市販車をベースにしたカスタムカーから市販予定車、コンセプトカーまで、さまざまなクルマが展示される東京オートサロンの会場内(筆者撮影)

カスタマイズカーの大規模展示会「東京オートサロン2024」が、2024年1月12日(金)〜14日(日)の3日間、千葉県・幕張メッセで開催された。例年1月に開催されるこのショーは、コロナ禍前で来場者30万人以上を記録した国内最大級のカーイベントだ。42回目を迎える今回も、以前ほどではないにしろ、3日間で23万人を超えるクルマ愛好家が集まった。

東京オートサロンは、もともとアフターパーツメーカーが中心となり、新作のカスタマイズカーやパーツなどを展示するイベントだ。だが、近年は、多くの来場者が集まることで、国内の主要な自動車メーカーも出展。メーカーにとって直接の顧客といえるクルマ好きへ自社製品をアピールしようと、初公開の新型車やコンセプトカー、人気モデルのカスタマイズ提案モデルなどを展示するようになっている。展示車両には、近日発売が期待できる市販前提モデルも数多く登場することから、日本はもちろん、世界中から多くの注目が集まることでも知られている。

ここでは、そんな東京オートサロンで、国内の自動車メーカーが展示した車両のなかから、とくに注目のモデルをピックアップ。「スポーツスタイル」「アウトドアスタイル」「BEV(バッテリーEV)」と、各車両をスタイル別に紹介する。

パート1:走行性能で魅せる「スポーツスタイル」


ホンダの「シビック・タイプR-GTコンセプト 2023 開発車 Ver」のようなレース車両も多く展示されていた(筆者撮影)

東京オートサロンの来場者には、レースなどのモータースポーツ愛好家も多い。おのずと、出展車両もスポーティなスタイルを持つクルマの比重が高い傾向だ。そこで、まずはスポーツスタイルの注目車両を紹介していく。


マイナーチェンジを実施し、新型になったGRヤリス(筆者撮影)

まず注目したのが、トヨタ自動車(以下、トヨタ)のスポーツブランド「トヨタ・ガズーレーシング(TOYOTA GAZOO Racing)」が出展した、世界初公開となるマイナーチェンジ版の「GRヤリス」だ。

コンパクトカーの「ヤリス」をベースに、世界最高峰のラリー競技「WRC」など、数々のレースから培った技術を投入したスポーツモデルがGRヤリス。会場には、最上級グレードの「RZハイパフォーマンス」を展示。主な特徴は、新開発の8速AT(オートマチック・トランスミッション)機構「GR-DAT」を採用したことだ。

ラリー競技などでも開発を行ったというこの機構は、スポーツ走行用に最適化したAT制御ソフトウェアを搭載。ドライバーが行うブレーキやアクセルの操作を細かく感知することで、プロドライバーのシフト操作に近いギア選択を自動で行うという。


新型GRヤリスのエンジン(筆者撮影)

また、GRヤリスの1.6L・直列3気筒ターボエンジン車には(1.5L・直列3気筒エンジン車もある)、従来、6速MT(マニュアル・トランスミッション)を搭載していたが、GR-DATはギアを8速に多段化することで、各ギアでパワーバンドを活かした走りを実現するという。さらに、エンジンは最高出力を200kW(272PS)から224kW(304PS)へ、最大トルクを370N・m(37.7kgf/m)から400N・m(40.8kgf/m)へ向上。

外観は、サイドロアグリルの開口部をより大型化することで、冷却性能もアップする。室内では、操作パネルやディスプレイの位置を変更することで、視認性や操作性も改良しているという。なお、価格などは未発表で、発売は2024年春頃の予定だ。

ホンダはシビック&アコードに注目


シビックをベースにしたシビックRSプロトタイプ(筆者撮影)

一方、本田技研工業(以下、ホンダ)は、5ドアハッチバックモデル「シビック」のスポーティバージョン「シビックRSプロトタイプ」を同じく世界初公開した。

シビックのスポーツ仕様には、2.0L・ターボエンジンを搭載する「シビック タイプR」もあるが、こちらは、スタンダード車の1.5L・エンジン車がベースだ。6速MT(マニュアル・トランスミッション)を搭載し、フロントバンパーには開口部がより広がったエアロ形状のデザインを採用。足まわりでは、サスペンションなどを専用設計することで、スタンダード車以上の爽快な走りを楽しめるという。価格など詳細は未発表で、2024年秋の発売に向けて現在開発中とのことだ。


ホンダ純正アクセサリーでエクステリアをアップデートした新型アコード(筆者撮影)

ホンダでは、ほかにも2024年春に発売予定の新型セダン「アコード」をベースに、純正アクセサリーを装着した「アコードe:HEVスポーツライン」も展示した。11代目となる新型モデルでは、パワートレインに新開発の2モーターハイブリッド機構「スポーツe:HEV」を搭載。2.0Lエンジンとモーターのマッチングで、爽快な走りを実現するという。展示車両では、ブラック塗装のエアロパーツや19インチにサイズアップしたアルミホイールなどを装備。新型アコードが持つスポーティなスタイルを、より一層高めていることがポイントだ。


スバルの特別仕様車「WRX S4 STIスポーツ#」(筆者撮影)

スバルで注目だった出展車両は、スポーツセダン「WRX S4」の特別仕様車「WRX S4 STIスポーツ♯(シャープ)」だ。2.4L直噴ターボエンジンを搭載し、軽快な走りを楽しめるのがWRX S4。「STIスポーツR EX」をベースとする特別仕様車では、スバルのスポーツブランド「STI」が手掛けたパフォーマンスパーツなどを採用していることが特徴だ。

外観には、小型トランクスポイラーやフロントグリルなどを装備。室内には、スエード生地のレカロ製バケットシートなどで、上質感も醸し出す。さらに、足まわりには、タイヤの接地面積を最適化したSTI製フレキシブルパフォーマンスホイールを採用。18インチから19インチへ大径化することで、圧巻のフォルムにも貢献する。なお、この特別仕様車は、500台限定で販売。価格(税込み)は623万7000円で、2024年1月28日までの期間、全国のスバル販売店で抽選エントリーを受け付け中だ。


ロードスターをベースにしたマツダスピリットレーシングRSコンセプト(筆者撮影)

レース専用車ながら、市販を前提としたコンセプトモデルを出展したのがマツダだ。モータースポーツ愛好家向けブランド「マツダスピリットレーシング」からリリース予定の2モデルを展示した。オープンカーの「ロードスター」がベースの「マツダスピリットレーシングRSコンセプト」では、国内初投入となる2.0Lエンジンを搭載するという。


マツダ3をベースにしたマツダスピリットレーシング3コンセプト(筆者撮影)

また、コンパクトハッチバック車の「マツダ3」がベースとなる「マツダスピリットレーシング3コンセプト」も披露。いずれも詳細は未公表だが、マツダ車でモータースポーツを楽しみたいユーザーにとっては、注目のモデルとなりそうだ。

パート2:タフさと遊び心が光る「アウトドアスタイル」

近年のアウトドア・ブームに対応し、キャンプやオフロード走行を楽しめるカスタマイズカーも、各メーカーが数多く展示した。


スズキが出展したスーパーキャリイ・マウンテントレイル(筆者撮影)

まず、スズキで大きな注目を集めたのが、軽トラックの「スーパーキャリイ」をベースにした参考出品車の「スーパーキャリイ・マウンテントレイル」。商用車である軽トラックを、「遊びのクルマ」として楽しむカスタマイズ提案モデルだ。

コンセプトは「山でオフロード走行を堪能したあとに、目的地でクライミングも楽しめるクルマ」。主なカスタマイズは、外装にイエローとブラックの専用カラーを施して、アクティブさを演出。車体や荷台などには、ロールケージを装備したほか、左右のドアを取りはずし、代わりにスチール製のゲートを装着。走りながら自然を感じられる工夫も施している。


スーパーキャリイ・マウンテントレイルのリアビュー(筆者撮影)

フロントフェイスには、パンチングメッシュ風の専用フロントグリル、ガードバンパーやウインチなども装備。足まわりでは、車高をややアップし、ガレ場などでクルマの下まわりがヒットしにくい仕様としている。ホイールは12インチから14インチに大径化し、悪路走行にも対応するブロックパターンのオールテレーンタイヤも装着。加えて、室内には、ハードなオフロード走行でも体をしっかりホールドするバケットタイプのシートを採用。センターモニター代わりのタブレットにも防水タイプを使うなど、各部をアウトドアユースに対応させている。


スズキが展示したスペーシア パパボクキッチン(筆者撮影)

スズキは、ほかにも2023年11月に発売された軽スーパーハイトワゴンの新型「スペーシア」をベースに、親子でキャンプを楽しめる仕様とした「スペーシア パパボクキッチン」も展示した。車体にはアースカラーを採用し、自然に溶け込む雰囲気を演出。


引き出し式のキッチンも備えている(筆者撮影)

荷室には、引き出し式で外に取り出すことのできるキッチンも装備し、キャンプ飯などを楽しめる工夫も施している。装備的には必要最低限だが、父と小さな子どもがアウトドアを存分に楽しめる軽キャンパー的な使い方には最適。今回は、参考出品だが、ぜひとも市販化を検討してほしい1台だった。

日産は災害支援車両を出展


キャラバンをベースにした「ディザスター サポート モバイル-Hub」(筆者撮影)

日産自動車(以下、日産)は、緊急・災害時の防災拠点として使える支援車両「ディザスター サポート モバイル-Hub」を参考出品。商用ワンボックスの「キャラバン」をベースに、ガードバンパーやオフロード用タイヤなどを装備し、ハードな悪路走行にも対応。


車体サイドに備えられたポータブルバッテリー from LEAF(筆者撮影)

車体サイドには、2023年9月に発売した「ポータブルバッテリー from LEAF」を複数台搭載する。BEVモデル「リーフ」用のリサイクルバッテリーを使った携帯用電源を使い、例えば、被災者がスマートフォンなどの充電に使うことなどを想定する。また、荷室には、救護用ベッドも装備するほか、車体後方には着替えができる個室などに使える多目的ルームも設置可能。2024年元日に能登半島地震が起こった直後だけに、こちらの車両も大きな注目を集めていた。


アウトドアテイスト満点なエクストレイル クローラー コンセプト(筆者撮影)

日産は、ほかにも「エクストレイル クローラー コンセプト」を展示。悪路でも高い走破性を持つSUVモデルの「エクストレイル」をベースに、オフロードテイストをさらに高めたコンセプトカーだ。傾斜がきつく険しい地形をクルマで走破する競技、「ロッククローリング」の世界観を表現したというのがこのモデル。専用のフロントバンパーやヘッドライトまわりには、傷がつきにくく、ザラついた表面となるチッピング塗装も施す。

また、ルーフキャリアには9基のフォグランプも装備し、霧や雨天、吹雪など、悪天候時の視界が悪い状況にも対応する。さらに、車高をリフトアップしているほか、悪路に強いブロックパターンのタイヤなども採用することで、ハードな悪路走行にも対応した仕様となっている。まさに「タフギア」という言葉がぴったり。ワイルドなテイストが満点の参考出品車だ。


ホンダが展示していたWR-Vフィールド エクスプローラー コンセプト(筆者撮影)

ホンダのブースでは、2024年3月22日に発売予定の新型コンパクトSUV「WR-V(ダブリューアールブイ)」をカスタマイズした、「WR-Vフィールド エクスプローラー コンセプト」が展示された。WR-V用の純正アクセサリーをベースに、さらに本格的SUVらしさを表現したのがこの仕様だ。

フロントグリルや前後左右のロアガーニッシュなど、各部にショー用のオリジナルパーツを採用。LEDフォグライトは、フロントバンパー下部左右に装備するほか、フロントのフードとグリルの間にも3基を装備し、さらにオフロード感をアップしている。ほかにも、15インチのブロックパターンタイヤ、ルーフラックなども装備。アウトドアでの走破性や、使い勝手のよさなどを向上させている。

トライトンのカスタム仕様が早くも登場


三菱が展示していたトライトン スノーシュレッダーコンセプト(筆者撮影)

三菱自動車(以下、三菱)のブースでも、2024年2月に発売予定の新型ピックアップトラック「トライトン」のカスタマイズ仕様車が展示された。それが「トライトン スノーシュレッダーコンセプト」と名付けられた参考出品車だ。国内では、2014年に発売された5代目以来、ひさびさの登場となる新型の6代目トライトン。高いオフロード性能と、大きな荷物の積載も可能なベッド(荷台)を持つことで、商用からアウトドア・レジャーまで幅広いニーズに対応し、海外で大きな支持を受けているモデルだ。


荷台にはスノーボードやスノーギアや設置されていた(筆者撮影)

それをベースにしたコンセプトカーでは、雪山でのレジャーを存分に満喫するという、ピックアップトラックならではの新しい使い方を提案していることがポイントだ。ユーザーをスノーボーダーに設定し、荷台に装備したキャリアにはスノーボードも設置。フロント、サイド、リアにはプロテクションバーを装備するほか、17インチの大径ブロックパターンタイヤも採用。さらに、外装には、専用フィルムを貼ったラッピング処理も施し、塗装をはがし、金属がサビたような雰囲気を演出。トライトンが持つタフで屈強なイメージを強調している。

展示車両は、あくまで参考出品車だが、トライトン発売後には、こうした雰囲気のカスタマイズ車が出てきそうなほど、完成度が高かったのは確か。日本では、あまりなじみのないピックアップトラックだが、近年はトヨタの「ハイラックス」が高い人気を誇っている。おそらく、トライトンにも、アウトドア好きを中心に大きな注目が集まることは間違いないだろう。

パート3:電動化が深化「BEV(バッテリーEV)」

今回の東京オートサロンには、近年普及が進むBEV(バッテリーEV)の特別仕様車やカスタマイズモデルも発表された。


RZ450eの特別仕様車となるFスポーツ パフォーマンス(筆者撮影)

まず、レクサスのBEV専用SUVモデル「RZ450e」の特別仕様車「Fスポーツ パフォーマンス」だ。2023年3月に発売されたRZ450eは、独自の4輪駆動システム「ダイレクト4」を搭載したAWD(4輪駆動)車。BEV専用プラットフォームの採用などにより、高い運動性能と494kmもの航続距離を実現する。

その特別仕様車となるのが、RZ450e Fスポーツ パフォーマンス。ちなみに、Fスポーツ パフォーマンスとは、レクサス車のスポーツグレードに冠される称号。このモデルにも、スポーティな走りを具現化するさまざまな装備が施されている。


Fスポーツ パフォーマンスのリアビュー(筆者撮影)

開発には、エアレース・パイロットの室屋義秀選手や、レーシングドライバーの佐々木雅弘選手なども参加。とくに室屋選手との技術交流から生まれたカーボンウイングなど17点の専用エアロパーツは、航空機に用いられている空力技術も応用し、高い空力特性を持つという。足まわりでは、21インチアルミホイールを装着し、コイルスプリングやショックアブソーバーを専用チューニング。プロドライバーの佐々木選手が徹底的にテスト走行を繰り返し、妥協のない走りを実現している。

車体色には、光と影が織りなす静寂の銀世界から着想を得たツヤ消しホワイトの「HAKUGIN(白銀)」とブラックをマッチング。ブルーのアクセントカラーも入れることで、BEVのクリーンさとスポーティさを演出する。なお、この特別仕様車は100台限定で、価格(税込み)は1180万円。全国のレクサス店で、2024年2月19日まで抽選申し込みを受け付け中だ。

ニスモが提案するアリアのカスタムモデル


ニスモの手によってカスタマイズされた「アリア ニスモ」(筆者撮影)

一方、日産は、クロスオーバータイプのBEV「アリア」のカスタマイズ仕様「アリア ニスモ」を発表した。ニスモとは、モータースポーツで培った技術などを投入したハイパフォーマンスパーツや、コンプリートカーなどを手掛ける日産のスポーツブランドのこと。昔からのモータースポーツ愛好家などには、おなじみのネーミングだ。

EV系ニスモのフラッグシップモデルとなるのが今回発表されたアリア ニスモだ。ベースモデルは、独自の4輪制御技術を投入したイーフォース(e-4ORCE)仕様車で、最高出力を約10%アップさせたほか、専用の加速チューニングも実施。アリアの動力性能をさらに引き上げ、気持ちのよい加速を実現するという。また、専用のニスモ・ドライビングモードも採用。レスポンスを最大化し、EVならではの加速力をフルに発揮するためのチューニングが施されている。


アリア ニスモのフロントフェイス(筆者撮影)

足まわりには、専用タイヤと軽量かつ高剛性な20インチアルミホイールを装着。シャシーを構成する各部品にも、専用のモディファイを施すことで、高い安定性と軽快な走りを実現する。ラインナップには、バッテリー総電力量が91kWhのB9と、66kWhのB6を用意。価格などは未公表で、2024年春の発売を予定している。

番外編:トヨタ・ガズーレーシング「モリゾウの愛車」


トヨタ・ガズーレーシングのメインステージに並べられたモリゾウの愛車たち(筆者撮影)

最後は番外編。今回のトヨタ・ガズーレーシングでは、メインステージに意外な車両を並べていた。それは、モリゾウこと、トヨタの代表取締役会長である豊田章男氏の愛車6台だ。ちなみに、モリゾウとは、豊田氏がレース参戦時などで使うドライバーネームのこと。トヨタの経営者である前に、「一人のクルマ好き」として語る場合などにも、よく使われる愛称だ。


センチュリーGRMN(筆者撮影)

「モリゾウガレージ(MORIZO Garage)」と名付けられたメインステージに並べられたのは、まず、高級車の「センチュリー」。2023年9月に発表されたクロスオーバータイプの新型だ。


iQ GRMN Supercharger(筆者撮影)

また、かつてトヨタが販売したコンパクトカーの「iQ」もある。しかも、これら2台には、スポーツバージョン「GRMN」の名前がつけられている。スタンダードには設定がないモリゾウ仕様車だ。詳細は未発表だが、自らレース参戦も行う豊田氏らしく、愛車をスポーティな仕様にカスタマイズしているようだ。

トヨタ車以外も展示と異例づくし


スポーツカーの中にヤマハの原付スクーター「ビーノ」も展示されていた(筆者撮影)

展示車は、ほかにも「カローラ」のスポーティ仕様「GRカローラ」。これも、スポーツカー好きの定番車種だといえる。また、興味深かったのが、スズキの軽4WD車「ジムニー」や、ヤマハの原付スクーター「ビーノ」といった他社のモデルもあったことだ。とくにビーノに乗る豊田氏の姿を想像してみると、ちょっと面白い。きっと、世界的な自動車メーカーであるトヨタの会長が、まさか原付スクーターを運転しているとは誰も思わないだろう。ある意味、完璧なお忍び行動ができそうだ。


東京オートサロンで初披露となったLBXモリゾウRRコンセプト(筆者撮影)

そして、6台目は、レクサスのコンパクトSUV「LBX」をベースとした「LBXモリゾウRRコンセプト」。この車両だけは、豊田氏がテストなども手掛けたコンセプトカーだ。主な変更点は、エンジンを1.5L直列3気筒から、1.6L直列3気筒インタークーラーターボ(G16E-GTS)に変更。ターボエンジンとフルタイムAWDのマッチングなどで、高揚感を味わえるハイパフォーマンスモデルを目指したという。また、外装は、フロントのユニファイドスピンドルにメッキモールを装備。シートベルトに豊田氏のシグネチャーカラーであるイエローも採用。随所にモリゾウ・イズムを投入しているという。

このように、今回のトヨタ・ガズーレーシングのメインステージは、かなり異例だったといえる。通常、カーイベントのメインステージには、各メーカーが将来的な販売を想定した車両、また自社の最新技術などをアピールするコンセプトカーを展示することが多いからだ。トヨタによれば、その趣旨は、自他共に認める「クルマ好き」豊田氏のある想いからだという。このイベントに集まる数十万人ものクルマ好きへ、自らの愛車を披露することで、「(クルマに関する想いを共に)もっと熱くしたい、未来を一緒に作っていきたい」ということをアピールしたかったのだという。

エンジン開発にも積極的なトヨタ


「モリゾウから新年のご挨拶」として行われたプレスカンファレンス(写真:トヨタ自動車)

なお、今回実施されたトヨタ・ガズーレーシングのプレスカンファレンスも、担当したのは豊田氏だ。通常は、展示車両やブースコンセプトなどを紹介するのが一般的。だが、豊田氏は、「モリゾウから新年のご挨拶」と題し、クルマ好きに向けた自らの熱い想いなどを語った。とくに興味深かったのは、トヨタが、エンジン開発の新規プロジェクトを立ち上げたと発表したことだ。現在、カーボンニュートラル実現に向けた方策として、世界的にクルマのBEV化が進んでいる。だが、果たしてBEV一辺倒でいいのか。100年以上の歴史を持つ内燃機関、エンジンにも「まだまだ役割がある」と豊田氏は語る。


プレスカンファレンスに登壇した豊田章男氏(写真:トヨタ自動車)


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

トヨタは、ここ数年、水素を燃料とする車両でレースに出場するなど、従来のエンジン技術を活かしたカーボンニュートラル車の開発にも積極的だ。こうしたアクションも、豊田氏のコメントを裏づける。「動力は何でもいい。真実はいつもひとつ。敵は炭素ということだけ」と語る豊田氏。

BEVはもちろん必要だが、それ以外の選択肢も選べる未来を、クルマが好きな仲間たちと築きたい。豊田氏のこうした想いが、今後のクルマ社会にどんな変革をもたらし、これからどんなクルマが生まれてくるのか。「もう一人のクルマ好き」である筆者にとっても、非常に興味深い。

(平塚 直樹 : ライター&エディター)