大谷翔平選手と水原一平氏(写真は2024年2月)(写真:写真:AP/アフロ)

突然の結婚報告からの“盟友”水原一平氏の解雇……。MLBロサンゼルス・ドジャースに移籍して以降、大谷翔平選手の身辺が実に騒がしい。

「野球に専念したい」大谷選手は780万人以上のフォロワーを抱えるインスタグラムを通じて移籍や結婚を発表するなど、自身に関する情報を絶妙にコントロールしてきた。

水原氏のスキャンダルが噴出

大谷選手は、ドジャースや専属カメラマンなど“身内”アカウントのフォロワー数を増減させるほどの影響力があり、水原氏のアカウントも大谷効果で40万人超えのフォロワーを抱える。

巧みに情報発信をし、家族を守りながら野球に専念する体制をつくってきた中、大リーグ開幕という最悪のタイミングで水原氏のスキャンダルが噴出したことは、大谷選手本人にとっても痛恨であるかもしれない。

何かあるたびに、SNSを通して発表してきた大谷選手。大谷選手が情報のコントロールに活用したのが、2020年5月29日にアカウントを開設したインスタグラムだ。

最初の投稿では「これから皆さんと野球を通じて繋がるのを楽しみにしています」と記されている。コロナ禍で大リーグの開幕が2020年7月下旬に延期され、メディアの取材も規制されていたことがきっかけと考えられる。

ユーザーローカルのSNS分析ツール「ソーシャルインサイト」で大谷選手のアカウントを分析したところ、この1年でフォロワーが大きく伸びているタイミングは3度あった。2023年3月、2023年12月、そして2024年3月だ。

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大谷翔平選手のインスタグラム分析(グラフ:ユーザーローカル提供)

2023年3月は、侍ジャパンに合流するために日本に向かうことを報告した1日の投稿を皮切りに、26日までWBC関連の投稿を10回以上行っている。

それまでの3年弱で29回しか投稿をしていないことを考えれば頻度がかなり上がっており、しかもほかの選手もしばしば登場するなど、試合の裏側の雰囲気がよく伝わってきた。

侍ジャパンのメンバーたちも大谷選手と一緒に映った写真をタグ付けして、自身のアカウントに投稿しており、侍ジャパンの快進撃も追い風に飛躍的にフォロワーが伸びた。

侍ジャパンの一員で、今シーズンからドジャースに移籍して大谷選手のチームメイトとなった山本由伸選手のアカウントを見ても、WBCの押し上げ効果が相当なものだったとわかる。


山本由伸選手のインスタグラム分析(グラフ:ユーザーローカル提供)

大谷選手に話を戻すと、大谷選手のフォロワー数急増の次のタイミングは、歴史的な超大型契約となった2023年12月のドジャースへの移籍発表だ。デコピンと名付けられた犬を飼い始めたのも同時期で、幅広いフォロワーを獲得したと推察できる。

そして3回目の急伸は、言うまでもなく2024年2月29日の結婚だ。インスタで結婚を発表した日から3日間で約50万人フォロワーが増え、妻と一緒に写った写真を(24時間で投稿が消える)ストーリーに投稿した日には、15万人のフォロワーを獲得している。


大谷翔平選手のインスタグラム分析(グラフ:ユーザーローカル提供)

大谷選手のプライベートは、その情報の“発信権”を持つ個人アカウントにも大きく影響している。

水原氏のフォロワーも増えている

通訳の水原氏は、2019年7月以来投稿数は7回にとどまるが、フォロワー数は40万人を超える。大谷選手とドジャースが2024年3月15日に投稿した夫妻ツーショット写真に、水原氏も夫妻で写っていたためか、2024年3月15日から16日にかけてフォロワー数の伸びが鋭角化している。


水原一平氏のインスタグラム分析(グラフ:ユーザーローカル提供)

大谷結婚効果をより顕著に受けているのは、ドジャース専属カメラマンのジョン・スーフー氏のアカウントだ。

韓国に向かう機内や球団パーティの様子を独占的に投稿し、大谷夫妻の写真が複数含まれていることから、3月15日以降1週間で6万人以上のフォロワーを獲得している。テレビ局などはスーフー氏の投稿をもとに、大谷選手の妻が着ている服やバッグについて特集した。


ドジャース専属カメラマンのジョン・スーフー氏のインスタグラム分析(グラフ:ユーザーローカル提供)

大谷選手個人の去就は、所属する球団のSNSアカウントのフォロワー数も大きく左右している。

ドジャースのアカウントのフォロワー数は大谷選手の半分ほどだが、2023年12月以降顕著に伸びており、大谷選手の移籍でフォロワーがついてきたと考えられる。


ドジャースのインスタグラム分析(グラフ:ユーザーローカル提供)

一方、大谷選手が前シーズンまで所属していたエンゼルスは2023年12月以降フォロワーが減少を続けており、大谷選手の移籍とともにファンが流出したことがわかる。


エンゼルスのインスタグラム分析(グラフ:ユーザーローカル提供)

新聞社やテレビ局には、注目度が大きいニュースの発生時に街の声を取材して報じる「声取り」と呼ばれる仕事がある。21世紀の初めまでは著名人、一般人にかかわらず、広く発信するためにはマスメディアを通す以外に手段がほとんどなかった。

その後、誰もがホームページやブログで情報発信できるようになり、断片的な情報を統合して一覧性を持たせるまとめサイトが勃興し、SNSで拡散できるようになった。

そのSNSを材料にメディアが記事をつくるようになり、1つの情報が反響音のように大きく、暴力的になっていき、当事者を追い詰めることも常態化した。

メディアを上回る発信力を手にした大谷選手

SNSが影響力を持つ前は、マスコミが情報発信を独占していたため、「マスコミを敵に回すと恐ろしい」「だからこそマスコミをうまく利用するのが賢い」と言われることもあったが、今は不用意に言葉を発すると、切り貼りされ、間違った情報も放置され収拾がつかなくなる。

大谷選手はインスタの運用によって、メディアを上回る発信力を手に入れた。記者会見や囲み取材では野球に関する質問だけ答え、SNSを通じてファンとスポンサーのニーズを満たせば、日本メディアをスルーできるところにたどり着いた。

かつては芸能人がプライベートまで追いかけ回されても「有名人は公人」「有名税」として仕方ないと見なされる雰囲気もあったが、それはメディアが報じなければ庶民は何の情報も得られなかったからでもある。

大谷選手の妻は元スポーツ選手ではあるがメディアに日常的に出ていた人物ではない。大谷の打席ごとに姿がカメラに抜かれ、持っていたバッグのブランドを特定されているのを見ると、妻がSNSの投稿を事前に全削除したのは賢明な判断であり、大谷選手が日本のメディア取材を避けるのも納得できる。

ネット世論も同様だ。現在は好意的なコメントばかりだが、大谷選手本人や家族が目にできる空間で、自分の価値観を基準に論評する匿名の発信者は、いつ手のひらを返すかわからない。

大谷選手はWBCを契機に、試合以外のオフショットの公開が増えるなど、投稿の内容を少しずつ変化させて意志を示すようになっている。

特に2023年12月、週刊誌が水原氏の妻を「元ファイターズガール」だと報じ、それを前提に複数の女性週刊誌が大谷選手関連の記事を掲載したときには、その記事を取り上げてストーリーで否定する投稿を行った。結婚を控え、思うところがあったのかもしれない。

予想外だった水原氏のスキャンダル

水原氏は大谷選手のサポート役に徹し、目立つ行動はしていなかったように見える。けれども、大谷効果でインスタのフォロワーを40万人以上獲得していた彼は、知らず知らずのうちに一心同体に近い感覚を持っていたのかもしれない。

3月21日の水原氏の解雇を巡る情報は錯綜している。2023年末にドジャースと1000億円超の大型契約を結んだ大谷選手と常に行動を共にする中で、金銭感覚が麻痺したり、大谷選手の財布を当てにする感覚が生じてしまったのだろうか。

その水原氏の妻は、大谷選手の結婚をきっかけに「同行者」「見守り役」的な存在で、3月15日以降同選手や球団、専属カメラマンのインスタに登場し始めた。大谷選手の妻と並んで観戦する姿がメディアにもそうとう“抜かれた”。

もし水原氏が解雇されることを大谷選手が察知していれば、その後メディアで「水原氏の妻と大谷選手の妻」のツーショットが散々使われることを想定して、水原氏の妻を出すことはしていなかったように思う。

自身の結婚という人生最大級のイベントを巧みに情報制御した大谷選手も、長年連れ添ってきた水原氏のスキャンダルは想定もコントロールもできなかったのかもしれない。

ドジャース移籍と結婚を自ら発信してきた大谷選手は、苦楽を共にしてきた水原氏の騒動についても言葉を発するのだろうか。衝撃を受けながらも「何があったのか聞きたい」と望むファンは少なくなく、3月21日だけで、大谷選手と水原氏のアカウントのフォロワーはそれぞれ数千ずつ増えている。

(浦上 早苗 : 経済ジャーナリスト)