(©︎HITSUJI WATABE/CORK)

元日経新聞編集委員の高井宏章さん。高井さんが娘のために書いた『おカネの教室』では、世の中を動かすお金と経済の仕組みの本質をわかりやすく解説しています。今回は『漫画版 おカネの教室』を一部構成・抜粋し、子どもにお金の話をしないほうがよいのか・するほうがよいのか、について解説します。

子どもに金の話はしないほうがいい?

みなさんは「子どものときから、金融教育は必要だ」という意見について、どうお考えですか?

最近、金融教育・金融リテラシーという言葉を聞く機会が増えています。それに対して「お金は汚いもの」「金の話はするな」という反対意見もよく耳にします。確かに、お金の話は生々しく、子どもがお金について触れることによる、デメリットもあるかもしれません。

その一方で、こんな話をご存じでしょうか?

「実は人類は、お金というツールを使い慣れていない。人類のDNAには、まだお金というものとの付き合い方がインストールされていない。だから、学んでおかないと、簡単に借金をしてしまう」

この話について、拙著『漫画版 おカネの教室』のワンシーンを引用しながら説明します。

※外部配信先では漫画を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください





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いかがでしたか? このシーンでも説明されていたとおり、お金は人類にとって新しい概念だからこそ、きちんと学ばないと上手に使えるようにならないのです。

当たり前ですが、お金というものは自然界には存在しません。貨幣の起源は諸説ありますが、生まれてせいぜい数千年しか経っていません。生き物としてのヒトの歴史に比べれば、ほんの最近のことです。

経済や金融、投資の世界では、金利や確率、需要と供給などさまざまな均衡(バランス)といった概念が重要な役割を果たしていますが、そうした考え方の一部は、生き物としてのヒトの本能や直観とは縁遠く、時にそれに反することもあります。

典型的な例が、「投資のリスク」です。投資で成果を上げるためには、それなりのリスクを取る、つまり「損するかもしれない可能性」を考慮しなければなりません。しかし、人間は本能的に損失を嫌います。

人間は本能的に「損失」を嫌う


50%の確率で2万円儲かり、50%の確率で1万円損する。金融広報中央委員会の金融リテラシー調査によると、こうしたケースであっても、4分の3の人は「投資しない」と答えています。ちなみに「投資しない」は男性6割強、女性8割強と、大きな男女差があります。興味深いですね。

損失は同じ金額の利益より2倍も「痛い」という研究もあるほど、人間は損失を嫌うのです。これは生き物としては「とりあえず逃げる」が最適な戦略だった名残だろうと、私は考えています。

お金なら目減りするだけで済むけれども、野生動物が怪我をすれば生存確率は大きく下がる。かなりの確率でエサが手に入るとしても、物音がしたらすぐに逃げるほうが正しい選択だったはずです。

そんな本能を理性で抑えて、現代人は金融や投資において、賢明な判断をしなければならない。しかも、国際比較の各種調査を見ると、日本人の金融リテラシーは欧米諸国と比べてかなり低いのが現状です。「貯蓄から投資」の流れを考えても、公教育も含めて、底上げは急務です。

もっとも私は「金融後進国ニッポン」の未来について楽観的です。金融は苦手ですが、数学や科学のリテラシーでは日本は世界トップクラスです。数字を扱い、合理的に思考する土台はあるのです。「慣れ」と苦手意識の克服が進めば、日本人のお金との付き合い方はぐっとレベルアップするだろうと確信しています。

(高井 宏章 : 経済コラムニスト)