●栃木県足利市にある『ココ・ファーム・ワイナリー』へ。葡萄畑の麓に佇む「こころみ学園」とともに育む絶品ワインを楽しめる「デギュスタシオンコース」の魅力をご紹介します。

 日本らしい繊細な味わいが評価され、近年、注目度がアップしている日本ワイン。中でも九州・沖縄サミットや北海道洞爺湖サミット、JAL国際線ファーストクラスなどで採用されているのが、栃木県足利市にある『ココ・ファーム・ワイナリー』のワインです。

 実は同ワイナリーでは、「こころみ学園」の学園生たちとともに平均斜度38度、上の方は42度という急斜面の畑で、ワイン用の葡萄づくりに取り組んでいます。今回、ワイナリーを見学させていただき、併設するレストランでワインによく合うコース料理をいただいてきたので詳しくレポートしていきます。

『ココ・ファーム・ワイナリー』で美味しいワインができるまで

レストランから望む景色。特殊学級(現在の支援学級)の中学生たちと担任教師が開墾した急勾配の葡萄畑

 1950年代、平均傾斜38度という急斜面に、特殊学級(現在の支援学級)の中学生たちと、その担任教師である川田昇さんが、ワイナリーの原点となる畑を開墾しました。ここがのちに『ココ・ファーム・ワイナリー』となり、今では美味しいワインを生み出す葡萄がつくられています。

 開墾当時、「知恵遅れ」と呼ばれることもあった中学生たちは、実際に雑草と作物の見分けがつかず、成長途中の作物を引き抜いてしまうことも。それを見た川田さんが、「下に生えるのが雑草、上は葡萄ということならわかるだろう」と考え、葡萄づくりをスタートしたそう。結果的に陽あたりや水はけがよく、葡萄にとって最良の条件が揃う畑となり、現在も学園生たちがワインづくりに取り組んでいます。

 自然の中での作業を通して自ら働く力をつけ、その力をもとに自然の恵みを引き出し、今では葡萄畑の守護人、そして醸造場の働き手となって主体的にワインづくりに携わっています。

1樽で約8500リットル分のワインをつくることができるステンレスタンク

 ワイナリー見学では、大きなステンレスタンクとご対面。このステンレスタンク1樽で約8500リットル分の容量があるそう。白ワインだと約1万本、赤ワインだと約8000本分が入ります。

 ここで出来上がったワインの瓶詰め作業も「こころみ学園」の学園生が行っていますが、多い日は1日約1万本ものワインを瓶詰めするというから驚きです。

ひんやりとした空気に包まれるワインセラー

 敷地内を歩くと、山の中にトンネルのように続く空間があり、天然のワインセラーとなっていました。温かいと再度発酵が進んでしまうため、セラーの中は年間を通して10~15度で保たれています。

 同ワイナリーの9割の樽は海外から中古で購入していますが、中古だと風味づけしなくても程よい風味が感じられ、使い勝手がいいんだとか。この環境の中でじっくりとワインの熟成が進みますが、放っておくと1週間で500mlくらい蒸発してしまうので、樽に同じワインを継ぎ足しながら手間暇かけて丁寧に熟成させています。

1992年ヴィンテージスパークリングは必見 [食楽web]

 セラーの入り口には、同ワイナリーで最初につくられた1992年ヴィンテージスパークリングの瓶が置いてあります。錆が良い味わいを出しているので、ワイナリー見学の際にはお見逃しなく。

瓶を逆さにして回すことで、瓶口に澱を集めます

 こちらはスパークリングワインの瓶内二次発酵後の様子。同ワイナリーでは、シャンパーニュ地方に伝わる伝統的な手法で瓶内二次発酵を進めています。瓶の底に、短く白線が引いてあるのが見えるでしょうか。澱を瓶口に集めるため毎日、手作業で45度ずつ瓶を回すので、白線はその目印。朝晩45度ずつ瓶を何周も回転させ、ゆっくりと澄んだ味わい深いスパークリンワインに仕上げていきます。

 澱(おり)と呼ばれる沈殿物を取り除き、コルクを閉めたら出来上がり。それでは、早速、レストランでそのワインをいただきましょう!

新鮮野菜や足利マール牛など地元食材と自家製ワインを楽しむ「デギュスタシオンコース」

スパークリングワイン「MV北ののぼ」

 今回いただいたのは、自家製ワインに、季節の料理をあわせた「デギュスタシオンコース」。萄畑を眺めながら、地元の新鮮野菜や足利マール牛、こころみ学園が手がける椎茸など、地元食材と自家製ワインを楽しめます。

「足利マール牛とヤシオマス」

 キレのある酸と上品なコクのあるスパークリングワイン「北ののぼ」に合わせるのは、足利マール牛とヤシオマスにラビゴットソースを添えたもの。ラビゴットソースはフランスの伝統的なソースですが、茗荷、大葉、生姜、漬け物などを刻み、和風に仕上げています。シャキシャキっとした食感が効いていて、食べるドレッシングといった感じです。

大きなアスパラ

 次に出てきたのが、手で持ちきれないほど大きなアスパラ。自家製マヨネーズと赤ワイン塩でいただくのですが、毎朝、仕込んでいるという新鮮なマヨネーズはシンプルながらやみつきになること間違いなし!

ぶどうジュースと、「2021甲州F.O.S.」

「デギュスタシオンコース」を食べたいけれど、運転が……という方は、ソフトドリンクでコースをいただくこともできるのでご安心を。駅から少し離れているので、自家用車で来る人も多く、ソフトドリンクを合わせる人も少なくないそうです。

季節の天ぷら

 明るい琥珀色に思わず目が奪われてしまう「甲州F.O.S.」と合わせていただいたのが、アナゴと天然ヤマウド、足利産セリの天ぷら。外はサクッ、中はふわっとした軽やかな食感。「甲州F.O.S.」特有の熟した果実味にしなやかな酸が加わり、味がグッと引き締まります。

右から「2021農民ロッソ」、「2021風のルージュ」、「2021陽はまた昇る」

 箸休めをいただいた後は、赤ワインがズラリ。「農民ロッソ」は筆者も大好きで、自宅に常備しているのですが、滑らかなタンニンとスパイスの余韻が楽しめます。「風のルージュ」は、濃いガーネット色をしており、フレッシュな果実味と軽快な酸味が印象的。「陽はまた昇る」は、口当たりが柔らかなワイン。飲み比べて、ぜひお好みの一本を探してみてください。

足利マール牛とラタトゥイユ

 赤ワインと合わせるのは、足利マール牛とラタトゥイユ。足利マール牛は、柔らかくジューシーな味わい。粒胡椒の佃煮が添えてあるのですが、これまた良い仕事をしてくれて、マール牛と一緒にいただくと時間差でピリッとした辛さが広がり相性バツグン。

「MVマタヤローネ」と、やよい姫のソースと牛乳アイス

 コースの最後は、マスカット・ベイリーAを使ったデザートワインが登場。爽やかな酸味と程よい甘さが、牛乳アイスにピッタリ。やよい姫のソースは、濃厚すぎて誰もが驚愕することでしょう。自然の優しい酸味と甘みが広がり、一気に食べ進めてしまいました。

「ココ・ファーム・カフェ」の伊藤澄夫シェフ

 1980年に『ココ・ファーム・ワイナリー』が創立、2003年に「ココ・ファーム・カフェ」がオープンし、2023年に伊藤澄夫シェフが就任しました。

「葡萄畑では、葡萄が光合成により糖分をつくり、醸造場では野生酵母等の微生物が糖分をワインに変えていきます。そのワインをお客さまが飲んでくださることにより、また葡萄を育てて、ワインをつくることができます。植物も微生物も動物も、色々な生きものの命のおかげで私たちは生きることができます。自然に敬意を払い、皆さまに感謝しながら、美味しいワインやお料理を作っていきたいですね」(伊藤さん)

 ワイナリー見学をしたあとに「ココ・ファーム・カフェ」で食事をいただいたので、感慨もひとしお。同ワイナリーでは、丁寧に葡萄と向き合う姿を間近で見られるのはもちろんのこと、今回体験させていただいたワイナリーツアーのほか、収穫祭などさまざまなイベントがあります。

「ココ・ファーム・カフェ」は気軽なアラカルト料理や本格的な「デギュスタシオンコース」まで揃うので、目の前に広がる葡萄畑を眺めながら、ワイナリーならではのメニューを味わってみてはいかがでしょうか。

住:栃木県足利市田島町611
TEL:0284-42-1194
営:10:00~18:00
休:年末年始(12/31~1/2)、1月第3月~金曜日の5日間、11月収穫祭前日
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