を受けると、そのクルマは2カ月間とか使用禁止になるのだ。会社や業者としては、それは困る。放置違反金の負担も困る。で、会社や業者は違反者を出頭させようとするわけだ。違反者が違反切符を切られて反則金を納付すれば、放置違反金も使用禁止命令もなくなる。

自分のクルマで放置駐車違反をして、標章(黄色い駐禁ステッカー)を貼られた場合は、出頭せず、放置違反金という名の見逃し料を払えば、違反切符を切られず、点数も登録されずに済む。警察公認のありがたい裏ワザといえる。

写真提供=今井亮一
駐禁ステッカーを発行する駐車監視員 - 写真提供=今井亮一

■「緑の人」がスルーするパーメ違反

駐車違反のボーダーラインに関する前編記事で、駐車監視員、いわゆる「緑の人」が取り締まるのは「放置駐車違反」と述べた。しかし、明らかに違法駐車で、運転者がそばにいないのに、監視員は素通りすることもある。その話をしよう。

パーキングメーター(以下、パーメ)に規定の料金を投入して駐車する、あるいはパーキングチケット(以下、パーチケ)の発給機でチケットを買い、クルマのフロントガラスの内側に掲示して駐車する、つまり路上の有料駐車場、それを「時間制限駐車区間」という。

時間制限駐車区間における駐車違反には、次のようなものがある。

・区間内にちゃんと駐車しない違反
・パーメを直ちに作動させない違反
・パーチケの発給を直ちに受けない違反、受けたが掲示しない違反
・制限時間を超過する違反

このうち、監視員が取り締まれない違反がひとつある。どれだろうか?

■「パーメを直ちに作動させない違反」はセーフ

監視員になるためには2日間の講習を受け、テストに合格しなければならない。私も受講し、合格した。

その講習のテキスト『駐車監視員資格者必携』(東京法令出版)が手元に2冊ある。2005年6月15日初版2刷発行のものと、2021年7月15日六訂版6刷発行のものだ。どちらにも、はっきりこう書かれている。

「なお、このうち『パーキング・メーターを直ちに作動させない違反』だけは、放置車両の確認の対象となりません」

重ねてこうも書かれている。

「パーキング・メーターを直ちに作動させない違反については、放置車両の確認の対象となる違反に含まれておらず、駐車監視員がこれに確認標章を取り付けることはできません。ただし、標識で表示されている時間を超過して引き続き駐車している場合には時間超過違反が成立するので、放置車両として確認し、標章を取り付けることとなります」

■ただし、警察官ならいつでも取り締まれる

パーメの設置場所に駐車し、パーメを直ちに作動させない(60分300円といった料金を入れない)違反を、監視員は取り締まれないのである。

しかし、時間超過の違反は取り締まれる。駐車監視員から聞いたところによれば、1分でも超過したら直ちに取り締まるということはないらしい。ならば、何分超過したら取り締まるのか。そこはさすがに答えてくれなかった。一般論として、どのへんから取り締まるかは、管轄する警察署によって違ったりするそうだ。

ここまでを聞いて「60分のパーメなら、59分までは金を払わなくてもセーフ(取り締まりを受けない)なのか。ラッキー!」と思った人もいるだろう。しかし、調子に乗らないほうがいいだろうと私は思う。

駐車監視員は、取り締まりはできなくても、「これはちょっと」と思えるケースは携帯電話で警察へ報告するという。警察官が現場へ来れば、警察官は取り締まれる。

また、たとえば、ある事業所や飲食店などの前で「60分未満ならセーフ(笑)」と甘く見た違反が常習的に認められた場合、警察官は、駐車違反と「業務妨害」(刑法第233条)で逮捕するかも。違法な手段でパーメをふさぐことは業務妨害になるのだ。逮捕したら、一般予防の見地から(つまり見せしめのため)記者発表して報道させるだろう。

結局、いわゆる裏ワザで得をすることは、あんまりないんじゃないかと私は思う。交通取り締まりに限らず、人生全般についても、もしかして同じことが言えるかもしれない。

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今井 亮一(いまい・りょういち)
交通ジャーナリスト
1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。傍聴した裁判は1万1000事件を超えた(2024年6月現在)。
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(交通ジャーナリスト 今井 亮一)