キャルズモーターが展開している、スズキのジムニーをベースにレトロな装いのボディキットをまとったモデル「ベアス」(写真:アルパインスタイル)

純喫茶やクリームソーダ、フィルムカメラ、レコードなど、昨今の若者が心惹かれるレトロやノスタルジーなものたち。それは自動車の世界にも広がり、ボディキットを装着してクラシカルな雰囲気をまとったクルマが、クルマに興味のない世代に刺さっているというのだ。

クルマ好きにとって、年始の恒例イベントとなっている1月の東京オートサロンや2月の大阪オートメッセ。これらは東西を代表するカスタマイズカーの祭典であり、自動車業界にとっては今後の流行を占う場所になっている。

そんな両イベントには、話題の新型車をベースとしたカスタマイズカーや往年の名車をカスタマイズした車両などが多く展示されていたが、ここ数年増えているのがボディキットを装着してイメージを一変させた車両たちだ。

そもそもボディキットとは?


ボディキットといってもさまざまだが、今回取り上げるのは現行車や高年式車をベースにクラシカルな雰囲気に仕立て上げるものだ(写真:アルパインスタイル)

ここでいうボディキットとは、ドレスアップ用のエアロパーツではなく、現行車や高年式車をベースにどこか懐かしさを感じるクラシカルなデザインに変更するもので、フロントグリルやヘッドライトガーニッシュ程度の手軽なものから、ボンネットやバンパー、フェンダーまで変更する大がかりなものまでさまざま。

それらボディキットの多くは、1970〜1990年代くらいのモデルをモチーフとしたものが中心で、当時そういったモデルに憧れた40〜50代のユーザーがメインターゲットとなっているのは明白だ。


日産のNV200をベースにオリジナルのボディキットを装着したソノバ(写真:アルパインスタイル)

しかし、実際にそういったモデルを購入しているのは、メーカーが想定した40〜50代のユーザーだけではないという。若者の自動車離れが叫ばれるようになって久しいが、意外にも当時を知らない若い世代が心惹かれ、購入にいたるケースも多いというのだ。

そんなボディキットを装着した車両が若者に受けている理由について、アルパインスタイルが新たに2024年1月から立ち上げた「Cal’s Motor(キャルズモーター)」に詳しくうかがった。


スズキのジムニーシエラをベースにしたベアス プラス(写真:アルパインスタイル)

キャルズモーターでは、昨年発表して話題を集めたトヨタの「ハイエース」をベースにした「Carica(カリカ)」と、「ライズ」をベースにした「Havana(ハバナ)」に続き、今年は「NV200」をベースにした「Sonova(ソノバ)」と「ジムニー/ジムニーシエラ」をベースにした「Beas/Beas+(ベアス/ベアスプラス)」の2車種を加え、レトロスタイルのボディキットをまとった4車種を展開している。

イベント出展で若者の目に留まるように


メッキパーツを使い、時代を超えたスタイルに仕上げたソノバのリアビュー(写真:アルパインスタイル)

同社の西田 敬さんいわく、これらの車両は往年のカリフォルニアスタイルをモチーフとしており、1990年代に人気を博したシボレー「アストロ」や「トーラスワゴン」などに乗っていたり、当時憧れていたりしたユーザーをターゲットにしたものということで、メッキのバンパーやグリルのほか、ディッシュホイールにホワイトリボンタイヤの組み合わせや、ポップなカラーの2トーンなどは当時のそれらの車両に乗っていたユーザーが憧れていた往年のモデルを彷彿とさせるものとなっている。

そのため、発表した直後はそういった年齢層のユーザーを中心に問い合わせが多かったというが、オートサロンやオートメッセに出展するなかで、意外にも20代の若いユーザーからの反応が良いことに気づいたという。


角型4灯のヘッドライトも現代のクルマにはないスタイル(写真:アルパインスタイル)

西田さんが言うには、当時を知らない若い世代にとっては往年のスタイルをまとったキャルズモーターの車両たちは、現代のクルマにはない斬新なスタイルと受け取られているようで、メーカーがリリースする量産モデルにはない魅力を感じているということのようなのだ。

また、そんな若いユーザーの中には、たまたま見かけたキャルズモーターの車両に一目惚れし、ローンを組んでその場で契約する人もいたとのこと。

そのユーザーは、もともとイベントにクルマを見に来たのではなく、イベント内で行われるライブが目的で来場したということだが、気づけばライブの時間となっても熱心に商談を継続。同席した親御さんも、ベースが現行車で信頼性が高いことや先進安全装備も備わっている点などもプラスに作用して無事契約にいたったそうだ。

新車にはない魅力を持ったボディキットの存在


ベアスの車両本体価格(税込み)は、5MTで298万円〜、4ATで308万円〜となっている(写真:アルパインスタイル)

ただ、新車をベースにオリジナルの架装を施しているために、最も安価なベアスでも300万円弱スタートと決して安価というワケではない。しかし若いユーザーの中には自分の気に入ったものを購入するのであれば、少々金額が高くてもそれをいとわないと考える層も少なからずいるようで、予想以上に若いユーザーに契約してもらうことができたと西田さんは話す。


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若者のクルマ離れというワードが使われるようになって久しい現代、たしかにクルマ以外にもさまざまな魅力的なガジェットなどが存在し、そちらにお金を使う人が増えているのは間違いないが、クルマを欲しいと思った若い層は今も昔も惜しみなく予算と情熱をつぎ込んでいるようだ。

(小鮒 康一 : フリー(ライ)ター)