「リブランディング中のワークマン。いろんな声が出ていますが、イメージの変化に消費者の気持ちが追いつくのは、時間がかかるものです(写真:尾形文繁)

作業服大手のチェーン・ワークマンが2月5日、2024年3月期の業績予想を下方修正した。通期の売上高に当たる営業総収入は、1365億7600万円から1349億9300万円に。純利益は、175億6300万円から160億3000万円に、およそ1割ほど引き下げられた格好だ。

近年、ワークマンは専務・土屋哲雄氏の「しない経営」「エクセル経営」という方針で大きく業績を拡大し、インタビューや書籍などでも注目を集めていた。それだけに、今回の下方修正は、話題性をもって報じられたニュースとなった。

下方修正の理由自体は、タイミング的な問題も大きく、業績的には今のところ大きな問題はなさそうだが、筆者が興味深く思ったのは、そのニュースに対するコメントに、なぜか「アンチワークマン」的なものが多いことだ。

実はここには「ワークマン」をめぐるイメージの問題、そしてブランドがイメージを変更していく「リブランディング」の問題が隠れていると筆者は思う。どういうことか。

今回は、このニュースから企業の「イメージ」や「ブランディング」、そして「リブランディング」について考えてみよう。

ズレるワークマンの「イメージ」

ワークマンが業績を下方修正した理由については、暖冬による防寒商品の売れ行きが低調であったことや、キャンプ需要の一巡、継続的な円安に伴う売り上げ原価の影響が指摘されている。

とはいえ、「下方修正」という言葉に引きずられすぎてはいけない。ワークマンのホームページを見ると、基本的には下方修正後の営業利益も、過去4年でほぼ横ばいの数値であり、2019年3月期の営業利益135億円から100億円ほど高い。利益率を見ても、他のアパレル企業などと比較すると依然として高水準にある。つまり、今回の下方修正は、暖冬などによる一時的なものだということだ。

にもかかわらず、こうしたニュースへのコメントを見ると、「ワークマンはオワコン」的な論調のアンチコメントが目立つのが興味深い。その中には「最近のワークマンは女子向け商品などにうつつを抜かして職人が入りづらい」「職人向けという本業を疎かにしている」という、もともとワークマンがターゲットにしていた「職人」のほうを向かなくなったことに対する不満が多い。

多くの論者が指摘している通り、高品質なモノやサービスが溢れている今、企業が商品を売るために留意するのが「イメージ」だ。「ブランドイメージ」と言い換えてもいい。

今回のニュースで明らかになったのは、消費者がワークマンに持つ「イメージ」と、ワークマンが目指そうとしている「イメージ」が離れている、ということだ。ワークマンの問題をあえて指摘するとすれば、そうした「イメージ」の一致がまだ図られていない、ということだ。

「作業服屋」から「アパレル」へ

ワークマンは1980年、群馬で誕生した。その後、全国各地にフランチャイズ店舗を増やし、店舗数は拡大。高品質かつ廉価な作業服で、作業着業界の圧倒的なシェアを勝ち取る。現在の専務である土屋氏が『ワークマン式「しない経営」』で述べる通り、ワークマンは競合他社がほとんどいない「ブルーオーシャン」の作業服業界で安定した経営を続けていたのである。

歌手の吉幾三が「行こう、みんなでワークマン」と朗々と歌いあげるCMは多くの人の脳裏にインプットされ、演歌などを聞く「おじさん」のための作業服店=ワークマン、というイメージが消費者には根強く存在していた。

これが、「本業を疎かにしている」とワークマンを批判する人たちのワークマン・イメージだ。

一方、現実には、ワークマンは、このイメージを脱却しようとしている。

土屋氏が2012年に専務に就任。その4年後の2016年に、それまで扱っていた「作業服」を「高機能ウェア」と読み替え、それまでのワークマンで、一般人の間で売れ筋商品となっていた商品だけを売る新業態「WORKMAN Plus」をショッピングモールに開店させた。自社が消費者に提供する便益を、改めて見つめ直した結果と言えるだろう。

さらに2020年には、女性向けの新業態「WORKMAN GIRL(ワークマン女子)」を開店した。


「WORKMAN GIRL(ワークマン女子)」の様子(編集部撮影)/外部サイトでは画像をすべて見られない場合があります。本サイト(東洋経済オンライン)内でご覧ください

「WORKMAN Plus」は現在、全国に543店舗、「ワークマン女子」は44店舗を展開しているが、いずれにしても「職人向け」の店から「一般人」に向けた、より総合的なアパレル企業としての展開を目指しているといえるだろう。

この理由について、土屋氏は自著で「ワークマンは作業服というブルーオーシャンに過剰適応し、身動きが取れなくなっていた」と述べている(『ワークマン式「しない経営」』)。安定経営のためにそこからの脱却を図ったというわけだ。

ちなみに、「WORKMAN Plus」を出店した2016年には、吉幾三のCM放映も終了させ、より一般人向けになった新しいCMへと衣替えをした。

ワークマンは「作業服屋」から「一般向けアパレル」へと変貌を遂げようとしている。つまり、「リブランディング」を試みているのだ。

もちろん、土屋氏が「WORKMAN Plus」が一般に認知されるには「苦節10年」という期間が必要だろうと予測している通り、1980年代から蓄積されてきたイメージを覆すのは簡単なことではない。そうしたイメージの変化はゆっくりと起こってくるもので、まだ私たちの中には作業服屋としてのワークマンをイメージする人も多い。

今回目立った「本業を疎かにしている」という旨のアンチコメントの多くは、その変化の過程で起こった、いわば成長痛のようなものだろう。会社としても、当然織り込み済みのはず。もちろん、昔からの顧客の心が離れてしまうのはよくないが、だからといってリブランディングを途中で止めるのも本末転倒だ。

リブランディングを成し遂げたユニクロ

では、ワークマンはどのように企業イメージを変化させていけばいいのだろうか。実は、同じアパレル業界でこのイメージの変貌に短期間で成功した事例がある。ユニクロだ。

柳井正率いるファーストリテイリングが運営するアパレルユニクロ」は1984年、広島県に誕生。当初は西日本を中心に拡大していたが、徐々に規模が拡大し、現在では国内外合わせて2434店舗にも及んでいる。

このユニクロの快進撃を支えたのが、その卓越したブランディングだ『ユニクロ 世界一をつかむ経営』で月泉博は、2009年、フリースが流行した頃には「ユニバレ」という言葉が流行したことを挙げ、若者たちの間で着ている服が「ユニ」クロ製だと「バレ」ることへの恥ずかしさがあったという。

このように、ブランドイメージ的には「安かろう悪かろう」のイメージを持たれていたユニクロだが、2022年に実施された第79回JNNデータバンク定例全国調査によれば、現在のユニクロの好感度は全国4位、明らかにこの10年と少しでユニクロのブランドイメージは上がってきた。

ユニクロのリブランディング戦略は、製品の品質向上からロゴまで多岐にわたるが、筆者の考えによれば、その変化を支えたのは、2つの「空間」だと思う。それが、「メディア空間」と「店舗空間」だ。

ユニクロのリブランディングを支えた2つの「空間」

メディア空間とは、CMやネット上での広告をいかにうまく使うのか、ということである。

我々がもっとも企業についてのイメージを持つのが広告だ。ユニクロは、もともと2009年に売り始めたフリースのCMでそのイメージを大きく変えた。月泉によれば、それまでのユニクロは「時々けったい(関西弁で”風変わり”の意)な広告をする、西のほうからやって来た衣料ディスカウンター」というイメージだったのが、この洗練されたCM以後、ユニクロのイメージが変化したという。

その後も同社はウェブとも連動した意欲的な広告を制作しており、国際的な広告祭でも受賞を繰り返すなど、メディア空間におけるブランドイメージ向上を巧妙に成し遂げた。

もう一つの空間は、店舗空間である。「ユニクロ」と聞いてどのような店舗を想像するだろうか。建物全体がガラス張りになっていて、店内の様子がよく見えるユニクロが思い浮かぶ人が多いのではないだろうか。


ユニクロの池袋店(筆者撮影)

実際、銀座や梅田など、ユニクロの旗艦店舗のほとんどはガラス張りになっていて、それ以外の店舗でもガラスを主体とした開放性のある空間が作られている。かつてのユニクロは赤煉瓦の壁面に、三角屋根が特徴的な店舗外観が多く、どちらかといえば庶民的なデザインが主流だった。そうした店舗空間をガラス張りのスタイリッシュな空間に変化させてきたのだ。

こうしたガラス張りの建築は、例えばブランドショップやApple Storeのように、ハイソな印象を私たちに与えるが、そのような空間イメージがユニクロに根付いていることもまた、ユニクロのリブランディングに大きな影響をもたらした。

また、スタイリッシュなデザインということでいえば、その商品においてデザイナーコラボを多く手がけてきたことも、イメージアップにつながっているだろう。この源流をたどると、もともと2006年にデザイナーの佐藤可士和をクリエイティブ・ディレクターに任命したあたりから、そうしたデザイン的な洗練度も増していった。今ではユニクロのデザイナーコラボの熱烈なファンも多い。

ワークマンのリブランディングに必要な要素とは

翻って、ワークマンはどうか。

まず、メディア空間の戦略でいえば、やはり吉幾三のCMの印象はまだまだ強い。代わりに放映が開始された「WORKMAN Plus」のCMをぱっと思い浮かべることのできる人はどれぐらいいるだろうか。


さらに、店舗空間にしても、プレハブ倉庫のような外観の店舗が多く、どこかしら「現場」感がある。「WORKMAN Plus」に変化させた店舗でも、そのままその建物を使っている場合が多い。かつてのワークマンであれば、これがいい方向に働いていただろうが、アパレルを目指す現在ではどうか。

リブランディングは、非常に難しい。特にワークマンのように良くも悪くも根強いイメージを持っていた企業にとってはなおさらだ。そんな難しさを乗り越えて、ワークマンは「アパレル」に変貌することができるのか。カギは、「メディア空間」と「店舗空間」という2つの空間にある。

(谷頭 和希 : チェーンストア研究家・ライター)