血圧のクスリは、朝ではなく「夜に飲む」のが「圧倒的な正解」だと言える驚きの理由

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処方されたクスリを飲んでおけばいい――そう考えている人ほど痛い目を見る。古びた「常識」から抜け出せない医者は多い。患者が身を守るには、自ら最新知識をアップデートすることが唯一の術だ。

驚くほど下がった

読者の中には毎朝、朝食後に降圧剤を飲むのが日課になっている人も多いだろう。しかし「その習慣が大きく変わるかもしれない」と話すのは、自治医科大学名誉教授の藤村昭夫氏だ。

「研究が進むにつれて、朝ではなく夜に降圧剤を飲むメリットが次々と見つかっています。これまで血圧がなかなか下がらなかった人でも、クスリを飲む時間を変えるだけで驚くほど効果が出るケースがあるのです」

医学は日進月歩で発展しており、新しい知見が積み重なっていけばクスリの飲み方も変わっていく。これからの治療では、クスリを「飲む時間」にも気を配ることが「新常識」になっていくだろう。

いつもの降圧剤の効き目をさらに高めるためにも、最新研究で判明した「夜の降圧剤」の驚くべき効果を紹介していこう。

飲む時間を変えるだけで

夜に飲むと効果的な降圧剤の代表例が、レニベースやカプトリルなどのACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬だ。

「ACE阻害薬を夜に服用すると、降圧効果が長続きすることがわかっています。翌朝の血圧も十分に下げられますし、人によっては次の日の昼間まで効果が持続する。一般的に早朝は脳梗塞や心筋梗塞が起こりやすい『魔の時間帯』なので、そのタイミングで血圧を下げておくメリットは大きいでしょう」(藤村氏)

健康な人であれば、昼に比べて眠っている間は血圧が低下する。しかし高血圧患者の中には、夜間の血圧がさほど下がらない人も多い。

「そういった患者さんは夜間の血圧を下げておくことが重要なので、夜の服用がとくに効果的です。実際にACE阻害薬を夜に投与すると、昼間よりも降圧作用が高まるという研究結果も出てきました」(藤村氏)

降圧作用が強いためよく使われるACE阻害薬だが、飲むと空咳が出やすいという副作用が難点だった。

「しかし私たちの研究によって、ACE阻害薬を飲む時間を夜に変えると空咳を軽減できるとわかったのです」(藤村氏)

心不全まで予防する

そのうえ夜に服用すると、「空咳が出るというデメリットも『メリット』に変えられるかもしれない」と指摘するのは、栃木医療センター臨床研究部長の加藤徹氏だ。

「眠っている間は嚥下反射がうまくできず唾液などを誤嚥しかねませんが、咳が出ると誤って気道に入ったものが押し出されます。ACE阻害薬を夜に飲んでおくことで、空咳が誤嚥性肺炎を防いでくれるかもしれません」

さらに、空咳を引き起こす原因はブラディキニンという物質だが、体内に適度にあると心臓を保護してくれる。そのため夜にACE阻害薬を飲むことで、副作用を軽減しつつ、高血圧の治療と同時に心不全まで予防できるという。

ACE阻害薬と似たメカニズムで働くARB(アンジオテンシン2受容体拮抗薬)も、よく使われる降圧剤の一つだ。

「メカニズムが似ているだけあって、ACE阻害薬と同じく夜に飲むと降圧効果が長続きします。夜も血圧が高い患者さんならば、夜間の降圧効果はさらに大きいでしょう」(前出の藤村氏)

血圧を下げるために、ラシックスなどのループ利尿薬やチアジドをはじめとしたサイアザイド系利尿薬を飲んでいる人もいるだろう。こういった利尿薬を寝る前に飲むと夜間頻尿や断眠に悩まされる人もいるため、日中に飲むよう勧める医者は多い。

しかし「例外」とも言えるのが、セララなどの選択的アルドステロン拮抗薬や、アルダクトンほか抗アルドステロン性利尿薬だ。

「これらはループ利尿薬などに比べて利尿効果が高くないため、夜に飲んでも深刻な問題にはならないことが多いでしょう。

むしろ高血圧と睡眠時無呼吸症候群や肥満などを併発している患者さんにとっては、メリットのほうが大きい。夜に飲むことで、のどのむくみを取って睡眠時無呼吸を改善できたという論文が発表されています」(前出の加藤氏)

後編記事『脳卒中に心筋梗塞、さらに認知症の予防にも、「夜の血圧のクスリ」が効果的な「まさかの理由」』では、まだまだある「夜の降圧剤」のメリットを紹介していこう。

「週刊現代」2024年6月8・15日合併号より

脳卒中に心筋梗塞、さらに認知症の予防にも、「夜の血圧のクスリ」が効果的な「まさかの理由」