完成時の神姫バスの新造車両「YUI PRIMA OLIVIA」=2024年2月(記者撮影)

兵庫県姫路市に本社を置く神姫バスは2024年4月、新型のツアー専用車両「YUI PRIMA OLIVIA(ゆいプリマ オリビア)」の運行を開始した。

同社は2016年から専用車両「ゆいプリマ」による高付加価値のバスツアーを実施しているが、新たに瀬戸内エリアを周遊するツアーのために車両を2台新造した。欧米・東南アジアを中心にインバウンドの富裕層や、首都圏からの旅行客を取り込む考えだ。

ドーム状の天井の車内

デザインはこれまでに3台導入したゆいプリマと同様、工業デザイナーの水戸岡鋭治氏が担当。木材を多用し、頭上の荷物棚をなくしてドーム状の天井に仕上げた。1人用座席と2人用座席が7列の21席。各座席にはテーブルとカップホルダー、小物入れ、充電用USBソケットを備える。1号車と2号車では車内の色合いに変化をつけた。

車両後部には瀬戸内の地酒や銘菓などを提供するためのカウンターを設置。専属のアテンダントが乗務し、ドリンクを席まで運んでくれるという。コートなどを預かるクロークや温水洗浄付きのトイレも配置した。

【写真】最新「超豪華バス」の座席を取り付ける前の車内、工場での関係者へのお披露目の様子を独占取材(40枚)

運行当初、3泊4日の「瀬戸内シンフォニールート」は西行きのAコースと東行きのBコースを用意。どちらも旅行代金は2人1室で1人あたり28万円、1人1室は31万円に設定した。姫路城と厳島神社という外国人観光客にも人気の世界遺産を抱える兵庫と広島を発着地とする。

Aコースは姫路や三宮を出発し、明石海峡大橋と大鳴門橋を通って四国へ渡る。1日目は香川県高松市、2日目は愛媛県今治市に宿泊。3日目に宗方港から岡村港までバスごとフェリーに乗り込み、安芸灘とびしま海道を経て、広島県廿日市市の宮島口に宿泊、4日目は広島駅から新幹線で帰る。

1日目に四国八十八ヶ所霊場の第1番札所である霊山寺(徳島県鳴門市)と第2番札所の極楽寺(同)を装束をまとって「お遍路」。2日目に香川でうちわ作りと和三盆作り、3日目に村上水軍の拠点の1つであった能島の潮流クルーズと、各地で「体験メニュー」をそろえた。

売りは各地の体験メニュー

一方、Bコースはまず新神戸・姫路から新幹線で広島へ移動、1日目は宮島口に宿泊する。2日目に竹原を散策した後、忠海港からのフェリーまたはしまなみ海道経由で大三島に渡り大山祇(おおやまづみ)神社を参拝、今治に宿泊する。3日目は讃岐うどん作りの体験と栗林公園散策をして高松泊。4日に女木島と岡山県倉敷市の鷲羽山を経て帰途に就く。


車内は荷棚のないドーム状の天井。2号車は藍と白の内装デザイン(記者撮影)

もう少し手軽に利用できる日帰りプランも用意した。現代アートで知られる直島を訪れるコース(3万9000円)は、新神戸を出発して岡山県の宇野港からフェリーで直島へ渡り、「家プロジェクト」や「ベネッセハウスミュージアム」を見学する。淡路島のコース(4万8000円)は、鳴門のうずしおクルーズや人形浄瑠璃の鑑賞が主なコンテンツだ。


神姫バスの長尾真社長(左)と工業デザイナーの水戸岡鋭治氏。1号車は暖色系の内装(記者撮影)

2024年2月、富山県富山市にある三菱ふそうバス製造の「ウェルカムセンター」を神姫バスの長尾真社長と水戸岡氏が訪れた。水戸岡氏は「手間をかけて床も天井も木で作ったオンリーワンのバス。製造現場は大変だったと思うが、鉄道車両でもやったことのないような思い切ったバスができた」と感想を述べた。

路線バスとして乗れる?

デビューを控えた車両を前に長尾社長は「私たちが毎日見ている瀬戸内海は第一級の景勝地。大阪や京都などオーバーツーリズムとなっているエリアから観光客を呼び込むきっかけにしたい」と狙いを説明。そのうえで「路線バスとしても使える仕様にしてあるので、高速道路をあまり通らない、瀬戸内の海岸線の旅をゆっくり楽しんでもらえる運用をしていきたい」と話す。


車体のカラーは瀬戸内の海をイメージしたという(記者撮影)

同社によると2025年春以降、コース上に停留所を設けて、自由に乗り降りできるスタイルを目指すという。地元のバス会社などほかの交通事業者とも連携を図る。

“運賃”はそれなりの金額になるとみられるが、実現すれば瀬戸内エリアに「超豪華路線バス」が走ることになる。バスは安価な移動手段のイメージが強いだけに、時間と費用をかける旅のメリットをいかに国内外に発信していくかが今後の課題となりそうだ。


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(橋村 季真 : 東洋経済 記者)