ウェンディーズ・ファーストキッチンはセット価格が2000円以上する高級バーガーをなぜ発売するのか。写真はウェンディーズ・ファーストキッチン六本木店(撮影:尾形文繁)

秋冬は期間限定バーガーとして、キノコ(風味)を使ったバーガーが出回る。2023年も以下の通りとなった。

【フレッシュネスバーガー】生どんこ椎茸の黒酢あんバーガー、マッシュルームチーズバーガー(各830円・9月6日〜10月17日)
【バーガーキング】マッシュルームワッパー(790円・10月16日〜)、マッシュルームワッパー冬辛(790円・12月1日〜)
【ウェンディーズ・ファーストキッチン】マッシュルームメルトバーガー(750円・11月22日〜)
【モスバーガー】一頭飼い 黒毛和牛バーガー シャリアピンソース 〜トリュフ風味〜(860円・11月15日〜12月下旬)

キノコは旬の味覚として魅力的であるばかりでなく、野菜でヘルシーなのに、濃厚な味わいや香り、独特の歯応えがガツンと食欲に訴える素材だ。バーガーの主役であるビーフパテやチーズとの相性もいい。応用性が高いので、同じ素材を使っても、それぞれのチェーンの個性がわかる商品となる。

インバウンドを視野に入れた高価格帯バーガー

中でもウェンディーズ・ファーストキッチンは、マッシュルームメルトバーガーを発展させた高価格帯バーガー「トリュフ&マッシュルームメルトバーガーダブル」(以下トリュフバーガー)Lセット価格2350円などを11月9日に発売。

インバウンドを視野に入れた「二極化戦略」の一翼を担う商品として期待をかけている。


ウェンディーズ・ファーストキッチンが2023年11月に新発売した「トリュフ&マッシュルームメルトバーガーダブル」(Lセット価格2350円)。人気のマッシュルームに、トリュフをダブル遣いした、味も値段もリッチな商品(撮影:尾形文繁)

同商品は、マッシュルームメルトバーガーをベースに、パテをダブルにしたうえ、刻んだ黒トリュフソースと白トリュフオイルと、こちらもダブル遣いでトリュフらしいぜいたくな香りを強調したバーガー。

パテをチキンフィレに変えた「トリュフ&マッシュルームメルトチキンフィレバーガーダブル」(Lセット価格2050円)と2種類を、新宿南口店、六本木店など東京・大阪・京都の12店限定で発売した。


トリュフバーガー開発のヒントとともなったのが、秋冬の定番商品マッシュルームメルトバーガー(750円)。プラス440円のドリンクとウェンディーズチリのセットで注文されることも多いとか(撮影:尾形文繁)

ウェンディーズ・ファーストキッチンのマッシュルームメルトバーガーはもともとアメリカのレシピで、日本では2015年に発売。その名のとおり、とろけるような味と食感が人気で、この商品の販売期間における全客数の、およそ1割が購入する冬場の定番となっている。

新たなトリュフバーガーでは、たっぷりのチーズとマッシュルームに、さらにトリュフが加わることで濃厚さが増している。嗅覚から感じる濃厚さなので、しつこくなく、奥行きが出た感じだろうか。トリュフソースに加えてトリュフオイルを使ったことで、味と香りが長持ちするという。

実際、購入後1時間かけて持ち帰ったが、トリュフの香りは梱包していても電車内で周囲の目が気になるほど。帰宅後に食するまで持続していた。

なぜLセット一択なのか

なお、ビーフパテとチキンフィレでは、揚げてあるチキンのほうがより食べ応えがある。もともとダブルバーガーにLサイズのポテトの組み合わせなので、1人で全部食べ切ると相当お腹がいっぱいになる。

ゆえに気になるのが「なぜLセット一択なのか」という点だ。

これには今回発売された商品の辿ってきた紆余曲折が関係している。

開発のきっかけとなったのは、コロナ明け、増加するインバウンドに向けたディナータイム商品だったそうだ。

とくにインバウンドターゲットの商品開発を進めたわけについて、ウェンディーズ・ジャパン/ファーストキッチン代表取締役社長の紫関修氏は次のように説明する。

「2023年のゴールデンウィーク明けからインバウンドが増加し、既存店売り上げも、過去最高の2019年比よりはるかに上がった。とくにインバウンドの需要が高まるのがディナー時間帯と深夜だった。旅行中だと生活時間がいつもと違うためか、夜10時頃にお腹を空かしてフラフラと出てくる人がいる。宿泊先近辺にやっている店が少なく、また当社のようなチェーンには安心感もあるということで、来店が増えたと考えられる」(紫関氏)

同チェーンではコロナ禍中はほとんどの店で閉店時間を早めた。食生活が変わり、夜間、飲み歩く人が減ったということから、今もそのままになっている店舗も多い。東京、大阪、京都などの一部店舗でのみ、夜間や深夜帯の営業を復活させているそうだ。

「われわれにとっては意外な感じもあるが、外国人には旅行中でも(おなじみの味である)バーガーを食べたがる人は多い。しかも、深夜でもガッツリ食べる。そうしたニーズに向けて商品開発を進めた」(紫関氏)

トリュフバーガー開発までの道のり

トリュフバーガー開発までには、3回の紆余曲折がある。

前身ならぬいわば「先祖」のような商品が、2023年4月に発売された「ウェンディーズバーガーUSA 」のダブルorトリプルとLポテト、ペプシorビールのセット(ダブルの料金でペプシセット1410円、クラフトビールセット1750円)。ところが売れ行きが思わしくなく、6月に、ビールとのセットを廃止、ウェンディーズバーガーUSAのシングル、スパイシーチキンフィレバーガーUSAをラインナップに加えた。いずれも、インバウンドの利用率が高い12店舗に限っての販売だ。

しかしここまで業績としてはパッとしなかった。

成功と言える売り上げを得られたのが、第3弾の「ステーキハウスチーズバーガーダブル」とLポテト、Lペプシのセット。1650円という高価格だったが、想定を10%上回る実績で販売できた。

「高価格帯バーガーは需要がある」と確信した紫関氏。「ダブルバーガー、Lサイズポテト、Lペプシ」という条件を踏襲したうえで、まったく新しい商品として開発されたのがトリュフバーガーだったわけだ。

売れ行きのほどはどうなのだろうか。

マーケティング部部長の戸田祐介氏によると、ビーフ、チキンフィレを合わせて平均で1日に10セット。売り上げのよい店で日に20セットという実績だそう。これは、ステーキハウスのセットの約1.4倍の売れ行きで、想定を約8%上回るという。

「感触としては、想定より少しいい、という程度。しかし、発売後勢いが落ちていないところに期待が持てる」(戸田氏)

インバウンドだけでなく日本人にも支持され、しかも評価が持続しているとみられる。

実績を受け、12月7日から販売店舗を14店舗拡大し、拡大店舗については単品売りも開始。さらに2024年1月11日からは、シングルバーガー(単品で1300円、チキンフィレは1000円)の取り扱いも始めた。


ウェンディーズ・ファーストキッチン六本木店の店内。ウッディ調のしつらえに、壁にはロゴを大きく配し、アメリカの雰囲気を演出(撮影:尾形文繁)

大ヒットではないが、まずまずの成功と捉えているようだ。まずインバウンドにターゲットを絞り、思い切った高価格帯商品としたこと、海外でも日本でも評価の高い、マッシュルームメルトバーガーを下敷きに開発したことが成功要因だったのではないだろうか。


「ハレ」のメニューであるトリュフバーガーに対し、日常のランチや軽食需要を狙ったのがグッドプライスセット。Jr.てりやきバーガーにドリンク、ポテトのセットは560円(撮影:尾形文繁)

日常のランチや軽食に「グッドプライスセット」

上記、インバウンド向け商品が好調な同社ではこれに加え、日常のランチや軽食に利用できる「グッドプライスセット」を強化した二極化戦略を展開していくという。

2021年12月から全国販売されているグッドプライスセットは、ジュニアサイズのバーガーにポテト、ドリンクを組み合わせたセットで、560円からという手頃な価格が特徴だ。


グッドプライスセットの新メニュー、クリスピーチキンバーガー(560円)。500円台だが厚みもしっかりあり、コスパのよい商品。ビーフ、チキン、ポテトなどはウェンディーズグループで仕入れ、コストダウンを図っている。なお、バンズはファーストキッチンと同じものを使用(撮影:尾形文繁)

「500円台だからといって安っぽく見えないよう、商品開発には苦労している」と戸田氏。ウェンディーズ・ファーストキッチンは63店舗と、3000店舗に迫るマクドナルドや1300店舗のモスバーガーに比べれば中規模のチェーン。「規模の経済」によりコストダウンするのが難しい。


大画面のタッチパネルを設置し、外国人にも注文しやすくしている。最近のバーガーチェーンではこうしたスタイルが増えているようだ(写真:ウェンディーズ・ジャパン/ファーストキッチン)

オペレーションの工夫等でコストダウンを図るが、物価の高騰による原価率の上昇になかなか追いつけないのが現状だそうだ。

ただし、ウェンディーズグループとしてグローバルに考えれば有利な面もある。メイン素材であるビーフや、ポテト、チキンついては、グループで仕入れてコストダウンを図っているそうだ。

「インバウンドが復活したとは言っても、2019年までとは市場が異なる。コロナを機に需要の中心が郊外に移った。当社は都心の好立地の出店が多く、観光が復活した今は好調だが、今後は郊外にも広げていく必要がある」(紫関氏)

グッドプライスセットは、郊外店舗における戦略の担い手となる。ただし、高価格帯バーガー→インバウンド、グッドプライスセット→日本人という図式はわかりやすいが、そういうわけではない。トリュフバーガーも後に店舗を広げたり、単品やシングルタイプを発売している。まずは特徴のはっきりした商品を出し、評価を見極めたところでより求めやすい形にして、展開を広げたわけだ。


(写真右)ウェンディーズ・ジャパン/ファーストキッチン代表取締役社長の紫関修氏。日本マクドナルドでの勤務経験や、ヴィクトリア取締役、フレッシュネス代表取締役社長等各役職を経て、2016年にファーストキッチン代表取締役兼ウェンディーズ・ジャパン代表取締役社長に就任。(写真左)マーケティング部部長の戸田祐介氏。物価高による原価率の上昇の中、コストパフォーマンスがよい魅力的な商品の開発が大きな課題だという(撮影:尾形文繁)

「ライバルはグルメバーガー。都会にはグルメバーガーの個人店はたくさんあるが、地方都市には少ない。チェーンのブランドとして、どのようにバリューを感じてもらえるかがポイントだ」(紫関氏)

「普段使いのお客様にグッドプライスセットで興味喚起し、今回のトリュフバーガーのような高価格帯バーガーで『次回も来てみたい』と思っていただく、店内循環を起こしていければと思っている」(戸田氏)

FC店を含めた郊外店舗拡大には、2022年9月にオープンしたトレーラー型店舗も布石となった。

「今は都心のビジネス立地や観光立地の調子がよく、トレーラー型を出した当時とは市場が変わってきている。そしてFCのオーナーはコロナ禍の影響からまだ抜け切れておらず、再投資まで時間がかかるだろう。しかしトレーラー型は今後も伸びる可能性がある。実店舗があるのでイメージしやすく、FCオーナーからの引き合いもすでにある」(紫関氏)

短期的な目標は、大阪・関西万博開催が予定されている2025年だ。その年の飛躍的な成長に向けて、商品、店舗展開ともに力を入れていきたいという。

高価格帯のセットは今後も期間限定商品として発売を予定している。トリュフバーガーに並ぶ魅力ある商品を出せるかどうか。本当の勝負はこれからにかかっているようだ。

(圓岡 志麻 : フリーライター)