【丸山 晃司】もう「1000円の壁」は関係ない?1000円超えの「冷凍ラーメン」が爆売れしているワケ

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原材料費・光熱費・人件費などのコストが高騰している影響で、ラーメン店の倒産が増えているという。一方で好調なのが、最近よく見かけるようになった、自動販売機で買える「冷凍ラーメン」だ。全国の有名ラーメンを自宅で味わえる冷凍自販機サービス「ヌードルツアーズ」の仕掛け人の丸山晃司氏が、その好調の秘密を明かす。

ラーメン店の倒産が過去最多を記録

東京商工リサーチが行った調査(「ラーメン店」の倒産、過去最多の63件 前年度の2.7倍に急増)によると、2023年度(2023年4月〜2024年3月)における「ラーメン店」の倒産(負債1000万円以上)は63件と、前年度の23件と比べ2.7倍に増加。

これまで最多の倒産数であった2013年度(42件)の1.5倍と、過去最高件数を記録しました。

倒産原因として最多の理由は「販売不振」でした。

ラーメン店の経営を困らせる大きな理由として考えられるのは、小麦をはじめとする原材料高騰や人件費増加、光熱費増加などが挙げられますが、古くからラーメン業界に浸透している「ラーメン1000円の壁」も影響していると言われています。

「ラーメン1000円の壁」とは、「国民食」や「庶民の味」として親しまれるラーメン1杯に対して1000円以上の金額は払えない、という考え方です。

そのため、多くのラーメン店では、1000円以上にするとお客さんが来てくれなくなってしまうと考え、原価が高騰しているのにもかかわらず値上げに踏み切れず、利益が減ってしまうという状態に陥っています。

しかし、当社で販売する「ヌードルツアーズ」のような冷凍ラーメンに注目すると、全国に広がっている冷凍ラーメン自販機では1食1000円を超える価格でラーメンが売られており、棚に1000円を超える冷凍ラーメンが並ぶスーパーやデパートも増えてきました。

冷凍ラーメンは、お店で食べるのとは異なり、自分で調理(麺やスープ、具材の湯煎)が必要です。ひと手間かけなければ食べられないにもかかわらず、なぜ冷凍ラーメンが1000円を超えても普及していったのか、自身の経験を元にお伝えします。

値段はどのようにして決めたのか?

「ヌードルツアーズ」の冷凍ラーメン自販機は、全国の各ラーメン店がつくったスープと、製麺所である当社(丸山製麺)でお店の味を完全再現した冷凍生麺、チャーシューやメンマといった具材を入れて、1000円で販売しています。

2021年3月に販売を開始し、現在では全国216か所(2024年5月時点)に設置。2021年の販売開始以降、一番多いときには自販機1台で1日300〜400食売れ、販売開始から3年で、累計販売食数は50万食を突破しています。

また、他社が展開する冷凍ラーメン自販機も合わせると、全国に600台以上が設置されており、どれも1000円を超えた価格をメインに設定しています。

「ヌードルツアーズ」の原価は、主にお店から仕入れるスープの値段、生麺の原材料費、具材費、配送費、冷凍自販機の電気代です。

ラーメン店との一番の違いは、消費者に自販機で購入してもらうため、販売や調理、配膳をするための人件費(一般的なラーメン店では、売上高に対する人件費の割合が20〜30%を占めます)がかからない点です。

それでも冷凍ラーメンの原価を計算すると、利益を得るためには1000円以上にすることは必須でした。自販機という販売方法のため、お釣りがでないように1000円と設定して販売を開始しましたが、利益率はギリギリといった具合です。

ラーメン店における原価高騰に着目します。製麺事業も行う当社では、昨年、小麦の原価高騰の影響から麺の値上げを実施しました。昨今の物価高により、他の食材も軒並み値上げをしています。

さらに、人手不足による人件費の増加、光熱費の値上げも考えると、これまで1000円未満で販売をしてきたラーメンの価格に値上げ分を反映させた場合、ラーメン1杯1200〜1300円ほどにしなければならないのではと考えております。

そのため、今でもおいしいラーメンを1000円未満で販売している店主さんは、本当にすごい努力をされていると尊敬すると同時に、利益を考えると心配にもなります。

冷凍ラーメンが一般化した2つの理由

1000円を超える冷凍ラーメンが一般化してきている要因として、2つが挙げられると考えます。

1つ目は、「冷凍食品はおいしい」という認識が広がってきていることです。かつては冷凍食品というと、味は劣るが、家事の手抜きができて便利という認識でした。それが冷凍食品メーカーの努力や冷凍技術の発達により味が向上し、コロナ禍での中食ブームによって一気に冷凍食品のおいしさが広がりました。

日本冷凍食品協会が行う「“冷凍食品の利用状況”実態調査」の結果を見ると、「普段冷凍食品を購入する際、どこに魅力を感じて購入しているか」という質問に対して、「おいしい」と回答した割合は、2009年は24.6%、2024年は53.4%と、15年間で倍以上に増えています。

そのため、1000円の冷凍ラーメン自販機に対しても、購入するまでのハードルが下がっていたと感じています。

2つ目は、購入層に女性が多いという点です。一般的なラーメン店では、利用するお客さんのうち女性客の割合は1〜2割です。入るのに勇気がいる、急いで食べなければいけないと思い入店を躊躇する女性がまだまだ多い印象です。

一方で、「ヌードルツアーズ」の購入層は、4割が女性です。ラーメン店に一人では入りづらいという方や、自宅なら残したり家族とシェアできたりするからと二郎系ラーメンを購入する方、小さな子どもがいてラーメン店を利用しづらいファミリー層も多いです。

「1000円の壁」は本当に存在するのか?

自宅で本格的なラーメンを食べたいという消費者の需要に応えようとすると、出前サービスでは配送中に麺がのびてしまうため相性が悪い上に、配達料も合わせると価格が2000円近くになります。

また、冷凍ラーメンをオンラインで購入しようとすると、配送料がかかる上に家に届くまで数日かかってしまいます。そのため、自販機で1000円の冷凍ラーメンを買うことへの心理的障壁は低かったのでしょう。

このように1000円以上する冷凍ラーメンが消費者に受け入れられることが分かり、スーパーやデパートでも冷凍ラーメンが陳列されるようになりました。スーパーやデパートに並んでいるものは1500円を超えるようなものもあります。

このような比較的高めなものでも店頭に並ぶ理由は、冷凍ラーメンという市場に限ると、冷凍ラーメンを製造販売する企業が大手冷凍食品メーカー、もしくは当社のような冷凍ラーメン事業に新規参入した企業しかないこと。

そして、「手間要らず・手頃な価格で、納得できるおいしいラーメン」と「お店のスープを使った、お店そのままの味を楽しめるラーメン」に二極化していることも理由だと考えます。

老若男女に愛され、国民食ともいわれるラーメンですが、消費者は必ずしも「1000円の壁」を意識して購入しているとは思えません。当社で扱っている各ブランドのラーメンも、店舗で出している場合は1000円以上の価格帯が多いです。この物価高の影響もあり、「1000円の壁」という認識は、一般消費者から少しずつ変わってきているのではないでしょうか。

最後に、「ヌードルツアーズ」はコロナ禍の緊急事態宣言を受け、外食が難しくなった際に、ラーメン店の売上に貢献したいと、スープを買い取るかたちでスタートさせた事業です。

今後とも大好きなラーメン店へ、製麺や新たな事業を通して、貢献していきたいと思います。

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