地元猟友会の男性が危惧!秋田の山中に出没した「人喰いグマ」は、本当にツキノワグマなのか…指摘されている「ヒグマとの交配」の可能性

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鉄砲撃ちの高齢化と減少が止まらない

秋田県鹿角市大湯の山中でこの5月、クマに襲われて警察官2名を含む計3人の男性が死傷した。そのうちの一人、命を落とした佐藤宏さん(64歳)の遺体は損傷が激しく、妻も見ることができなかったという。

この時のクマはいまだ駆除されていないが、ここ5年ほど、秋田側の熊取平や田代平、岩手側の四角岳、青森側の迷ケ平など、三県の境界周辺で、大型の個体の目撃例が増えていて、しかも、そのほとんどが赤毛の個体だったという。

前編記事『秋田の山中に出没した「人喰いグマ」の「ヤバすぎる正体」…!報じられない地元の証言「どう見てもツキノワグマじゃねえ」「デカすぎる」』に引き続き取材を進めていると、秋田県の猟友会に所属している男性がインタビューに応じてくれた。

「鉄砲撃ちも高齢化してきたし、人数がどんどん減ってきてしまった。あくまでも感覚だけど明らかにクマは増えていますよ。

特に『スーパーK』(2016年に4人の男女を襲って食べたクマのこと)の出た熊取平から四角岳は入山禁止が多いので、朝方など道路沿いでも毎日のようにクマを見かけます。クラクションを鳴らしても逃げもしません。

この時期の熊は発情期の前なので、冬眠で減らした体重をせっせと食べて戻して体力をつけています。今の時期はタケノコ。笹薮の根元をほじくり返してムシャムシャ食べます」

雌グマが里に出てくるワケ

猟友会の男性の解説がつづく。

「クマの好物であることは間違いないのだが、穂先だけを食べる個体がいると思えば、皮を剥いて食べる個体、そのまま丸ごと食べる個体、根っこだけを食べる個体もいるんです。熊にも個性があるということです。

笹薮は山の奥深くにもありますが、道路沿いや里山周辺にもあります。強い個体は山奥の良い餌場にいます。頭数が増えたから、弱い個体はどんどん追いやられてしまうのです。

子連れのクマの目撃情報もありますね。子連れのクマは神経質になっているので、見つけたら近寄らないようにと言われています。それは人間に対して神経質になっているのではなく、雄グマに対して警戒しているのです。この時期の雄グマは子グマを襲って食べることが多いのです。

やがて発情期を迎えますが、子グマがいると雌グマは発情しない。子グマを食われたら雌グマは発情するのです。そのために雄グマは子グマを食べてしまう。それを恐れて雌グマは雄グマのいる場所から逃げてくる。それがたまたま里山だったりすることもあるということなのです」

いくら聞いても、ツキノワグマとヒグマの交配による「ハイブリッド」(交雑種)については、どうしても口が重い。名前を伏せることを条件にようやく話してくれた。

「我々の知っているツキノワグマではない」

「何年も前から赤毛の大きなクマがいるということは、山仲間の話から耳にはしていました。一般的な成獣の倍ほどもある大型の個体も目撃されているのです。場所も県境を中心に散らばってます。一頭だけではないようですし、どう考えても我々が知っているツキノワグマではないのです。

クマ牧場の話は聞きましたか? 経営状態が悪くなると従業員も減らし、熊の餌もろくにあげられなくなります。事件(2012年に脱走したクマが従業員2名を噛み殺した)の頃は餌を与えずにそのまま餓死させようとするなど、酷い飼い方をしていたようですが、そんな環境だから生きるために熊は必死に逃げ出したのではないでしょうか。

飼育されていたのはヒグマだけでありませんが、どれだけの頭数がどのように飼育されていたのかも、そのうちの何頭が死んだのかなども報道にはなりませんし、正確に何頭が逃げたのか、あるいは逃したのかなども定かではありません。

これまで見られなかった特徴のクマがいるということから考えると、逃げ出したヒグマが地域のツキノワグマと交配を続けた末に、その子孫が広範囲に散らばっていると考えるのが普通なのではないでしょうか。『ハイブリッド』と噂されているそうした個体は、ヒグマの体格と獰猛な性格を受け継いだ個体だということです」

この猟友会の男性は、最後にこう指摘した。

「一刻も早く調査すべき」

「『スーパーK』(2016年に4人の男女を襲って食べたクマのこと)の事件のあった秋田県の熊取平や四角岳ですが、その後入山禁止になっています。人が入らない、人の目が届かないのですから、クマにとっては繁殖し放題の楽園のような場所になってしまった。

そこでどんなハイブリッド個体がどれだけ生まれ育っているのかは、誰にもわかりません。正体のよくわからないクマがいても驚きませんよ。そんな個体の調査などは国もしていないと思います。

本来いるはずのないヒグマとのハイブリッドが山の中をウロウロしていると考えるだけ恐ろしくなります。一刻も早く調査すべきです」

日本の国土の約7割は森林で覆われている。東西に長く、地質も地勢もさまざまで、四季があり、雨が多く、温暖な気候と相まって緑豊かな国土が維持されてきた。

その昔、山は神が住む場所として信仰の対象にもなり、人の侵入を拒んだ「入らずの森」や神楽や舞など、多くの民俗芸能が各地の山中に息づいていた。山間にも多くの集落があり、林業や狩猟、ろくろを使った器や手工芸品作り、炭焼き、屋根葺きなどが産業として根付いていた。

昭和の経済成長下においてそれらの産業は合理化、効率化が出来ず、地理的な僻地であることもあり成長の波には乗れなかった。やがて、山間に居住する人々の高齢化が進み、居住者は激減した。

国内の山林は私有林や公有林、国有林などに区分けされている。一部開発されているエリアはあるものの、山岳地帯の大半は人の手の入らぬままの状態なのだ。

いちいち自治体に報告しない住民も

クマの調査に関しても、目撃情報や痕跡情報などをただ集計して公表し、注意喚起をしているだけの自治体や、暗視カメラの設置やヘアトラップ調査など、専門家たちの尽力によって実態調査をしている地域はあるものの、推測の域を出てはいない。

国内の山林でクマの頭数は増えていると言われて久しいが、その分布や頭数などの詳細ははっきりしていないというのが実情なのだ。

秋田や青森、岩手など東北地方の里山や市街地には、ここ数年クマが目撃される件数が増えてきている。取材の過程においても、「今朝もウチの畑でみた」「車で走ると毎回のように見つける」といった話はよく耳にした。

中には「去年、使っていない納屋に親子のクマが住んでいた」という話もあった。住民たちにとって、クマの存在は身近なものであり、自治体に報告などをしないことが多いようだ。

ハイブリッドは「絵空事」なのか

山麓の集落においても上記のような状況であれば、多くの人の立ち入らない山間部において、人知れずハイブリッド化したクマが増殖を繰り返しているかもしれない現状は、容易に想像できる。

もちろん、ハイブリッドなど、絵空事なのかもしれない。単なる大型のツキノワグマである可能性も否定できない。ただ、ハイブリッドの存在をもはや事実として受け止めている民間人が複数いるということは、肝に銘じておきたい。

四方を大海に囲まれている日本だが、外来種には事欠かない。身近なところでは西洋タンポポやミドリガメ、アメリカザリガニやブラックバス、台湾サルにハクビシンなど、次々と国内で定着をしている。クマの世界でも似たようなことがないと言い切れるだろうか。

携帯電話の電波の届かない3県境の山中で一人佇んでいると、小さな物音にも敏感になる。クマの取材を通じて、ここでは人は捕食される対象であるという事実が重くのしかかり、気持ちを不安にさせるのだ。

「怖い」けど「やめられない」

それでもタケノコ採りを目的とした入山者は、危険を理解した上で今日も山に入る。単価の高いタケノコは生活費の足しとして、彼らの年間スケジュールに組み込まれているのだ。

人が亡くなったばかりの山中だが、すでにタケノコ採りが出没している。初老の男性は「怖いな、でもやめらんね」と、口にした。そして、好きな演歌を大音量で流しながら藪の中に消えていった…。

野生動物との共生はこれからを生きる我々にとって大きなテーマの一つとなる。他人事ではなく自分の問題として考えていきたい。

つづく記事『「遺体はすでに硬直し、足は曲がったままで…」秋田でクマに襲われ死亡した男性の「第一発見者」が明かす「恐怖の現場」』では、この5月、秋田でクマに襲われた警察官2名を含む計3人の男性が死傷した騒動の一部始終について、詳しく報じています。

「遺体はすでに硬直し、足は曲がったままで…」秋田でクマに襲われ死亡した男性の「第一発見者」が明かす「恐怖の現場」