「財務力が強い上場企業ランキング」トップ300

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トップとなった東京エレクトロン(写真:時事)

企業の財務面の総合力を見るために作成している「東洋経済財務力ランキング」。今回は18回目の発表で、成長性、収益性、安全性、規模の4つのカテゴリーで、それぞれの財務指標(3年平均)を多変量解析の「主成分分析」で相対評価し、各得点を合計して作成している。


『CSR企業白書』2023年版(東洋経済新報社)。書影をクリックすると東洋経済STOREのサイトにジャンプします

使用している財務指標は、財務諸表分析では基本的な項目が中心だ。このうち収益性、安全性、規模の3つの得点は「CSR企業ランキング」の財務得点としても使っている。

対象は2023年9月1日に上場している一般事業会社(銀行、証券・先物、保険、その他金融は除く)で2023年3月期までの財務データを対象に成長性、収益性、安全性、規模の4つの得点が算出できた3240社だ。今回は、このうち上位300社をご紹介する。

4年ぶりにトップになった東京エレクトロン

ではランキングを見ていこう。トップは4年ぶりに返り咲いた東京エレクトロンで総合得点は3913点だった。同社は半導体製造装置で世界3位。成長性965点、収益性948点、安全性1000点、規模1000点と各分野とも高得点で昨年2位から順位を上げた。

世界的な半導体市場の拡大で売上高は2021年3月期の1兆3991億円が2023年3月期には2兆2090億円と57.9%上昇。営業利益も同3206億円から6177億円に倍増するなど成長性得点が昨年901点から965点に大きく伸びた。

2位は昨年首位の中外製薬(3872点)がトップからダウンした。12月決算のため、2022年12月期までが対象で成長性924点、収益性948点、安全性1000点、規模1000点と安全性、規模がとくに高得点だった。

売上高は2019年12月期の6861億円が3年後の2022年12月期には1兆2599億円と83.6%増加した。純利益は同じく1575億円から3744億円に2.38倍となっている。売上高営業利益率、ROE、ROAなど利益率の高さで収益性得点も高レベルとなっている。

ただ、2022年12月期まで業績に貢献したコロナ治療薬「ロナプリーブ」も2023年12月期は売り上げが減少。ここ数年見られた高成長は難しくなってきた。

3位の日本郵船は昨年8位からランクアップ

3位は日本郵船が、昨年8位からランクアップ(3843点)。ばら積み船の市況高騰や物流事業の運賃上昇などで売上高は2年で1.6倍に。昨年も156位から8位に急上昇したが、今年はさらに上がりベスト3入りとなった。

海運大手3社の商船三井、川崎汽船とともに共同出資で運営するコンテナ船事業がコロナ禍の運賃高騰で利益に大きく貢献。このコンテナ船事業の業績は関連会社の利益として営業外損益の持ち分法投資損益に計上され経常利益の増額となる。

売上高経常利益率を見ると2020年3月期2.7%、2021年13.4%、2022年44.0%、2023年42.4%とその影響の大きさは明らかだ。これに伴い、当期利益を使ったROEは2020年3月期の6.7%が2021年22.2%、2022年58.8%、2023年40.8%と超高収益になった。こうした効果もあり海運業界初のトップ3位入りとなった。

4位は信越化学工業(3828点)が昨年5位から上昇。半導体シリコンウエハで世界首位の同社も半導体好業績が寄与。成長性898点、収益性930点、安全性1000点、規模1000点といずれも高得点だった。

5位はルネサスエレクトロニクスの3806点。同社は自動車向け半導体メーカー大手で自動車用マイコンのシェアが世界首位だ。半導体市場の好況の中、93位→16位→5位と順調にランクアップしてきた。

6位は昨年103位から急上昇の川崎汽船(3805点)。日本郵船と同じくコンテナ船事業が好調で巨額の持ち分法投資利益で経常利益が急拡大した。2022年3月期は売上高7569億円で営業利益は176億円だが、経常利益は6575億円で売上高経常利益率は86.9%。2023年3月期も売上高9426億円に対して、経常利益6908億円で売上高経常利益率は73.3%と通常ではありえない利益水準となった。3期平均ROEも56.1%と創業100年を超える企業として、驚くべき業績を挙げている。

7位はLINEヤフー(昨年はZホールディングス)が3802点で4位からダウン。8位はINPEX(3799点)が24位から上昇した。以下、9位キーエンス(3791点)、10位住友金属鉱山(3778点)が続く。

11位以下で大きく順位を上げたのは、98位→28位の丸紅(3684点)、117位→31位の商船三井(3681点)、327位→78位の日産自動車(3591点)などだった。

主要業種のトップ企業は?

続いて、主要業種のトップ企業を見ていこう。水産・農林業/鉱業/建設業は8位INPEXが30位大和ハウス工業(3682点)、33位住友林業(3680点)を抑えトップ。食料品は39位JT(3667点)が82位味の素(3583点)などを上回った。

パルプ・紙/化学は4位信越化学工業が41位富士フイルムホールディングス(3664点)以下を大きく引き離す。医薬品は2位中外製薬が業種トップだった。

石油・石炭/ゴム/ガラス・土石は47位ブリヂストン(3652点)がトップで、60位出光興産(3624点)が続く。不適切行為の問題で社長交代となった70位ENEOSホールディングス(3607点)は業種3位だった。機械は16位ダイキン工業(3740点)が18位SMC(3739点)を僅差で上回った。

電気機器/精密機器は総合1位東京エレクトロン、5位ルネサスエレクトロニクスなど半導体関連企業が上位。輸送用機器は18位いすゞ自動車(3739点)がトップ。20位デンソー(3737点)、23位の豊田自動織機とスズキ(3704点)が続く。

電気・ガス業は14位東京ガス(3746点)が61位大阪ガス(3620点)を上回った。

業種別トップ企業の一覧

陸・海・空運/倉庫・運輸は3位日本郵船、6位川崎汽船、31位商船三井の海運大手3社が独占。情報・通信業は7位LINEヤフー(3802点)、11位NTTデータグループ(3775点)が2強。83位KDDI(3582点)などを圧倒した。

卸売業は16位三井物産(3740点)がトップ。28位丸紅(3684点)、37位豊田通商(3669点)、44位三菱商事(3660点)の順番になった。

小売業は22位ファーストリテイリング(3710点)に28位セブン&アイ・ホールディングス(3684点)が上位。不動産業は42位オープンハウスグループ(3662点)が47位三井不動産(3652点)、79位三菱地所(3590点)を上回った。

サービス業は13位リクルートホールディングス(3757点)が91位セコム(3558点)などを大きく離した。


過去17回のランキングトップ企業の現状

最後に過去17回のランキングトップの現状をご紹介する。第1・2回トップの武田薬品工業は74位(3595点)。第3〜5回の3年連続と15・16回トップの任天堂は12位(3764点)。

4年連続トップ(第6〜9回)だったINPEXは8位(3799点)、第10・11回トップのSUBARUは36位(3674点)。第12・13回トップのLINEヤフーは7位(3802点)。昨年トップの中外製薬は2位、東京エレクトロンは2回目の1位と過去のトップ企業はいずれも100位内に残っている。


会社四季報オンラインのスクリーニングで調べると、今期の最高益更新企業は1089社となった(2024年1月11日時点)。2024年3月期は依然好業績が続く見込みだ。次回のランキングも上位企業の順位争いは激しくなりそうだ。

1〜50位


51〜99位


101〜150位


152〜199位


201〜250位


253〜297位


●第18回東洋経済・上場企業財務評価(東洋経済財務力ランキング)について

東洋経済新報社「財務・企業評価チーム」が作成。東洋経済が保有する財務データを使い、多変量解析の主成分分析手法で成長性、収益性、安全性、規模の4つの分野で評価した。

対象会社は原則として2023年9月1日時点に上場している一般事業会社で、銀行、証券・先物、保険、その他金融を除き、各新興市場を含む。決算期は2023年3月期までが対象。財務データは上場後の決算で直近3期平均(最低1期は必要)を使用。指標データなどで分母がマイナスになり計算できない場合、その期は「計算不能」となる。

決算ベースについては、各期とも連結優先。ただし、連結開始や廃止などで連結と単独が混在する場合もある。また、変則決算がある場合は6カ月以上の決算期のみ使用。売上高、営業利益、経常利益、当期純利益などのフロー項目は12カ月に調整した。

分析手法として使ったのは多変量解析の主成分分析。この手法は多数の変数を要約し、少数の情報で全体の特性を代表させることができる。財務データのような多数存在する項目を少ない情報に集約でき、総合評価が可能になる。

主成分分析で求められた第1主成分得点を偏差値化し、異常値をならすために最大70、最小30に変換。さらに最高1000、最低500に調整して各分野の得点とした。4つの評価分野の各得点を合計したものが総合得点となっている(総合得点の最高は4000点)。

■ランキング算出に使用した財務指標

【成長性】売上高増減率、営業利益増減率、営業キャッシュフロー増減率、総資産増減率、利益剰余金増減率
【収益性】ROE(当期純利益÷自己資本)、ROA(営業利益÷総資産) 、売上高営業利益率(営業利益÷売上高)、売上高当期純利益率(当期純利益÷売上高)、営業キャッシュフロー
【安全性】流動比率(流動資産÷流動負債)、D/Eレシオ(有利子負債÷自己資本)、固定比率(固定資産÷自己資本)、総資産利益剰余金比率(利益剰余金÷総資産)、利益剰余金
【規模】売上高 、EBITDA(税引き前利益+支払利息+減価償却費)、当期純利益、総資産、有利子負債
注)EBITDAの支払利息と減価償却費はキャッシュフロー計算書掲載の数字を使用

主成分分析は多数のデータをまとめる手法

最後に主成分分析での評価のやり方を主要自動車6社の2023年3月期までのデータを例として簡単にご紹介しておくので参考にしていただきたい。


■線形結合(1次式)とその制約条件

Z=a×売上高営業利益率+b×売上高増減率+c×ROE+d×自己資本比率

制約条件:a^2+b^2+c^2+d^2 =1
Z:主成分(変数の数だけできる。この例だと4つできる。Z ^1・・・Z^4)
a、b、c、d:係数

主成分分析は、こうした多数の変数からなるデータを、情報量を減らさずに新しい変数(主成分)に集約することを目的とする。具体的には、元の変数の線形結合(1次式)を分散(バラツキ)が最大になるように作成する(=係数の値を決める)。係数と指標の関係が適切であれば、評価値としても使える。

■この例で主成分分析を行うと4つの主成分(第1〜第4主成分)が求められる

・ 第1主成分(Z^1)
Z1 =0.57×売上高営業利益率+0.35×売上高増加率+0.55×ROE+0.51×自己資本比率
寄与率:65.3%

・ 第2主成分(Z^2)
Z2 =‐0.11×売上高営業利益率‐0.87×売上高増加率+0.39×ROE+0.29×自己資本比率
寄与率:22.1%

・ 第3主成分(Z^3)
Z3 =‐0.53×売上高営業利益率+0.20×売上高増加率‐0.29×ROE+0.77×自己資本比率
寄与率:10.5%

・ 第4主成分(Z^4)
Z4 =0.62×売上高営業利益率‐0.30×売上高増加率‐0.68×ROE+0.25×自己資本比率
寄与率:2.2%

(注)寄与率は、その主成分が全体の情報をどのくらい集約しているかを示す。第1主成分の寄与率は65.3%だったので、1つの主成分で全体の7割近くの情報を集約していることになる


(岸本 吉浩 : 東洋経済 記者)