親の子育ての方針を根本から変える、「OS」のアップデートが必要です(写真:プラナ/PIXTA)

【質問】

中3と小6の息子がいます。上の子は受験が近いというのに、家で勉強せずゲームばかりをやっています。たびたび注意をしますが、「うるさい!」「僕のこと信用できないの!」と言ってきたりしますが、それでも親として不安で、言っていけないと思いつつも言ってしまいます。今、しっかりやっておかないと将来が不安と思ってしまいます。いったいどう声かけすればいいでしょうか?

(仮名:倉田さん)

「ソフト」と「OS」で解決方法を考えると

筆者は35年以上教育に携わり、この10年ほどは毎年2000件の子育て、教育相談を保護者から受け、その1つひとつに回答してきました。そこからあることを感じています。

「相談内容によっては、“ソフトのインストール”で解決する場合と、“OSのアップデート”までしないと解決しない場合がある」

ソフトのインストールで解決するとは、「具体的な方法をお伝えして、その方法を実践すれば解決する」ということです。

OSのアップデートで解決するとは、「“考え方そのもの”を変えることで解決していく」ことを意味します。

例えば、ソフトのインストールの例としては、次のような相談内容がそれに当たります。

・計算ミスを無くすにはどうすれば?
・スケジュール管理はどうすればいいか?
・読解力を伸ばすためには?
・計算をスピードアップするには?
・英語のリスニングをどう伸ばしたらいいか?
・片付けができるようになるには?

以上のような相談内容については具体的な方法を実践することで解決に向かうことが少なくありません。もちろん、親や子どもの性格や気質によって対応方法は多少異なるため、状況を聞いたうえでその子に適した方法をお伝えします。100%確実に変わるとは言えないまでも、ある程度効果性が高い方法はあるため、悩みはそれで解決する場合が多いです。

しかし一方で、そのような方法論では解決しないケースがあります。それを解決するためには“OSのアップデート”が必要になります。

パソコンやスマホで例えれば、OSそのものが起動していないか、バージョンが古いOSであるために、ソフトやアプリがインストールできない状況にあるケースです。つまり土台にあたる根本部分をアップデートしないと、その先の具体的な解決方法は示せないということです。

もし具体的な方法を聞いて実践しても解決しない場合は、OSそのものに問題があるかもしれません。

子どもに対しての考え方を根本から変える必要がある

OSとは「考え方」のことです。例えば、次のような相談内容は、具体的な方法(ソフトのインストール)では解決せず、子どもに対しての考え方(OS)を根本から変える必要がある典型的なものです。ですから、このような質問や相談に対しては、表面的な方法や言葉かけでは変わらないため、別のお話をします。

・勉強をやらせようと思ってもやらない
・兄弟姉妹間の喧嘩が絶えない
・マイペースな子にイライラする
・勉強ができないと将来心配になる
・〇〇に夢中でご飯の時間に呼んでも来ない
・同じ年齢の子との比較をして自分の子にガッカリする
・子どもの短所ばかりが目につく
・子どもの言動にため息が出る
・どうすれば子どもの集中力が伸びるか?
・どうすれば子どもは勉強する子になる?
・反抗期に入った子と毎日バトル……

さて、ここからが本題になります。倉田さんの場合は、OSのアップデートが必要な状況にあると思います。つまり、子どもへの見方、考え方を変えていくことで、現在直面している問題を解決していく必要があります。

考え方を変えていくために筆者は7つの原則を提唱していますが、倉田さんにはその中から次の3つを紹介しますので、これらを意識してみてください。

(1)親が変わることで、子どもが変わる

子どもを変えたい、現状を変えたいと思う親御さんは、どうしても子どもに意識が向かいがちです。そのため、毎回同じ態度で、同じ言葉かけをします。「ゲームやりすぎじゃないの!」「そろそろ時間じゃない」「勉強はいいの?」など、これら同種の言葉を使って声かけをし続けます。

しかし、子どもはやりたくないことは何度言ってもやらず、さらに親側は言っても変わらない子どもに対して、「強く」言ったり、時には「強制的」にやらせたりすることもあります。同じ方向を向いたアプローチをしていては、毎回同じ結果にしかなりません。言い続けたところで、強く言ったところで本質は何も変わっていないからです。

子どもを変えるのではなく、親自身が先に変わる必要があります。「他人を変えることはできない。変えられるのは自分だけ」という言葉がありますが、子どもは他人の部類に入ります。自分の子どもは自分の分身ではありません。ですから、まずは自分が変わることで、結果として子どもの行動が変わっていきます。

子どもの行動ではなく、心を見る

(2)子どもの行動を変える前に、心を見る

次に、親が先に変わるということですが、どのように変わればいいのでしょうか。それは、子どもの行動に注目するのではなく、子どもの心の状態に注目していきます。例えば、やらない、ダラダラしているなどの表面的な子どもの状態を注視するのではなく、なぜやらないのだろうか、なぜダラダラしているのだろうかと子どもの内面的な気持ちの部分にフォーカスしていきます。これが、行動ではなく心を見るということです。

人は一般的に、行動が変わるためにはまず心が変わってから行動を起こすものです。それを親が無理やり子どもに行動(例:勉強させる)を促せば、当然子どもは反発、反抗してきます。とくに自我が出てくる年齢であればなおさらです。「人は心が変わってから、自発的に行動するようになる」という原理を知っておくとよいかもしれません。

すると次に、子どもの心をどのように変えていけばよいか気になると思います。それが次の3つ目です。

(3)上から目線より、水平目線

親から子どもを見ると、どうしても子どもは自分より“下”の立場にいると考える傾向にあります。そのため、親は上から目線の対応を取りがちです。親子で年齢差も相当ありますし、自分が産んで育てているという認識があるとなおさら、「自分が何とかこの子をしっかり育てなくては」と思うようになることは自然なことです。

しかし、子どもから親を見ると、親を自分よりも上の立場の人という認識はほとんどないと思われます。もし、親を上の立場と思っているのであれば、タメ口はきいてきません。反発、反抗などもってのほかです。江戸時代の武家社会のような封建的な家庭であれば、子どもはお父様、お母様と上の立場であるという認識があるかもしれませんが、現代社会において、そのような認識は薄いのではないかと思います。

したがって、「親は子どもを下に見る一方で、子どもは親を上には見ていない」ことでトラブルが起こっていると考えられます。ではどうすればよいでしょうか。

それは、子どもと対等の目線でいることです。対等とは、「子どもを1人の人格を持った人間として尊重して対応する」ということです。

すると子どもの置かれている状況、気持ちに意識が向かいます。いわゆる「共感」している状態です。

「共感」段階で終えておく水平目線

共感ができたら、次に心を変えてあげたい(やる気にさせたい)と思うかもしれませんね。しかし、これまでの筆者の経験では、ここで子どもの心を変えるのではなく、「共感」段階で終えておくことが適切だと考えます。変えようと作用すると、作用反作用の法則(押すと反発する)が働くため、子どもの気持ちを理解し、話を聞いてあげるだけで終えます。

これが水平目線ということです。すると、しばらくすると子どもが自主的に行動していくと思います。実は、親が子どもの心を変えようとせず、水平目線で話を聞いてあげることで、子どもの心は自然と変わるのです。

以上、倉田さんのご質問に対しては、声かけという具体的方法(ソフトのインストール)ではなく、子どもに対する認識、考え方を変えていくというOSのアップデートについてお伝えしました。OSのアップデートができると、これまで起こっていたほかの同種の諸問題は自然と解決していくと思います。ぜひ、この機会に3つの原則を試してみてください。きっとお子さんはぐんぐん伸びていくことでしょう。


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(石田 勝紀 : 教育デザインラボ代表理事、教育評論家)