イタリアのヴァレルンガサーキットで開催されたランボルギーニ「レヴエルト」の国際試乗会。夢中になって走りに没頭してしまった(写真:Automobili Lamborghini)

ランボルギーニと聞いて多くの人が思い出すクルマと言えば、やはり「カウンタック」だろう。

イタリア語での正確な発音に近いのは“クンタッチ”だが、1970年代の日本に紹介されたときにこう呼ばれ、フェラーリ「512BB」と並んで、いわゆるスーパーカーブームの立役者となった珠玉の存在である。

クンタッチの存在は、このブランドにとって誇るべき伝統なのか、それとも呪縛なのか。おそらくは、その両方の要素を併せ持っていると言うべきなのだろう。以後のランボルギーニは、誰の目にもこのクンタッチの後継だと明確にわかるモデルを、旗艦としてラインナップしてきた。

「クンタッチ」から続くランボルギーニの血脈

「ディアブロ」「ムルシエラゴ」、そして「アヴェンタドール」。いずれもフードからフロントノーズまで段差なくフラットな、典型的な楔形のフォルムに、上方に跳ね上がるように開くシザーズドアを備え、2人乗りのキャビンの背後にV型12気筒エンジンを搭載するミッドシップレイアウトを、頑なに守り続けてきたのだ。

そんなランボルギーニの最新のフラッグシップとして登場した「レヴエルト」。一見したところでは、あるいはこれまでのクンタッチ以来の流れを汲むモデルのように思えるが、実際にはそうではなく、時代の変化、社会の要請に応えるために大幅なアップグレードを果たしている。これからの時代にも、こうしたクルマがしっかり生き残っていけるように。刺激的な存在であり続けるために。


一見、クンタッチ以来の流れを汲むモデルのように思えるが、時代の変化に応えるために大幅なアップグレードを果たしている(写真:Automobili Lamborghini)


V型12気筒6.5リッター自然吸気エンジンに、3基の電気モーターを組み合わせたプラグインハイブリッドを採用している(写真:Automobili Lamborghini)

最大のトピックが、いよいよの電動化である。レヴエルトはHPEV(ハイパフォーマンスEV)と名付けられたプラグインハイブリッド採用。V型12気筒6.5リッター自然吸気エンジンに、フロント左右に1基ずつ、リアに1基の計3基の電気モーターを組み合わせている。

発進や加速のアシストなど、内燃エンジンにとって負荷が大きく、つまり多くのCO₂を排出する場面を電気モーターに任せることによって、先代アヴェンタドールの最終型である「ウルティマエ」に対して、CO₂排出量を実に30%も削減してみせた。伝統のV12ユニットを、電気の力で生き長らえさせたわけである。

真価はそれだけではない。このエンジンと3基の電気モーターの合計最高出力は実に1015HPにも達する。おかげで静止状態から時速100kmに到達するまでには、たった2.5秒しか要せず、最高速度は350km/hに達する。

しかも、これらの駆動力を緻密に制御することによって、運動性能も飛躍的に高めているのが、このシステムの特徴だ。わかりやすく言えば、たとえば右コーナーでは左前輪に多くの駆動力を与えることで、車体に右向きの回転運動を加えて曲がりやすくするといった制御である。

パワートレインの構成は大きく変化

マニアックな話になるが、この電動化によって大きく変化したのがパワートレインの構成だ。

クンタッチ以来、使われてきたのは前後逆向きに搭載されたエンジンの出力を一旦前方に取り出し、運転席と助手席の間のセンタートンネル内に置かれたトランスミッションで折り返すかたちで後輪に伝えるレイアウト。これは全長の嵩張るV12エンジンを使いながら、車体を可能な限りコンパクトにとどめるために考えられたアイディアだ。

それがレヴエルトでは、エンジンが通常の向きに積まれ、電気モーターを内蔵したトランスミッションはその後ろに置かれる、定石通りの配置とされた。代わりにセンタートンネルに収められたのは容量3.8kWhの駆動用リチウムイオンバッテリー。トランスミッションには、材料置換などにより軽量化の余地があるが、リチウムイオンバッテリーは小型化にも軽量化にも限界がある。天秤にかけたうえで、この配置が選ばれたのだろう。


これまでのランボルギーニと異なり、エンジンは通常の向きに積まれ、電気モーターを内蔵したトランスミッションはその後ろに置かれる。センタートンネルにはリチウムイオンバッテリーが搭載される(写真:Automobili Lamborghini)

おかげで全長は前作より170mm近くも伸ばされて、実に4947mmにも達する。そこだけ見ればトヨタ アルファードとほぼ一緒である。

実はこのサイズアップは居住性の改善も、その大きな要因だったという。全長とバランスを取るため全高は24mm高くなっているが、これは背の高いユーザーを快適に座らせるだけでなく、サーキットでのヘルメット装着にまで配慮したものだ。


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また、ホイールベースが80mm伸ばされたことで、足元の余裕が増し、そして何とシートの背後にはゴルフバッグが収まるだけのスペースが確保されている。低いフロントフードの下には機内持ち込みサイズのスーツケース2個の搭載が可能というから、2人での小旅行にも十分対応できるようになった。走ることだけ見据えていた従来とは、大きな違いだ。

興味深いことに、今回の開発テーマのひとつには“アーバナイゼーション”という言葉が挙げられていた。街中ではエンジンを始動させずに走行することもできる電動化、今回初めて搭載された先進の運転支援装備、最新のコネクテッド機能なども含めて、都市化というより、街や社会への受容性を高めたというぐらいに解釈すればいいだろう。


街中ではエンジンを始動させずに走行することもできる(写真:Automobili Lamborghini)

おそらく従来のランボルギーニのイメージとは正反対と言っていいかもしれないが、これもまたブランドをサステイナブルなものにしたいという思いからきたものだろう。

いよいよレヴエルトに試乗

さて、では実際に乗ったレヴエルトはいったいどんなクルマだったのか。イタリアのヴァレルンガサーキットで開催された国際試乗会での印象をお伝えしたい。

走り出す前に、まずデザインに触れておくと、大きくなった車体はそれでも見事にクンタッチから続く未来的、あるいはSF的と評したくなる唯一無二の存在感を醸し出している。室内に乗り込むと、なるほどヘルメットを被っていても圧迫感はなく、運転操作に没頭しやすい。美しいだけでなく視認性に優れたメーター画面の表示、シンプルな操作系もそれに貢献している。

しかし何より感心、感動させられたのは、やはりその走りだ。


V12エンジンに電気モーターが加わったパワーとトルク、意のままに動かすことができるフットワーク。その走りは快感というほかはない(写真:Automobili Lamborghini)

背後で唸るV12ユニットは、いかにも自然吸気らしい繊細なレスポンスと胸のすく伸びの良さを見せる。排気量6.5リッターもある、つまりは大きなサイズのピストンを持つエンジンが9000rpm超まで一気に吹け上がる様は、それだけで感動的だ。

しかも、そこに電気モーターのアシストも加わって、圧倒的なまでのパワーとトルクをあふれさせるのだからたまらない。全能感とでも言いたい、右足ひとつですべてがどうにでもコントロールできる感覚はやみつきになる。

フットワークも、また素晴らしい。4輪は常に路面に吸い付くようにグリップし、ステアリングを切り込めば思い描いた軌跡をそのままたやすくトレースしていくことができる。これだけのサイズの、1015HPという速さを持つクルマを、まさしく意のままに動かすことができるのだから快感というほかない。

望めばテールスライドもたやすい

もちろん、それには各種電子制御、そして3モーターのプラグインハイブリッドのおかげでもあるが、決してクルマに乗せられているという感覚にはならないのがさすがだ。望めばテールスライドを誘発させることだってたやすいから、とにかく夢中になって走りに没頭してしまった。前作アヴェンタドールでは、こうした走りは不可能とは言わないが、相当ハードルが高かったはずである。

クンタッチ以来続くフォルムや、V型12気筒エンジンといった絶対領域を守りながら、実はそれ以外のすべてを完全に刷新して時代が求める価値をしっかり手に入れたレヴエルトの完成度の高さには、見るほどに乗るほどに唸らされるばかりだった。クンタッチから脈々と続くランボルギーニのフラッグシップの歴史が、今後レヴエルトの前後で区切られ語られることになるのではないだろうか。

古くからの信奉者ばかりでなく、新しいファンにもアピールすることは間違いないこのレヴエルト。実際、生産枠はすでに3年先の分まで埋まっているそうだ。


ランボルギーニの新しいファンを獲得することは間違いない(写真:Automobili Lamborghini)

(島下 泰久 : モータージャーナリスト)