観光客に人気の坊っちゃん列車も運転士不足から運休に追い込まれた(編集部撮影)

路線バスの運転士不足。以前からたびたび指摘されていた問題だが、昨年あたりからより一層深刻化し、減便するバス路線が続出するなどの報道が多くなっている。

坊っちゃん列車も運休

大阪府の富田林市など南河内地域を走っていた金剛自動車の路線バスは運転士不足を理由に昨年12月、すべての路線から撤退した。今や全国規模で、バスの運転士不足が社会問題化している。

しかし、運転士が不足しているのはバスだけではない。路面電車の運転士も全国で不足している。愛媛県の伊予鉄道は、運転士不足により通勤通学で利用する通常の生活路線の減便まで追い込まれており、2023年11月3日から名物の観光列車(坊っちゃん列車)を当面の間運休している。

高知県のとさでん交通も同年11月から当面の間、平日ダイヤを一部減便して運行している。やはり、運転士不足を理由に挙げており、平日は609便の運行をしてきたが、現在は580便まで減便している。

減便の事情に関して、とさでん交通の担当者に話を聞いた。同社によると、「運転士不足が目立つようになってきたのは、5年くらい前から。徐々に人員不足となり、時間外にて対応している」という。

今までは運転士の時間外(残業)を行うことで対応し、運行管理部門の免許保有者(事務系職員等)によって、ラッシュ時間帯の応援を実施、および貸切電車の運行に対応し、人員を補ってきた。「運転士の負担を軽減するために、現在も継続中」とのことだ。今後も運転士1人ひとりの負担軽減を目的に、事務系職員等の免許保有者による運行を続けていく。

2016年からは、新たに高校新卒者の採用も開始している。ただし、「免許取得年齢の20歳に到達するまでは、技術・営業関係の部署での勤務を行う」という。中途採用においては、20歳以上であれば、上限なしで受験が可能である。

2〜3年在籍後、同業他社などに転職

筆者は「電車の運転士」という職種が、なぜ人材集めにここまで苦労するのかと疑問だった。その疑問に担当者は、「近年、人口減少と少子高齢化により地元出身者の応募が少なく、採用している運転士の半分が県外出身者。その中のほとんどが2〜3年在籍後、地元に戻り、同業他社やほかの職種に転職してしまう。採用と退職のバランスが崩れ、人員不足に陥っている」と説明する。免許を取得して、地元やほかの事業者に転職していってしまう。地方交通ならではの事情のようであった。

また、長崎電気軌道でも2023年5月15日から、運転士不足から路面電車の減便を行っている。福井県の福井鉄道でも同様の理由で、同年10月14日のダイヤ改正から減便を行っている。福井鉄道では正常通りのダイヤで運行するためには、28人の運転士が必要だが、10月の時点で必要人数を大きく下回っている。

路面電車の運行を行う各事業者は、人員確保のための対策を講じている。その中でも変わった試みをするのが、岡山県岡山市の市街地を走る岡山電気軌道。同社が2023年11月7日に発表した内容を見ると、「路面電車運転士の運転体験会(採用説明会)」とある。「運転体験会」といえば、小さな子どもたちを含めた鉄道ファン向けの地域貢献を目的とした楽しいイベントと考えられるが、「採用説明会」と付け加えられると、その目的はまったく異なるものになる。

内容は採用説明会と運転体験会がセットで行われ、その後希望者を対象に「適性検査」が行われる。訓練は、各事業者で行われることがほとんどだが、教習なども長い時間をかけて行われる。たとえばとさでん交通では、「採用後は免許を取得後、教育期間を終了し、約6カ月後に電車運転士として独り立ちとなる」。

外国人の雇用にも難点がある

運転士不足の解消策としては今後は法律の改正などによって、外国人労働者の雇用や自動運転技術の向上なども考えられているが、外国人を運転士として雇用する場合は、日本の交通事情による「安全に対する考え方」という基本の部分から教育していかなければならないし、自動運転に対しても、技術はもとより、利用者に対して信頼を得るという繊細な部分も築いていかなければならない。どちらも軌道に乗るまでには時間がかかりそうだ。

とはいえ、公共交通は、人々が生活していく上での欠かせないインフラである。今後もあらゆる方法を駆使して、人員の確保を目指し、公共交通を守っていく必要がある。

(渡部 史絵 : 鉄道ジャーナリスト)