滑りやすい路面でこそ真価を発揮する日産の先進技術「e-4ORCE」と「e-POWER」 日産車を雪上で試乗し感じたことは?

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雪上でさまざまな日産車を試乗

 冬になると、自動車メーカーは自動車メディア向けに雪道での試乗会を開催することがあります。その理由は、滑りやすい路面を走ることでクルマの能力が手に取るようにわかるから。いつもとは違う一面が見られるのです。

雪上で試乗した「アリア e-4ORCE」

 雪道は滑りやすく、車両の能力の限界が舗装路とは比べものにならない低い次元で訪れます。そんな環境で車両の挙動をチェックすれば、舗装路では見られないようなそのクルマの素性が明らかになるというわけです。もちろん、純粋に雪道での自社製品の走りの様子を筆者(工藤貴宏)のようなメディア側の人間に知ってほしいというのもあるでしょう。しかし限界性能が露呈する以上、そんな状況でもしっかり走れる(ライバル以上に性能が磨かれている)という自信があってこその雪上試乗会開催なのです。

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 というわけで先日、長野県立科町にある女神湖周辺で行われた、日産が主催する雪上試乗会に出かけてきました。

 日産は例年、雪よりもさらに滑りやすい凍った湖の上(氷上)でメディア向け試乗会を開催していましたが、今年は諸事情(湖の氷のコンディションが整わなかったこと)により雪上へシフト。そのおかげで、氷上よりもリアルワールドに近い雪上での試乗がかなったというわけです。

 ちなみに試乗車はいずれもスタッドレスタイヤを装着している以外は、市販車そのままの状態。まずは「SERENA e-POWER(セレナ イーパワー)」で白銀の世界へ出発しました。

さっそく「セレナe-POWER」で白銀の世界へ

 e-POWERとは「シリーズ式ハイブリッド」の日産の呼び名。シリーズハイブリッドはエンジンで発電した電気を使ってモーターを回して駆動力とする仕掛けで、エンジンは直接的な駆動力を生むことなく発電機としてのみ機能します。

 そんなハイブリッドを搭載するセレナe-POWERは雪道でいったいどんな走りをするのでしょうか?

「セレナ」はFFだが、滑りやすい路面でアクセルを強く踏み込んでもホイールスピンすることなくスムーズに発進する

 正直に告白すると、滑りやすい雪道でのe-POWERのメリットは発進から思わぬ形で実感できました。滑りやすい路面でアクセルを強く踏み込んで発進しても、スルスルとホイールスピン(タイヤの空転)の片りんも見せることなくスムーズに発進&加速するからです。このスムーズさは想定外で、あまりのトラクションのよさに「もしかして4WDなのか?」と思ったのはここだけの秘密にしておきましょう(セレナe-POWERは現時点ではFFのみで4WDは販売されていません)。

 どうして滑りやすい路面でもスムーズに発進できるのか? その答えは、試しにスタビリティコントロール(電子制御でスリップを防ぐシステム)をオフにしてみたらわかりました。オフにしてアクセルを踏み込んで発進すると一般的なエンジン駆動のFF車と同様に盛大なホイールスピンが発生し、クルマは思うように前へ進んでくれません。また、発進してもその後の加速ではハンドルが右に左に振られるからそれを抑え込むのが大変。いかに電子制御の効果が高いかを感じる結果となるのです。

 何を隠そう、筆者がスタビリティコントロールをオフにしてタイヤの空転を抑えるべくどれだけ丁寧なアクセル操作をおこなったところで、スタビリティコントロールをオンにした状態の加速度にはかないませんでした。スリップを緻密に制御するから最大限の効率でパワーを路面へ伝え、運転しやすさが全然違います。結果としてe-POWERはとにかく疲れません。

 とはいえ、一般的なガソリン車やハイブリッドカーだとスタビリティコントロールが介入してもここまでスマートには発進・加速できません。ホイールスピンこそ抑えるものの、効いていることが明らかに伝わってきますよね。しかしe-POWERだとスムーズ過ぎて効いていることがわからないのです。まるで狐(きつね)につままれたような気分ですが、e-POWERは明らかに滑らかさがガソリン車や一般的なハイブリッドカーとは違うことを滑りやすい道で運転した誰もが感じ取れることでしょう。

 実は、それこそが滑りやすい路面におけるe-Powerの大きなメリット。モーターはエンジンに比べるとタイヤの空転を抑え込む制御を綿密におこなうことができます。そのモーターのトルク制御の緻密さは、なんと1万分の1秒というレベル。大切なので繰り返しますが、e-POWERはガソリン駆動車では絶対にまねできないレベルの制御をおこなっているのです。だから滑りやすい路面での発進と加速が空転知らずでスムーズというわけでした。

 一般的なスタビリティコントロールは、タイヤが数回空転してから制御が入ります。いっぽうe-POWERだとタイヤが4分の1ほど空転すれば制御が入るので、ドライバーはタイヤの空転を感じないというわけです。

 ただ、そんなe-POWERでも絶対的なグリップはガソリン車と変わらないので、上り坂での発進などはFFだと限界があります。ときどき雪道を走る程度ならFF車でも「意外とイケる」のですが、本格的な降雪地域だとやはり4WDが欲しくなるところ。現在はFFしかないセレナe-POWERですが、4WDの登場に期待したいところですね。

エクストレイルとアリアに乗って感じた「e-4ORCE」のすごさ

 さて、実は日産には「NOTE(ノート)」や「KICKS(キックス)」などe-POWERに4WDを組み合わせたモデルもあり、そのうちシャシー統合制御(前後モーターとブレーキを総合的に制御)するタイプが「e-4ORCE(イーフォース)」と呼ばれます。具体的には「X-TRAIL(エクストレイル)」やEVの「ARIYA(アリア)」が該当。まずはエクストレイルのe-4ORCEに試乗してみました。驚いたのはふたつ。

試乗した「エクストレイル AUTECH e-4ORCE」は「日産モータースポーツ&カスタマイズ」がカスタマイズしたモデル

 ひとつは力強くスムーズな発進加速です。e-POWERのFFモデルと同様の制御をおこないつつ4WD化でトラクションが格段に上がっているので、スムーズなのに加えて滑りやすい路面とは思えないほど力強い加速をするのだから驚かずにはいられません。

 もうひとつは旋回性能の高さ。実はFFのe-POWERでもアンダーステアを巧みに抑えるからライントレース性が高いのですが、e-4ORCEは旋回中にも後輪の駆動力を巧みに操るから腕さえあれば「アクセルを踏み込んで曲がっていく」といった挙動を楽しむことまでできます。前後モーターの駆動力配分とブレーキ制御を連携させて、クルマが理想的なコーナリングをするように調教されているというわけですが、旋回中にクルマが外側へふくらむことがなく「素直に曲がる感覚」はなかなかのものでした。

 いっぽうARIYAのe-4ORCEには、さらなるすごさがありました。それは滑りやすい路面での絶対的な加速力です。

 滑りやすい雪道にもかかわらず、コーナーの立ち上がりでアクセルを踏み込むと、タイヤの空転や挙動の乱れなどみじんもなく、驚くほどのスムーズな加速をするのです。いうなれば「涼しい顔をしながらすごいことをやる」といった様相で、綿密なモーター制御のおかげで実現する怒涛(どとう)の加速力にはただただ驚くばかりでした。雪道でも抜群の加速を見せてくれるクルマは他にも存在します。しかし、ここまで安定感にあふれつつ怒涛の加速と両立しているクルマは多くはないでしょう。

 そして今回、e-4ORCEで新しい発見もありました。それが「抜群の楽しさ」です。

 そのハンドリングを確認しようと広い駐車場のような閉じた場所で定常円旋回(ドーナツのように一定の円を回る走り)をおこなってみたところ、思わず表情が緩んでしまうほどの楽しさ。

 どんな様子かといえば、旋回中にアクセルを踏み込むとテールスライドが始まり、アクセル操作でその角度を自在にコントロールできるのです。しかも、基本的にカウンターステアを当てずにスライドコントロールを堪能できるのだから楽しすぎます。

 そんな後輪駆動車的(正確に言うとスピンしにくいので後輪駆動車的な挙動の4WD的)な走りは、タイヤを滑らせる運転の楽しさを知っているドライバーにとってはたまらないもの。安定性だけを求めるのであればこの能力は必要ありませんが、それ以上の「プラスα」となる操る歓(よろこ)びをしっかり盛り込んでいることに、クルマを開発した人たちの「運転が楽しいクルマをつくろう」という心意気を感じました。

 ちなみに後輪駆動車的な挙動は、ハンドル角度、ヨーの大きさ、アクセルの踏み込み量などから「ドライバーが積極的にドリフト状態を楽しもうとしている」と車両が判断すると、後輪へより多くのトルクを振り分ける制御となっているそうです。

雪上で「フェアレディZ」と「GT-R」に乗り感じた“運転の楽しさ”と“コントロール性の良さ”

 ところで、日産には「FAIRLADY Z(フェアレディ ゼット)」や「GT-R(ジーティーアール)」といったモーターを組み込まないトラディショナルなスポーツカーも用意されています。今回は、日産を代表するそんな2台でも雪上走行を試してみました。

フェアレディZ」は、スタビリティコントロールをオフにすると、後輪駆動車らしくテールスライドを楽しめる

 まずフェアレディZは、スタビリティコントロールをオフにして走ると、絵にかいたような後輪駆動車そのもの。ラフにアクセルを操作すると簡単に挙動が乱れ、LSD装着かつ405psというパワーもあってまるで暴れ馬です。しかし、アクセル操作を丁寧におこないつつ基本に忠実な運転をすると、後輪駆動車らしくテールスライドを簡単に楽しめ、かつてシルビアに乗っていた筆者からすると懐かしさを味わうことができました。ある意味「初心者には難しいけれど、運転スキルがあればとっても楽しい」という玄人向けの味付け(スタビリティコントロールをオンにすればだれでも簡単に運転できます)。もうちょっと軽ければ雪道をもっと堪能できるのに…と思ったのはここだけの話です(笑)。

 そしてGT-Rは、コントロール性の良さを実感。570psというとんでもないパワーを秘めつつも、滑りやすい路面でもアクセルを踏み込みすぎなければ“じゃじゃ馬”にならず、性能のいい4WDの効果もあってしっかりと曲がっていく姿に感動しました。また、旋回中にアクセルを多めに踏むとテールスライドし、雪道でもスライドコントロールを楽しめるので、GT-Rが道を選ばずドライビングプレジャーを満喫できることを実感しました。

クルマが運転をサポートしつつも「運転する歓び」はしっかりと感じられる

 今回、日産車を滑りやすい路面で試乗してみて、e-POWERの発進のスムーズさと加速力の高さ、e-4ORCEの旋回性能とトラクション能力の高さ、そしてドリフト状態での楽しさとコントロール性の高さなどさまざまな優れた特性を知ることができました。

雪上試乗中の筆者(工藤貴宏)

 しかし、個人的にもっとも印象に残ったのはどのクルマにも「運転する歓び」がしっかりとあることです。昨今は「いかに楽に運転するか」が注目されがちですが、クルマ好きとしてはやっぱり雪道も楽しく走れることが大事だな、と日産車で雪道を走ってみて、改めて思ったのでした。

[Photo:土屋勇人、日産自動車