太陽の光が届かない深海に住む生き物の中には、エサをおびき寄せたり仲間と出会ったりするために生体発光を行うものがいます。オーストラリアの研究者らが、最大で2.3メートルの巨体を持つ深海のイカが、腕の先端についた生物界で最大の生体発光器官を振りかざす様子を映像に収めることに成功しました。

Rare deep-sea squid filmed at depth

https://www.uwa.edu.au/news/article/2024/may/rare-deep-sea-squid-filmed-at-depth

Elusive 'octopus squid' with world's largest biological lights attacks camera in striking new video | Live Science

https://www.livescience.com/animals/squids/elusive-octopus-squid-with-worlds-largest-biological-lights-attacks-camera-in-striking-new-video

西オーストラリア大学深海研究センターの研究チームは2024年5月に、深海に生息するヒロビレイカ(Taningia danae)が生きている様子を収めた非常に珍しい映像を公開しました。

Rare deep-sea squid caught on camera - YouTube

映像は、研究チームが南太平洋にあるサモア海峡に投下した自由落下式の餌付きカメラが撮影したもの。水深約1026メートルの深海の暗闇から大きなイカがぬっと現れました。



イカはカメラに取りついた後、素早く離れて深海に姿を消しました。



食いつかれた方のカメラの映像を見ると、2つある大きな生体発光器官が光っているのがはっきりと見えます。



カメラを獲物だと思ったイカは、足を広げてカメラに襲いかかりました。



この映像について、西オーストラリア大学のヘザー・スチュワート氏は「この体長約75cmのイカは、カメラを獲物だと思い込んで巨大な生物発光ヘッドライトで驚かそうとしました。その後、他のカメラの1つに腕を巻き付けたので、遭遇の様子をさらに詳細に撮影できました。これを目撃できたのは非常に幸運だったと思います」と述べています。

ヒロビレイカが属するヤツデイカ(Octopoteuthidae)科のイカは、その名の通りイカでありながら8本の足を持っています。生まれたばかりのころには10本の足がありますが、成長するに従って2本の足が失われて8本になるとのこと。

今回撮影されたヒロビレイカの個体は体長75cmですが、これまで報告された中で全長が最も大きい個体は全長2.3メートルにもなるメスでした。しかし、ヒロビレイカの最大の特徴は体のサイズではなく、人間の握りこぶしやレモンほどの大きさになる発光器官です。

この生物界で最大の発光器官は、まぶしいフラッシュで獲物を驚かせるのに使われるほか、他の個体とのコミュニケーションに使われるとも考えられており、2017年の研究ではまぶたに似た膜を使って発光パターンを制御できる可能性があることがわかりました。

生きたヒロビレイカの映像は貴重で、深海研究センターのアラン・ジェイミソン所長は「このイカの記録の多くは浜に打ち上げられたり、偶発的な混獲や鯨の胃の内容物の調査で見つかったりしたものです。この驚くべき動物を生きたまま観察できるのはまれなので、場所や水深、行動などのすべてが貴重な情報となります」と話しました。