「サイゼが香川で苦戦中」噂は本当か検証した結果
「サイゼが香川で苦戦している」という噂を聞いた。本当なのか? 強いライバルでもいるのか……? 足と胃袋を使って確かめてみた(筆者撮影)
都民驚愕、サイゼが香川で苦戦?
昨年ぐらいから、筆者は香川と東京の二拠点生活を始めた。そんな折、地元の人と話す機会があり、面白い話を聞いた。
「香川で、サイゼがあんまり流行っていない」
東京歴の長い筆者は「え、あのみんな大好きサイゼリヤが?」と耳を疑った。彼に「どうして?」と聞くと、「たぶん、香川にはうどん屋があるから?」との返答だった。
香川といえば、うどん。うどんといえば、香川である。ちなみに筆者が住んでいるのは「丸亀」というところで、かくいう「丸亀製麺」でおなじみの地名である(ちなみに丸亀製麺は兵庫県発祥)。
香川にいるときの昼食は、ほぼうどんです(筆者撮影)/配信先サイトでは画像をすべて見ることができません。本サイト(東洋経済オンライン)内でご覧ください
サイゼリヤをもってしても、香川のうどんには立ち向かえないのか?
というわけで、香川にあるサイゼ全店舗を訪れながら、サイゼとうどんの仁義なき戦いの一部始終を調べることにした。
全店舗、と堂々と書いたが、実は香川にはサイゼリヤが4店舗しかない。しかもうち2店舗は県庁所在地である高松市にあり、残り2店舗も高松からそこまで遠くない位置にある。
サイゼ上陸は2022年とごく最近
そもそも、香川にサイゼリヤが初上陸したのは、2022年12月。イオンモール綾川店だ。実は、かなり最近なのである(四国初上陸でもあった)。
その後も、少しずつ店舗を増やし。2023年11月、高松にある「丸亀町グリーン」という商業施設の中に4店舗目ができて、現在に至る。まだまだ、香川においてサイゼリヤの歴史は浅いのだ。
【2024年6月13日13時20分追記】初出時、店舗の出店について誤りがあったため、上記に修正しました。
そんなおニューな香川・サイゼリヤをめぐってみよう。1店舗目は、1号店である「イオンシティ宇多津店」だ。
見た目は、普通のサイゼリヤとさほど変わらない(筆者撮影)
他のサイゼリヤよりも、店内が緑色だろうか? 香川はオリーブが有名だから、そのオリーブの色の影響を受けているのかもしれない(筆者撮影)
私が訪れたのは、平日のランチ時。他の場所のサイゼだったら、かなり混んでいて、場合によっては並ぶこともある時間帯だ。
しかし、この店は、決してガラガラというわけではないが、いっぱいいる、という感じでもない。8割ぐらいの入りだ。
ミラノ風ドリア(300円)。圧倒的定番。食べると気分はイタリア(筆者撮影)
2店舗目、もっとも新しくできた「丸亀町グリーン店」。先ほどは平日行ってみたので、今後は、日曜日の夕方(18:00)に行ってみた。
丸亀町グリーンは、丸亀町商店街という中にある商業施設で、商店街の再開発としては、日本でもっとも成功したといわれている、とてもいい感じの場所である。
(筆者撮影)
商店街、というよりもショッピングモールと言ったほうがいいぐらい、さまざまな施設が入っていて、チェーン店も適度に入居する。その中に、サイゼリヤができたのだ。
サイゼとマックが並んでいる。いいですねえ(筆者撮影)
新しい店舗だけに、外観はとてもきれい(筆者撮影)
やはり、満員ではない(筆者撮影)
中に入ってみる。やはり、混み具合は8割ぐらい、といったところ。空席がポツポツとある。日曜の18時なんて、家族連れも来るし、友達同士でも来るだろうし、かなりのゴールデンタイムのはず。
柔らか青豆の温サラダ(200円)と、エスカルゴのオーブン焼き(400円)。陰の人気メニュー。うまい(筆者撮影)
商店街の1階部分では、クラフトビールフェアをやっていた。人でいっぱい(筆者撮影)
ちなみに、商店街自体は、かなりのにぎわいだ。
結論を言うと、他の2店舗(イオンモール高松店、イオンモール綾川店)についても、やはり同じぐらいの混み具合だった。並ぶかなあ、と覚悟してたのだが、すぐに入れた。都内のサイゼでは、なかなか考えにくい状況である。
香川に立ちはだかる「うどんの壁」
さて、ではなぜ、このようなことが起こっているのか。ランチ・ディナーそれぞれの時間に分けて考えてみよう。
まずはランチ。先ほども紹介した通り、サイゼでは500円でランチを食べることができる。しかも、セットのサラダとスープ付き。うれしい。
しかし、そこに壁が立ちはだかる。うどんだ。私は、この香川県におけるランチ業界の問題を「うどんの壁」問題と名付けている。
「うどんの壁」は高い。香川県には2023年の段階で、479軒のうどん屋があり、県民1万人当たり、5.08軒のうどん屋がある。これは、国内ダントツ1位だ。
まあ、香川で運転してると、次から次へとうどん屋が出てくるので(筆者撮影)
おいしそう!(筆者撮影)
ちなみに、香川のほとんどのうどん屋は14時前後に店を閉める場合が多く、基本的にモーニング・ランチ向けの食事である。
この記事を書いた朝も、純手打ちうどん よしやでおいしくかけうどんをいただきました。ここは、麺作りのすべての工程で機械を使わない珍しいうどん屋で、不均一な麺が逆にツユとからんでおいしい(筆者撮影)
問題は、うどん1回当たりの支出額である。そんな、うどん1回の支出額なんて統計があるわけが……と思ったら存在した。地元の銀行「百十四銀行」のシンクタンク「百十四経済研究所」が、2021年から年次で香川県民のうどんの消費状況についてアンケートを取っているのだ。
最新の調査である2023年では、県民のうどん外食1回当たりの平均支払金額は503.96円と推定されている。うどん外食のほとんどがランチだろうから、これはイコール「うどんをランチとして食べるときに支払う金額」と捉えてもよい(とても安いが、前年より28円ほど平均値が上がっている)。
ちなみに、実際のところ、うどん自体は1玉300〜400円だったりして、そこに天ぷらなどをトッピングしてこの値段になっていると思われる(筆者撮影)
地元の人気チェーン・こだわり麺やのかけうどん(小)。290円と、ミラノ風ドリアと戦える値段だ(筆者撮影)
すると、どうだろうか。サイゼの500円ランチと、香川県民のうどん支出額は、ほぼ拮抗するのである。大発見だ。
なるほど、こうなってくると、うどんとサイゼランチは値段的な面でいえば、互角に戦わなくてはならなくなる。「うどんの壁」はなかなか高い。
では、ディナーは?というと、これはこれで難しい。
サイゼのディナー需要を支える一つが、「サイゼ飲み」、つまりアルコール需要だろう。グラスワインは100円って、駄菓子かと思う安さだ。酒飲みならほぼ全員、人生に1回は、サイゼの安さに驚いているはずだ。
グラスワイン(赤・100円)とパルマ風スパゲッティ(400円)。合う〜(筆者撮影)
しかし、現在香川4店舗にあるサイゼリヤを見ると、3店舗はいわゆるロードサイド型店舗で、イオンモールの中に入っている。お客さんの大半は車で来ているから、酒を飲む、ということができない。
実際、私が店を訪れたときも、ワインを飲んでいる人たちはいたものの、カップルや夫婦の片方だけが飲んでいる光景が多く、都心で見られるように、みんなでサイゼ飲みをする光景は見られなかった。
また、唯一といってもよい都心型立地店舗である「丸亀町グリーン店」では、香川県の他の店舗に比べて、アルコールを飲んでいる人々が多く、やはり車社会におけるアルコール需要の問題は大きいのかもしれない、とも感じた。
これはロードサイド店全店にいえる問題だが、特に香川の場合は、ランチ需要における「うどんの壁」問題があるため、ディナーにおける売り上げの成否は大きなものになる。
それが、結果的に、香川におけるサイゼの存在感を弱めているのかもしれない。
圧倒的な香川の「うどん」ブランド
そして、圧倒的なのは、香川県人にとっての「うどん」というものが持つ、ブランド力、というか地域への根付き方だ。
私がよく行くうどん屋に「なかむらうどん」といううどん屋がある。
村上春樹も絶賛した、名店・なかむら(筆者撮影)
溶き卵の中に釜からあげたうどんを投入し、だし醤油をかける「釜玉うどん」が名物の一つで、私の中では、生涯食べた食べ物の中でも、ほぼ1位に鎮座しているぐらいにおいしい。
釜玉うどん(小)は310円。毎回食べるたび、あまりの美味さに失神しそうになる(筆者撮影)
アツアツのうどんが溶き卵に投入され、ちょっとだけかたまる。
ここのうどんの食感は、「グミのよう」とも形容されて、硬さと柔らかさが不思議に同居している。それも相まって、全体の食感はふんわりしていて、まるでケーキのよう。
ちょっとだけかたまった卵はほんのり甘く、その中にだし醤油のしょっぱさが加わる。極上の甘じょっぱさが、口を支配するのであります。
はい、うますぎるー(筆者撮影)
村上春樹がエッセイでも訪れたうどん屋で、村上は、「なかむら」が地元に根付く、超絶ローカルな場所であることに驚いている。ちなみに、かつての「なかむら」は、ネギはお客さんが直接畑から切っていたらしい。村上が驚くぐらい、さぬきうどんは、それぞれの店がそれぞれ、地域に馴染んできた。
それに、どのうどん屋も、それぞれ特色がある。例えば、「長田 in 香の香」。
長田 in 香の香(筆者撮影)
ここのウリは、「釜あげうどん」(小・400円)だ。もっちりとした麺のおいしさもさることながら、初来店の人が、ほぼみんな驚くのが、その圧倒的なつけ出汁のうまさ。
写真を見てるだけで食べたい…(筆者撮影)
いりこ出汁がこれでもか、と効いている出汁は、単体で飲めてしまうほど。香川県のうどんの出汁には、よくいりこが使われている。瀬戸内海に浮かぶ伊吹島は、いりこが有名で、それが使われている場合が多い。
つまり、香川にとってうどんとは、圧倒的に、その土地の風土や気候に根付いた食べ物なのである。
また、肉うどんが絶品の「綿谷」、さらに「釜バターうどん」が有名だけれど、実は「ひやかけ」(冷やしたかけうどん)もおいしい高松の「うどんバカ一代」など、それぞれの店にそれぞれの特徴がある。
綿谷の牛肉ぶっかけ(小・540円)。小なのに、食べるとかなりの満腹度(筆者撮影)
うーむ、そう考えると、サイゼリヤが突如やってきても、なかなかその牙城は崩せないのかもしれない。それにしても、うどんはうまい。
香川のサイゼはどうなっていくのか?
なんだかサイゼリヤの記事ではなく、うどんの記事になってしまった感もあるので、ここで整理しておこう。
・香川県民の友人は「あんまり流行ってない」と言っていたが、たしかに満員ではなかった。でも、ガラガラでもないので「苦戦」は言い過ぎの感。「定着の途中」といったところ
・香川では、ランチに「うどん」という強敵がおり、価格帯的にもほぼ同等、もしくはうどんのほうが安い
・車社会ゆえ、夜の集客は都会よりは苦戦しそう
また、香川県の方といろいろ話してみると「サイゼリヤは混んでいる、という先入観がある」とか「うどんの提供スピードが速すぎる」という話も出てきて、香川におけるサイゼ定着問題(と言っていいのか?)は、他にもいくつかの要因がありそうだ。
やはり、全体を見ていると、特にランチ需要における「うどん」の強さは、なかなかサイゼの人気度をもってしても攻略が難しいのかもしれない、と思えてくる。
ただ、まだ香川県におけるサイゼの歴史ははじまったばかり。これからさらに出店を広げていけば、うどんと並ぶ香川の定番ランチ・食事へと変化を遂げるかもしれない。
【画像】「サイゼが香川で苦戦」の噂の真偽を検証した結果、「超人気うどん店」の美味さに震えた…うどんの写真を見る(25枚)
香川のサイゼ、がんばれ!(筆者撮影)
「地中海」ともいわれる、瀬戸内海。香川の魅力だ。そして、筆者はイタリアを勝手に思い浮かべるのである(筆者撮影)
(谷頭 和希 : チェーンストア研究家・ライター)