「すき家」「なか卯」「ココス」などを運営する外食最大手・ゼンショーホールディングスが、M&Aをさらに加速させるようだ(撮影:今井康一)

「すき家」「なか卯」「ココス」などを運営する外食最大手・ゼンショーホールディングスが、公募増資などで最大500億円を調達すると発表しました。日本初の外食ジャイアントの現状は、どのようなものになっているのでしょうか。

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ゼンショーホールディングスの続伸

ゼンショーといえば、以前のイメージは「すき家」「なか卯」「ココス」だった。しかし、現在では「はま寿司」「ロッテリア」をも有する外食ジャイアントとなっている。多くのチェーンを飲み込み、外食の多様化を図ってきた。

その、ゼンショーホールディングス株。先月、10月25日に高騰して話題になった。終値は前日比+336円の7524円。理由は、同社が海外店舗を1万店に拡大する意図を受けたものだった(執筆時点では同社株は8364円にまでさらに上昇している)。

日本の飲食勢ではじめての海外1万店舗のインパクトは大きかった。日本市場は中長期的に伸びないことを見越して海外に積極展開するなかで、海外のチェーンをM&Aで買収を重ねてきた。

ゼンショーホールディングスは、コロナ禍で2021年にはさすがに前年比割れしたとはいえ、そこから順調に売上高も利益も伸ばしてきた。日本もインフレ下で価格が上昇しているものの、海外市場に拡大することで、より多くの収益を得られる。

海外旅行にいった日本人が、海外の外食価格の高さを嘆いてみせるのは、もはや食傷気味になっているほどだ。ならば、その外食価格の高さを逆利用してやればいい、と考えてもおかしくはない。

アジア、アメリカ、南米など、世界各地に進出を緩めないさまは、外食チェーンならびに、日本企業のお手本ともいえるだろう。以前に店舗人材の面で世間を騒がせたことがあったため、人材育成にも力を入れている。

そこで、最新の決算状況から、さらにM&Aを加速するさままでを見ていこう。

中間決算の状況


コロナが明け、大きく業績が回復している(出所:ゼンショーホールディングスの決算資料)

そこで先日、発表されたばかりの中間決算発表(2024年3月期 第2四半期)を見てみよう。

・売上高:4526億円(前年同期比+20.5%)
・経常利益:244億円(前年同期比+78%)

上記のとおり好調だった。通期の決算報告も対前年比で順調に伸びている。

・売上高:9600億円(前年同期比+23.1%)
・経常利益:480億円(前年同期比+70.9%)

なお、まだとくに日本ではコロナ禍が完全に収束していないなか、ロシア・ウクライナ戦争の長期化、イスラエル・ハマス戦争の不透明さ……等による原材料価格の高止まりなど、外食産業全体としては、明るいニュースばかりではない。

しかし、そのなかで世界に展開するゼンショーホールディングスは善戦している。

各セグメントを前年比売上高で見てみると下記となる。

・グローバルすき家:118.1%、
・グローバルはま寿司:110.2%、
・グローバルファストフード:114.1%
・レストラン:126.4%、

ほぼ一様に上昇している。また、店舗数はフランチャイズを含むが、1万4740店(!)となっている。

同社のチェーン店舗数内訳

ちなみに、これは意外に知られていないが、同グループは「すき家」のイメージが強い。なるほど、「すき家」は国内外を含めて2623店舗と多い。

ただ、もっと大半を占めるのが「グローバルファストフード」であり、このカテゴリには、Advanced Fresh Concepts Corp(寿司のテイクアウト店)、Sushi Circle Gastronomie GmbH(寿司チェーン)、SnowFox Topco Limited(寿司のテイクアウト店)が含まれており、国内外で1万0130店舗を誇る。寿司店のM&Aでシナジーを発揮する戦略がよくわかる。

日本人のイメージは「すき家」の牛丼かもしれないが、外形的には寿司チェーンといったほうが近いほど、多数のグローバル寿司チェーンを展開している。

同社は、MMD(マス・マーチャンダイジング・システム)と呼ぶ方式を採用している。これはサプライチェーンの上流から下流までを一貫して担い、さらに、その物量の多さで価格メリットも出そうというものだ。

商品の企画とテスト、原材料の調達・物流、加工から販売からカスタマー管理までを手掛ける。このMMDは、なるほど、拡大とともにその力を増していく。そのため、昨今は大型のM&Aを続けているのだろう。

新株式発行による資金のプール

そして、この流れのなかで発表されたのが、ゼンショーホールディングスの「新株式発行及び株式売出しに関するお知らせ」だ。実に、これからも積極的なM&Aを仕掛けていく姿勢が見れてすがすがしい。

ポイントでいうと、次のとおりだ。

・約522万株の公募による新株式発行を行う(なお同時に株式売出しも実施)
・一般募集および第三者割当増資により集まる予定金額は499億970万円
・全額をM&A待機資金とする

すき家で培ったオペレーションの卓越さを他ブランドでも展開。それを、さらに海外を含むM&Aにも拡張することで、さらに業態を拡大させる。この戦略は2030年までの7年間ほど継続され、たしかに、その姿勢はぶれているところはない。

とくに冒頭で紹介した通りに、決算が好調で、将来の見通しを示す株価も高いタイミングだ。海外を含むM&Aの待機資金という目的も明確な新株発行だ。市場も、そこに違和感がないだろう。

なお個人的な話だが、私は先日、地方の飲食店経営者から、コロナ禍におけるゼロゼロ融資(実質無利子・無担保)の返済期間が到来して困っている、という話を聞いたばかりだった。

もちろん地方でも元気なローカル店舗は多いと思う。しかも、たった数例からマクロを語るわけにはいかない。ただし私には、地方飲食店=日本ローカル、と、ゼンショー=グローバルの不調と好調の状況が、明暗のような、あざやかな対比に感じられた。

逆にいえば、日本で培ったオペレーションや食材・メニュー開発、さらには日本特有のこまやかさを最大限に生かそうと思えば、グローバルへの道に進むしかないと思われる。

ゼンショーホールディングスには、さまざまな批判もあるかもしれないが、私は日本初の外食ジャイアントの先人として応援したい。

(坂口 孝則 : 調達・購買業務コンサルタント、講演家)