〈食べログ3.5以下のうまい店〉ひと口食べるとハッと驚く、潔いコーンスープ。日本料理のエッセンスを感じるフレンチ

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グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」をご紹介します。フードジャーナリストの外川ゆいさんのお気に入りは、日本料理のエッセンスが光る、桜新町のフレンチ。

〈食べログ3.5以下のうまい店〉

グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回はフードジャーナリストの外川ゆいさんが、最近お気に入りだというフレンチを紹介する。

教えてくれた人

外川ゆい
フードジャーナリスト。つくり手のストーリーや思いを伝えることを信条に、レストラン、ホテル、スイーツ、お酒など、食にまつわる記事を執筆する。雑誌やwebでの取材のほか、予約サイト、HP、リーフレットなど。出産を経て食育への関心も高まり、食いしん坊な3歳児との日々の食卓を楽しんでいる。

桜新町にひっそりと誕生した隠れ家レストラン

桜新町駅から徒歩4分のアクセスのいい立地

「おいしい店は食べログ3.5以上」のような通説があるが、食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下。口コミが少なかったりオープンから時間が経っていなかったりすると、「本当はおいしいのに3.5に満たない」ことは十分あり得る。点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

「daco」や「OGAWA COFFEE LABORATORY」など、近年オシャレな店が続々とオープンしている桜新町。「La mère(ラメール)」は、2023年5月にオープンし、1周年を迎えたフランス料理店だ。大通り沿いに立つビルの2階に佇むが、少々わかりづらい店構えで初めて訪れると通り過ぎてしまう人も多いとか。

カウンターは、ゆったりとした間隔で6席が並ぶ

階段を上り、扉を開けると白と木目を基調としたエレガントな空間が広がる。カウンターと調理スペースがフラットになっており、座り心地のいい椅子に掛けると、シェフが鮮やかに料理を仕上げる姿をすぐ間近で楽しむことができるのもご馳走のひとつだ。個室は非常に広々とした空間で、まっさらな白いクロスが掛けられている。子どもの来店もOKなので、家族で記念日を祝うのにも最適だろう。

個室は2名から6名まで利用できる広々とした空間

外川さん
非日常の洗練された雰囲気ですが、黒田シェフご夫婦の温かなもてなしにとても癒やされ、リラックスして食事を楽しむことができます。

店名「La mère」に込められた思いと象徴する食材

店名の「La mère」とは、フランス語で「お母さん」の意味。母親が家族の健康を気遣って料理するように、安心・安全を第一に食事を楽しんで欲しいという想いが込められている。料理は黒田浩二氏が、ドリンクはマダムの黒田さおり氏が担当し、夫婦二人三脚でゲストをもてなす。

ゲストの目の前で料理を仕上げるオーナーシェフの黒田浩二氏

料理人になった理由を尋ねると黒田シェフはこう語った。「将来を考え始めた高校1年生の時、たまたまパティシエのドラマを観てこれだ!と思ったんです。それからは、ずっと続けていたサッカーをやめて、フランス語の勉強を始め、スポンジケーキを焼くなどお菓子作りもするようになりました」

高校卒業後、フランスへと渡り、パリ郊外やブルターニュ、アンジェ、ル・マンなどを2年かけて渡り歩き、ホテルのレストランやパティスリーに住み込みでパティシエとしての修業を積んだ。帰国後、マンダリン オリエンタル 東京にて洋菓子の腕を磨く。20代前半で料理人へと転身すると、都内のミシュランの星付きフランス料理店や日本料理店、イタリア料理店など多ジャンルで研鑽を積む。青山の日本料理「てのしま」などを経て、2023年5月に、夫婦で「La mère」をオープンした。

シェフの両親が、実家の静岡県掛川市で栽培するハーブの数々

フランス料理に欠かせないハーブの数々は、実家で栽培したものを使用している。もともと教師だった両親の趣味が高じ、現在では多彩な種類を栽培。ミント、セルフィーユ、タイム、ローズマリー、バジル、セージなど、料理のほか、ノンアルコールのペアリングでも欠かせない食材となっている。また、掛川の道の駅で販売している天然のクレソンなどを仕入れることも。「両親に道の駅に買い物に行ってもらい、テレビ電話で並んでいるものを見て、ハーブ類と一緒に送ってもらいます」と黒田シェフ。

食材は、100%無農薬ではないが、ほぼすべて無農薬や減農薬、オーガニックを使用。お肉に関しても放牧や平飼いで、抗生物質等を投与せず、無添加飼料で育った牛や鶏、ジビエなどを扱っている。魚は、主に瀬戸内で獲れたものを使用しており、岡山県倉敷市の魚屋「魚春」の店主が丁寧に処理したものを取り寄せている。「料理人によりおいしい状態で届けるため、生きたまま水槽で一日泳がせてストレスを抜き、神経締めして内臓処理などを終えた状態で届きます」(黒田氏)

お米は福岡県の苺農家である広川いちご園が作る「にこまる」「夢つくし」「ヒノヒカリ」などの特別栽培米を使用。

白砂糖や香料を使用せずとも満足感を出す工夫や研究も欠かさない。甘みは主にブラジル産の有機さとうきびから作られる原料糖を使用。主役となる食材はもちろん、調味料に至るまで丁寧に厳選した食材を使用することで、身体に負担の少ない料理が完成する。

こちらは、ある日販売していた冷凍のカレー

ちなみに、不定期で、端材を使用したカレーやパスタソースなどの冷凍のレトルトも販売している。「ご家庭でも安心・安全な食事を楽しんでいただきたい」という黒田シェフの思いからで、環境にも優しい試みだ。Instagramのストーリーでお知らせしている。

ゲストの来店時間に合わせ、自家製のパンを焼き上げている

ゲストの来店時間に合わせて焼き上げる自家製パンも魅力のひとつ。カウンターで焼きたてのパンをカットすると、フワッと湯気が立ち上る。バターにもこだわり、ニュージーランドの牧草だけをエサとして飼育された牛のミルクで作られたグラスフェッドバターを使用。

料理を引き立てるパンはついお代わりしてしまう

外川さん
食材について尋ねると、生産者さんの思いも丁寧に伝えてくれ、強い信頼関係があることが伝わってきます。

「素材の味を感じてもらうため、手を掛け過ぎない」がモットー

甘々娘の冷製コーンスープ

「甘々娘(かんかんむすめ)の冷製コーンスープ」

「甘々娘(かんかんむすめ)の冷製コーンスープ」に使用する食材は、厳選したとうもろこしと海塩のみ。とうもろこしの芯で出汁を取った潔い仕立てだ。黒田シェフは「素材の味を活かすことを日本料理の大将から教わりました」と語る。とうもろこしは、徐々に銘柄を変え、7月末頃まで提供予定。

スープに合わせて提供されるのは、日本酒「すっぴんるみ子の酒」

ペアリングで日本酒の「すっぴんるみ子の酒」の生原酒を合わせている理由をマダムはこう語る。「油脂がない料理のため、ワインよりも日本酒が合います。料理も日本酒も余計なものが入っていないもの同士なので相性が良く、しっかりと寄り添います」

外川さん
冷製コーンスープは、口にするとハッと驚かされる味わいです。クリーム感ではなく、とうもろこしのうまみや甘みで勝負しているといった印象。

穴子のリゾット

「穴子のリゾット」に合わせるワインはリドルフィの「ロッソ・ディ・モンタルチーノ」

「穴子のリゾット」は、特別栽培米の「にこまる」を米糠が付いた状態から炊いている。串打ちして焼いた穴子を食べやすいサイズにカットしてのせ、その上に穴子の骨を煮詰めて赤ワインと合わせたソースを。チーズもクリームも使用しており一見濃厚そうだが、非常に軽やか。仕上げにかけた山椒と赤ワインから感じるスパイシーさが見事に重なり合う。

リゾットは、チーズやクリームを軽くマスキングするように調理

外川さん
「リゾットというより雑炊」という黒田シェフの説明が腑に落ちる味わいです。香ばしい穴子が贅沢にのって満足感たっぷりですが、なんとも軽快な食後感。

爽やかさや軽やかさに魅了される、身体思いのフランス料理

あおさ海苔と茸のパテを塗って焼いたマナガツオ 甘夏のソース


酸味や苦みがアクセントとなる甘夏を使ったソースを魚料理に

優美な魚料理「あおさ海苔と茸のパテを塗って焼いたマナガツオ 甘夏のソース」は、あおさ海苔とブラウンマッシュルームのパテを塗った瀬戸内産のマナガツオを、上下の火加減を調整できる調理器具・サラマンダーで火入れ。ソースに使用する甘夏は、愛媛県宇和島でみかんを栽培する高木農園から仕入れている。もともと農水省にいて柑橘を研究し続けている園主の高木信雄博士による独自の栽培法の柑橘は風味が格別だ。

「あおさ海苔と茸のパテを塗って焼いたマナガツオ 甘夏のソース」

仕上げに添えたディルの花は、黒田シェフの両親が栽培するもの。合わせるワインは、フランスのロワール地方で、夫婦で営むワイナリー、リズ・エ・ベルトランの「ジュセ プルミエ ランデヴ」で、ワインが持つジャスミンのようなニュアンスが、コクの中にも爽やかさを感じる甘夏のソースと重なり合う。

外川さん
魚の火入れがうっとりしてしまう絶妙さ。ディルや甘夏が爽やかで、夏に食べたくなる爽やかな魚料理です。

アマゾンカカオのオペラ

スペシャリテのデザート「アマゾンカカオのオペラ」

市販のチョコレートは有名なメーカーでも香料を含むため、「アマゾンの料理人」の異名を持つ太田哲雄氏が直接ペルーで仕入れたクリオロ種カカオから作られたテンパリング前のチョコレート(カカオマス)である「アマゾンカカオ」を使用。コーヒーシロップを染み込ませたカカオ生地、カカオとアールグレイのムース、ガナッシュを薄く6層に重ねている。小麦粉や白砂糖を一切使用せず、米粉や原料糖を代用した完全無添加のデザートは、レシピ作成に最も時間がかかったそう。ディナーコースでたまに登場するとのことなのでお楽しみに。

外川さん
フランス料理のデザートにオペラと聞くと、ちょっと重いかと思いきや、驚くほどテンポよく食べてしまう口当たり。さすがパティシエ出身!とデザートは毎回感動させられます。

シェフの料理にマダムがセレクトするワインが寄り添う

ワインや日本酒は、シェフの料理との相性を考慮してマダムが厳選している。「ひたすら味わいをチェックして選んでいるのですが、自然とナチュラル、ビオディナミ、オーガニックのワインが多くなります」。

国は問わず味わい優先で取り揃えるワインや日本酒の一例

ノンアルコールのペアリングは、ハーブやスパイス、無農薬のフルーツの酵素などをオーガニックのお茶と合わせるなどオリジナリティ溢れる一杯に出会うことができる(仕込みが必要なため要予約)。ランチコースは6,600円〜、ディナーコースは9,900円〜、アルコールペアリングは8,800円、ノンアルコールペアリングは6,600円。

外川さん
ワインや日本酒への愛情が滲み出ているマダムの解説に、よりおいしさがアップします。アルコールでもノンアルでもペアリングが絶対おすすめ!

厳選している食材の素晴らしさに加え、日本料理を経験しているからこそのレシピによって完成する料理は、どれもホッと和むような優しさで、まさに親が子に作るような思いを根底に感じる味わい。それでありながら、非日常の特別感もしっかり感じることができる「La mère」。ただいまと帰ってきたくなるような一軒だ。

※価格はすべて税込、サービス料10%別


<店舗情報>
◆La mère
住所 : 東京都世田谷区新町2-22-16 Ryo Ave. 2F
TEL : 050-5592-4563

取材・文:外川ゆい 撮影:松園多聞

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